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「綱川社長には、まったく期待できない」 東芝、再び経営混乱が極まる…外資ファンドに翻弄

文=有森隆/ジャーナリスト
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東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)

 自業自得を絵に描いたような地獄絵の株主総会だった――。

 東芝が6月25日に開いた定時株主総会で、永山治取締役会議長(中外製薬名誉会長)の再任案が否決された。株主総会では11人の取締役の選任が提案されたが、永山氏だけでなく監査委員会委員を務める小林伸行氏(公認会計士)の再任も否決された。当初、13人の選任を諮る予定だったが、調査報告書での厳しい指摘を受け、監査委員会委員長の太田順司氏(元新日本製鐵常務)ら2人は事前に取り下げていた。

 取締役会は9人となる。議長だった永山氏の退任が決まり、東芝の経営混乱は必至だ。

2020年の株主総会の運営は不公正

 3月の臨時株主総会で選任された調査人は「2020年の株主総会の運営は公正ではなかった」とする報告書をまとめていた。6月25日の株主総会の最大の焦点は永山氏が再任されるかどうかだったが、「物言う株主」を中心に「再任は不適切」との判断を下したことになる。昨年の株主総会をめぐっては、「大株主の議決権行使を妨げた」問題に関して、経営陣の責任を問う声が高まり、経営のカジ取りのキーマンだった永山氏の責任の追及は総会直前にピークに達していた。

 永山氏の再任に関しては、指名委員会委員長として太田氏を取締役候補にいったん指名したことの責任を厳しく問われたわけだ。再任された綱川智社長は「株主をはじめとする利害関係者との信頼関係に努める」と述べたが、「物言う株主」と経営陣との信頼の糸はぷっつりと切れてしまった。

3Dインベストメント・パートナーズは「きわめて画期的」と高く評価

 ロイターは6月25日14時19分、<東芝の第2位の大株主である3Dインベストメント・パートナーズが株主総会の結果を高く評価する、とするコメントを発表した>と報じた。

<「極めて画期的なものであったと高く評価する」。(中略)3Dは永山氏のほか監査委員会委員の小林伸行氏の辞任を求めていた。3Dは「新たな取締役会を心から歓迎する」とした上で、「建設的な対話を通して最大限支援する」と表明した>(ロイター)

 できるだけ早い時期に臨時株主総会を招集して、永山氏にかわるべき、知名度の高い経営者を新たな取締役会議長とする人事案を提示する必要がある。しかし、混乱の度を深めている東芝の経営のカジ取りを担う有力な経営者がおいそれと現れるとは思えない。

「『物言う株主』との融和、というより妥協しか考えていない綱川社長には、まったく期待できない」(東芝の若手社員)だけに、東芝は速度を速めつつ沖へ沖へと流されていくことになる。壮大な漂流劇の始まりとならなければいいのだが。

 一方、東芝の車谷暢昭・前社長と“共犯関係”にあったと調査報告書で糾弾された経済産業省は、永山氏の再任拒否の結果をどう受け止めるのだろうか。“経済安保”の大前提となるのが、企業本来のガバナンス(企業統治)であることを肝に銘じる必要があるのではないのか。

永山氏続投拒否までの道程(みちのり)とこれから

 海外の機関投資家からは永山氏らの選任に反対票を投じる動きが相次いだ。公的年金を運用するカナダ・ブリティッシュコロンビア州のBCIや米フロリダ州委員会、ノルウェー銀行インベストメント・マネジメント(NBIM)のほか、米投資銀行のカルバートがノーを突きつけた。永山氏続投への反対は議決権行使を助言する米大手2社が推奨しており、再任反対は幅広く、しかも急速に広がった。

 東芝の株主の内訳はこうだ。海外比率がおよそ5割。経営側と対立する「物言う株主」、投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネジメント(議決権ベースの保有比率10%)、3D(7%)、ファラロン・キャピタル・マネージメント(6%)などが並ぶ。国内の金融機関などが27%で、個人が21%という構成である。

「これ以上の混乱を避けたい」と国内の金融機関は永山氏の続投を支持したが、議長だった永山氏にも責任があると判断した株主は反対票を投じたことになる。株主総会では取締役の7人の再任、4人の新任の選任を諮った。永山氏だけでなく、監査委員会の委員を務める小林伸行氏の再任も否決された。当初13人の選任を諮る予定だったが、調査報告書を受け、監査委員会委員長の太田順司氏、同委員の山内卓氏(元三井物産副社長)の2人は取り下げていた。

 東芝には、取締役会議長は社外取締役から選ぶルールがある。永山氏は中外製薬の名誉会長。ソニーグループの再建を取締役会議長として支えた実績がある。永山氏に代わる人材を社外取締役として選ぶのは簡単ではない。東芝の混迷は一段と深まる。

暫定議長に綱川氏、社外取締役一人が辞任申し出

 東芝は6月25日午後、可決された綱川社長ら取締役9人による取締役会を開き、暫定措置として綱川氏が議長を務めることを決めた。株主総会で承認された社外取締役のジョージ・オルコット氏から取締役辞任の申し出があり、受理された。オルコット氏は投資銀行出身で、キリンホールディングスやデンソーなどの社外取締役だが、辞任の理由を「総会後の体制を踏まえ、自身の貢献の仕方とその可能性を再考した結果」とした。

 東芝はできるだけ早く臨時株主総会を開き、社外取締役を選任する方針だ。経済産業省は6月25日、東芝の株主総会を受け、「東芝には株主との対話を通じたコーポレートガバナンスの向上を図りつつ、国の安全の確保にとって重要な事業や技術の安定的な発達が図られることを期待している」とのコメントを発表した。だが、永山氏ら2人の取締役再任案が否決されたことには言及しなかった。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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