2020年10月26日に開会した臨時国会における、所信表明演説での菅義偉首相の“2050年カーボンニュートラル宣言”と、同年12月に経済産業省が2030年代半ばまでにガソリン車の販売を禁止し、電動車のみとすることを検討しているという報道は衝撃的であった。
いつもなら“弱者救済”などとして“軽自動車は対象外”となりそうなのだが、今回は“軽自動車も例外視しない”とのこと。報道では、電動車については、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(純電気自動車)、FCEV(燃料電池車)が含まれるとされるが、世界市場での電動化の動きを見れば、イギリスでは2035年にHEVすら販売禁止にすると表明しているので、日本の車両電動化の動きもBEVをメインとしたものにならざるを得ないだろう。
登録車なら、まだHEVはけっこうな割合で各メーカーがラインナップしているので、そこからのステップアップでBEVへ舵を切るというのはあり得る話だが、HEVも満足にラインナップが進んでいない軽自動車では、まずHEVの普及が急がれるところだろう。すでに軽自動車販売の世界では、ユーザーの電動ユニットへの興味の高さが販売実績に出てきていると言っても過言ではない状況になっている。
軽乗用車ではスズキがダイハツをリード
2021年4月1日に、全軽自協(全国軽自動車協会連合会)は2021年3月単月の軽自動車販売台数速報値を発表するとともに、2020事業年度(2020年4月~2021年3月)締めでの年間販売台数の速報値も発表した。それによると、ダイハツが54万9409台なのに対し、スズキが53万9396台となり、ダイハツが2020事業年度締め年間販売台数においてトップとなった。その差は1万13台、2019事業年度締めでもダイハツがトップであったが、2位のスズキとの差は3万3918台だったので、“トップ死守”というイメージがより強い結果となった。
軽自動車全体ではトップを死守したダイハツであるが、軽乗用車のみで見ると、ダイハツが40万4446台なのに対し、スズキが41万9966台となり、1万5520台差をつけてスズキがトップとなっている。2020事業年度の各月の販売台数推移を示したグラフを見ていただければわかる通り、軽乗用車ではたびたびスズキがトップとなり、軽乗用車事業年度締め年間販売台数でトップとなっている。
年後半にダイハツが巻き返しているように見えるが、これは暦年(2020年1月~12月)締め年間販売台数でのトップ死守を狙った自社届け出(主に販売実績の上積みのために、ナンバーのついていない在庫車にディーラー名義などでナンバーをつけた車両であり、これが中古車市場に未使用中古車として流通する)を積極的に行ったからではないかと考えられる。
軽乗用車では、なぜスズキがリードを取れるのか? 主に軽自動車を扱う未使用中古車専売店へ行ったときのこと。ナンバーだけついている各メーカーの未使用中古車が並んでいるので、「どのメーカーが人気ですか」と聞いたら、「スズキが、ハイブリッドということもあり人気が高いですね」とのことであった。
スズキは「ワゴンR」「スペーシア」「ハスラー」に“マイルドハイブリッド”エンジン搭載車をラインナップしている。ワゴンRとスペーシアはスズキ軽自動車の販売メイン車種であり、ハスラーは“スズキ軽自動車の最終兵器”と呼んでもいいヒットモデルとなっている。
一般的に、軽自動車の未使用中古車の購入を検討している人は、メーカーどころか車名すら意識しないで選ぶケースも多いと聞く。展示場で見ていたら、「あれ」「それ」といった会話で選んでいた。形やボディカラーが気に入るかどうかが最優先で、メーカーや車名にはこだわらないという買い方である。その中で、「ハイブリッドですよ」という点がスズキのハイブリッド搭載車の購入を後押ししているのは間違いないようである。
スズキは「アルト」と「ラパン」に“エネチャージ”というシステムを採用しており、マイルドハイブリッドのほか、このエネチャージも2030年代半ばまでの車両電動化における“電動ユニット”に含まれるのではないかとの話も聞いている。軽自動車ではスズキのほか、日産の「デイズ」と「ルークス」に“スマートシンプルハイブリッド”ユニット搭載車が用意されている。
いずれにしても、軽自動車には簡易式のハイブリッドはすでにいくつかあるが、ストロングハイブリッドは存在しない。ただ、技術的に搭載可能であっても、ストロングハイブリッドユニットとなると、かなりの価格アップになることは避けられない。BEVともなれば、いわば浮世離れした価格になってしまうだろう。
ただ、ダイハツは2021年度中にもHEV(ストロングタイプ)仕様の軽自動車を市場投入するのではないかといわれている。これは、政府の動きというより、スズキのマイルドハイブリッド車を意識したようにも思える。現状でも、お客からよく「スズキにあるのに、ダイハツは?」という声が出ていたようなので、とにかく電動ユニットを搭載する軽自動車を“なるはや”で出したいようである。
N-BOXを有するホンダは出遅れか?
スズキとダイハツ、日産の軽自動車では、電動ユニットについての動きがあるものの、「N-BOX」という軽自動車のトップセラーカーを有するホンダからは軽自動車の電動ユニットの話は聞こえてこないので、業界関係者もホンダの動きには注目している。
軽自動車の通称名(車名)別の2020暦年での年間販売台数を見ると、トップはN-BOXで、2位スペーシア、3位「タント」となっている。スペーシアは2019年が3位だったので、やはりマイルドハイブリッドの存在が効いたのかもしれない。電動ユニットの有無以外にもさまざまな要因はあるだろうが、2019年のN-BOXの販売台数を100とすると、同年のスペーシアは約65%なのに対し、2020年は約71%となっている。
ホンダは、登録車ではかなり複雑なハイブリッドシステムを採用しているのだが、それをそのまま軽自動車に応用するのはかなり難しい。車両搭載ではなくても、技術的な発表もない中では、現在開発中のダイハツにも出遅れていると言っても言い過ぎではないので、電動ユニットでN-BOXが足元をすくわれてしまうときも近いのかもしれない。
いずれにしろ、そう遠くない時期にダイハツも電動ユニット搭載車を市場投入してくるので、軽自動車も2030年代半ばを待たずに早晩、“電動ユニット搭載が当たり前(軽乗用車でのBEV登場可能性大)”となるようである。
(文=小林敦志/フリー編集記者)