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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

“終の棲家”の格差に愕然…人気の「サ高住」の厳しい現実 台所なし・浴室なしが大半

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
“終の棲家”の格差に愕然…人気の「サ高住」の厳しい現実 台所なし・浴室なしが大半の画像1
「Getty Images」より

 高齢者が安心して暮らせる賃貸住宅として、国が補助金を出して整備を進めているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)。人生100年時代の“終の棲家”として、その役割はますます高まっていますが、同じサ高住でも内実には大きな差があり、ピンとキリでは大違いです。できるものならピンのほうに入りたいものですが、そのためには若いうちからの準備が必要かもしれません。

2025年までに60万戸の建設を目指す

 国は超高齢化社会を目前にして、高齢者が安心して暮らせるように、サービス付き高齢者向け住宅の建設を進めています。サ高住を供給する事業者に対して、建設費の10分の1、改修費の3分の1を補助し、不動産取得税を軽減するほか、完成後の固定資産税についても当初5年間は2分の1にするなどの特例措置を実施しています。

 その結果、サ高住は図表1にあるように、着実に増加しています。2011年にスタートした制度ですが、2020年末現在、全国に7764棟、25万9272戸が供給されています。それでも国としては2025年までに60万戸を整備することを目標にしていますから、まだまだ十分ではありません。これからも全国各地でサ高住の建設が進むはずです。

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ピンとキリの格差が大きいサ高住

 サービス付き高齢者向け住宅は、高齢者が安心して暮らせるように、バリアフリー構造を有し、専門スタッフによる安否確認サービスなどを利用できる賃貸住宅です。仕様・設備のほか、介護・医療・生活支援サービスなど、利用できるサービスはさまざまで、ニーズに合わせて住まいを選択できるのが特徴です。

 俗に「ピンからキリまで」といういい方がありますが、サ高住もまさにそうで、格差が大きいのです。たとえば、建物もハイグレードマンションのような上質なものから、ワンルームマンションのようなシンプルで、どちらかといえばチープなつくりのものまであり、居室も先進の設備が付いたものから、キッチンや浴室さえない物件もあります。提供されるサービスもコンシェルジュ付きのホテルライクな住まいから、簡単な見守り程度のサービスしかない住まいまで、実にさまざまです。

25平方メートル以下が全体のほぼ8割に達する

 国が補助金を出しているのですから、サービス付き高齢者向け住宅として登録するためには、さまざまな基準が設けられており、それをクリアすることが補助金の条件になっています。ハード面では、床面積は原則25平方メートル以上、構造・設備が一定の基準を満たすこと、バリアフリー構造であること――などと定められています。

 しかし、実態をみると、図表2にあるように、64.2%は住戸の専有面積が18平方メートル以上20平方メートル未満であり、25平方メートル未満の合計は78.4%に達しています。サ高住の基準である「原則25平方メートル以上」というのがくせもので、居室以外に共同の食堂、浴室などを用意すれば、必ずしも25平方メートル以上でなくてもOKということになっているからです。

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台所や浴室のない物件のほうが多い

 実際、図表3にあるように、居室にはトイレや洗面などはほぼ100%付いていますが、台所は36.1%で、浴室は20.7%にすぎません。自分の部屋で炊事もできず、浴室は大浴場しかない物件が多いのです。投資用のワンルームマンションはおおむね20平方メートル台ですから、そこから台所と浴室を削ると20平方メートル以下になります。そんな貧相な内容のサ高住が多いのが現実です。

 事業者側にも言い分はあります。「浴室で倒れられるとたいへんなことになるし、キッチンは火事や火傷などのもとです」というわけです。だから、居室に浴室やキッチンのないサ高住が多いのですが、それも緊急警報装置の設置や見守りなどである程度はカバーできるのではないかという気もします。そうはいっても、サ高住の厳しい経営環境を考えれば、そこまでとても手が回らないということでしょうか。

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低額のサ高住に自分の意志で入居する人は少ない

 こうした低額型のサービス付き高齢者向け住宅の場合、入居前に見学にくるのは、ほとんどの場合、本人ではなく、家族だとのことです。子どもたちに決定権があって、本人は子どもたちの言い分に従わざるを得ない環境に置かれているのでしょう。

