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藤和彦「日本と世界の先を読む」

ロシア、よぎるソ連崩壊の悪夢…原油埋蔵量「枯渇」シナリオが現実味、寿命20年説も

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
ロシア、よぎるソ連崩壊の悪夢…原油埋蔵量「枯渇」シナリオが現実味、寿命20年説もの画像1
ロシアのプーチン大統領(首相官邸のHPより)

 4月末の原油価格は堅調に推移している(1バレル=60ドル台半ば)。インドやブラジルでの新型コロナウイルス感染拡大をめぐる懸念はあるものの、堅調な米経済指標をはじめとする原油需要の回復期待などが支援材料となっている。

 コロナ禍で低迷するリスクを抱える原油価格を下支えしてきたのは、OPECとロシアなどの大産油国で構成される「OPECプラス」である。OPECプラスは4月27日、共同閣僚監視委員会の会合を開催、「世界の原油需要の回復見通しに変わりはない」と判断して、5月から7月にかけて協調減産を段階的に縮小していく方針を確認した。

 OPECプラスは現在、サウジアラビアの自主減産(日量100万バレル)を含めて日量約800万バレルの減産を実施している。今回の決定により、OPECプラスの減産幅は5月、6月それぞれ日量35万バレル、7月は約44万バレル縮小し、サウジアラビアの自主減産幅は5月に25万バレル、6月に35万バレル、7月に40万バレル縮小することになる。これにより7月までにOPECプラスの減産規模は日量580万バレルとなる計算である。

 OPECプラスの今回の増産は、「原油価格の上昇が国内経済に悪影響をもたらす」と懸念する米国の意向を踏まえ、サウジアラビア主導で決定されたが、4月初めにこの方針が打ち出された際には原油価格の下落が懸念されていた。

 OPECプラスは、「今年の世界の原油需要は日量約600万バレル増加する」との強気の見通しを維持しているが、次回の閣僚級会合は6月1日に開催し、7月と8月の生産水準を検討するとしている。

 OPECプラスの協調減産は2022年4月まで続くことになっているが、ロシア第2位の石油会社ルクオイルの幹部は26日、「OPECプラスが目指す石油市場の均衡化は長期的な取り組みになる。気候変動をめぐる新たな現実を踏まえれば、恒久的なものになるかもしれない」との見解を示した。

ロシアの原油生産、開発条件が急速に悪化

 新型コロナウイルスのパンデミックは、脱炭素社会への流れを加速している。4月20日付本コラムで「世界の投資家は原油などの化石燃料は今後『座礁資産(社会の環境が激変することにより、価値が大きく毀損する資産)』となる可能性が高いとみている」ことを紹介したが、世界の石油会社も未来のエネルギー候補と目される「水素」の開発を真剣に検討し始めている。

 その中でもっとも意欲的なのは、イタリアの石油大手Eniである。同社は昨年、再生可能エネルギーへの移行と石油・ガス生産の段階的な縮小に向けての大規模な事業改革案を発表した。その内容は267億ユーロに上る負債をバランスシートから切り離し、その上で資本を調達し、将来の会社の基盤となる再生可能エネルギーと低炭素事業を構築するというものである。その一環として今年4月には西アフリカと中東の石油・ガス事業を分離させ、新たな合弁会社を設立することを明らかにしている(4月21日付ロイター)。

 原油が今後「座礁資産」とみなされるようになれば、中長期的に価格が下落することは避けられない。「価格が下がれば収入を確保するために増産しなければならない」という悪循環が起き、世界の石油会社は今後「冬の時代」を迎えることになる可能性が高いが、なかでも深刻な問題を抱えているのはロシアの石油産業のようである。

 ロシア天然資源・環境省のキセリョフ次官は4月、政府機関紙であるロシア新聞のインタビューで「ロシア産原油の可採埋蔵量は58年分あるとされているが、そのうち現在の条件下で利益が出るのは19年分のみである」と発言し、話題を呼んでいる。

 エネルギー省のソロキン次官も今年1月、「エネルギー政策」という雑誌に投稿した論文のなかで「ロシアの原油可採埋蔵量は約300億トンとされているが、このうち現在のマクロ経済条件下で利益が出るのは36%のみである」としている。ロシアのここ数年の年間生産量は約5.5億トンであることから、ソロキン氏の見解でも「利益が出る部分(36%)のみをカウントすればロシア産原油の『寿命』は20年弱」となる。

 ロシア政府幹部が相次いで「自国産原油の寿命が20年に満たない可能性がある」と語っているわけだが、2020年6月にロシア政府が採択した「2035年までのエネルギー戦略」で「2035年時点の原油生産量は良くて現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と見込んでいる。悲観的な予測の根拠となる要因としては、ロシアの原油生産に関する開発条件が急速に悪化していることが挙げられる。

 ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯である。巨大油田が集中し、生産コストが低かったが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、減産フェーズに入っている(過去10年で10%減少)。現在の原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないが、2014年のロシアによるクリミア併合に対する欧米の経済制裁が続いている中では技術・資金両面の制約があり、期待通りの開発が進んでいない。

 ロシアの石油産業は同国のGDPの15%、輸出の40%、連邦財政の歳入の45%を占める経済の屋台骨である。ソ連崩壊を招いた大本の原因は、1980年代後半の原油価格の急落だったといわれている。プーチン大統領登場と時を同じくして世界の原油価格は上昇し、ロシアは大国の地位に復活できたが、自国の原油埋蔵量の枯渇という未曽有の事態に直面すれば、再び苦境に立たされてしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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