 居室にお風呂やキッチンがないような部屋に、自主的あるいは積極的に住みたいと思う人はまずいないでしょう。それでも、家族からすれば、自宅などで介護し切れなくなっているケースがほとんどでしょうから、本人には申し訳ないと思いながら、心身の負担感、また経済的な負担を考えると、こうした低額型のサ高住に入ってもらうのも、やむを得ない選択ということなのでしょう。

格差の大きさに愕然とすることも

 それも月額使用料の安さを考えると無理のないことかもしれません。サービス付き高齢者向け住宅のコスト負担はピンキリなのですが、図表4にあるように、入居一時金の負担がほとんどなく、月額使用料が10万円台という物件もあります。月額使用料のなかには、家賃のほか食費も含まれますから、これはギリギリの料金設定ではないでしょうか。サ高住として必要な設備やサービスを最低限の水準まで削っているのでしょう。

 当然ながら、この料金設定には、さほどの資産がなく、年金収入が頼りという人たちの存在が想定されているのでしょう。ですから、先に触れたように本人の意志ではなく、家族が止むなく入居させるというケースが多くなるのだと思われます。

 これでは、せっかく現役時代にがんばって働いてきた甲斐がありません。現代の“うば捨て山”とまではいいませんが、そうした施設に入居させられるのではなく、自分の意志でシッカリと“終の棲家”を選べるようにしておきたいものです。

図表4 サービス付き高齢者向け住宅の比較

①高額物件の例

専有面積  41.21㎡~87.24㎡

間取り   ワンルーム~3LDK

80歳入居時の前払い金  5616万円(51.31㎡の1LDK)

月額費用  19万1000円

(資料:東急不動産ホームページ

低額物件の例

専有面積  18.10㎡

間取り   ワンルーム

入居一時金 12万円

月額利用料 15.3万円(食費込み)

ハイグレードマンション以上の住まい

 実際、サービス付き高齢者向け住宅にもいろいろあって、図表4の①のような高額物件もジワジワと増えています。数の上では②の低額物件が圧倒的多数を占めているのですが、分譲タイプのマンションより仕様設備のグレードが高く、各種サービスが充実しているサ高住もあるのです。

 仕事柄そうした施設を見学することも少なくないのですが、そのたびに、人生の最後の格差の大きさに愕然とします。

 たとえば、東急不動産は早くから「グランクレー」シリーズとして、ハイグレードマンション並みか、それ以上の仕様・設備、サービスが揃ったサ高住を各地に展開しています。また、三井不動産レジデンシャルも、「パークウェルステイト」シリーズとしてシニアサービスレジデンスの展開をスタートさせています。

 こうした物件だと、フロントにはコンシェルジュが常駐し、来客の受け付けだけではなく、クリーニング取次ぎ、タクシー・各種チケットの手配などもしてくれます。入居者専用のレストランでは、アラカルトメニューなどが自由に選べて、記念日を想定したコースメニュー、アルコールの提供もあり、ボトルをキープできるところもあります。共用設備も充実し、パーソナルトレーナーがいるフィットネススタジオ、大手化粧品メーカーと提携した美容室まであったりします。

入居一時金は分譲マンション価格以上

 その分、低額型に比べると格段にコスト負担が大きくなります。先の図表4の①にあるように、入居時には一時金として数千万円の費用がかかります。サービス付き高齢者向け住宅は賃貸住宅ですから、これは所有権を所得するための費用でありません。あくまでも入居するための一時金であり、売却はできませんし、退去する場合にも返ってくるものではありません。

 しかも、月額コストは20万円前後と低額型の月額利用料より高くなります。この月額費用には食費は含まれていませんから、毎日のように館内のレストランで食事したり、居室まで配達してもらったりすると、それだけでも10万円、20万円とかかってしまいそうです。しかも、将来的に寝たきりに近い状態になれば、系列のケアハウスに移行できるシステムが用意されていますから、安心感もあります。できるものなら、“終の棲家”はこちら側を選択できるようにしておきたいものです。

 人生100年時代の長い老後をどこで過ごすのか。まさにピンとキリですが、ピンのほうに入るには、それなりの準備が必要。若いうちから、セッセと資産形成に励み、より豊かな老後を送れるようにしておかなければならないでしょう。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド2021~22


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