ビジネスジャーナル > 企業ニュース > リゾート婚のワタベウェディング苦境
NEW

リゾート婚のワタベウェディングが苦境、なぜキャベジンコーワの興和に完全子会社化された?

文=編集部
【この記事のキーワード】, ,
リゾート婚のワタベウェディングが苦境、なぜキャベジンコーワの興和に完全子会社化された?の画像1
ワタベウェディング HP」より

 婚礼大手ワタベウェディング(東証1部)は5月28日、メルパルク京都で臨時株主総会を開き、繊維や医薬品の興和(名古屋市、非上場)の完全子会社となる議案を議決した。5月末に興和を引受先とする第三者割当増資で20億円を調達。株主からは1株180円で株式を買い取る。千趣会など大株主からは株式の一部の無償譲渡を受ける。一連の手続きを経て、東証1部への上場は6月28日付で廃止となる。

 ワタベは海外挙式の草分けだが、新型コロナウイルス感染拡大で挙式の中止・延期が相次ぎ、経営が悪化。3月19日、私的整理の一つである事業再生ADR(裁判所以外の紛争解決)の手続きを申請し、5月27日に成立。負債総額の約半分にあたる90億円の債務免除を含む再建計画について銀行団の同意を得た。残る債務は2030年までの期間で返済する予定だ。興和の傘下で経営再建を目指す。

 興和はホテルを運営しており、ブライダル事業との相乗効果を期待している。ワタベは1953年、京都市でワタベ衣裳店として創業。敗戦後、物資不足で婚礼衣装を揃えられない花嫁のために、渡部フジ氏が自身の振り袖を無償で貸し出したのが始まり。団塊の世代が婚礼適齢期を迎えた高度成長期にブライダル事業に参入。2代目の渡部隆夫氏が米ハワイに出店。「リゾート婚」の名前で大々的に売り出し、海外挙式の火付け役となった。

 96年、ワタベウェディングに社名を変更。97年、ブライダル業界で初めて株式を上場。2004年、国内最大の結婚式場・目黒雅叙園(東京・目黒区)を子会社にして、国内の挙式事業へ進出した。

 多くのカリスマ経営者がそうであるように、隆夫氏から息子の秀敏氏への権限譲渡はうまくいかなかった。秀敏氏は08年、42歳で社長に就任した。国内の婚礼市場は団塊の世代の婚礼適齢期がピークを過ぎた2000年以降、少子化や晩婚化などの影響で縮小が続いた。今やカップルの3分の1は挙式も披露宴もしない時代だ。「なし婚時代」をウェディング業界はどう生き残るかが大きなテーマとなっている。

 秀敏氏(現会長)は社長就任当時から「父と同じやり方では通用しない」と周囲に語っていた。隆夫氏を支えてきた役員体制を一新し、異業種に進出する。社長就任直後の08年、メルパルク(旧・郵便貯金会館)を買収。ホテルと宴会を収益の柱に据えた。

 秀敏氏が経営を引き継いでから経営が悪化。14年3月期35億円、15年3月期18億円と連続して最終赤字を出した。ここで秀敏氏は大胆な戦略転換を図る。15年7月、カタログ通販の千趣会と資本提携した。千趣会はTOB(株式公開買い付け)を実施。ワタベ株式を33.98%保有する筆頭株主となり、ワタベを持ち分法適用会社に組み入れた。

 すぐに両者の思惑の違いが表面化する。ワタベ千趣会傘下のディアーズと香港に共同出資会社を設立。新会社は、ワタベが持つ中国・上海とベトナムの婚礼衣装を生産する工場を運営。ディアーズの婚礼関係のコンサルタント事業の顧客基盤を生かし結婚式場などからの衣装のOEM(相手先ブランドによる生産)を倍増させることを考えた。

 一方、千趣会は、子会社でハウスウェディング事業をやっており、全国に23のゲストハウスを持っている。リゾート挙式に強いワタベと組むことで多様化する挙式ニーズに対応するのが狙いだった。

 しかし、ワタベは挙式は自前でやり、千趣会からゲストハウスを提供してもらうつもりでおり、両社は最初から同床異夢の関係だったことになる。渡部会長は、千趣会と手を切り、新たなビジネスモデルを確立するため、18年、MBO(経営陣が参加する買収)を提案した。だが、筆頭株主の千趣会が反対したため資金調達ができず、19年、MBOを取り下げるなど混乱が続いた。

 ワタベと千趣会のにらみ合いが続く最中、コロナ禍に見舞われた。ブライダル市場が落ち込み、ワタベは主力のリゾート婚需要が蒸発した。19年から12月期決算に変更した。それ以前は3月決算だったから19年12月期は9カ月の変則決算だったことになるが、売上高は390億円、純利益は7億円の黒字だった。

 20年12月期の売上高は単純比較できないが、実質、前年同期50%減の196億円に落ち込み、最終損益は117億円の赤字に転落。19年12月期に111億円あった純資産は、一転、8億円の債務超過に陥った。

 21年1~3月期の連結決算の売上高は34億円(前年同期比64%減)。特にリゾート婚の売上高は72%減の13億円と減少幅が大きかった。最終損益は58億円の赤字(前年同期は24億円の赤字)に悪化。純資産は64億円のマイナスとなり、債務超過額が拡大した。

 千趣会は通販事業の低迷を婚礼事業で補っていたが、婚礼需要も激減。20年12月期で39億円の純損失(前期は81億円の黒字)となり、千趣会はブライダル事業から撤退。3月23日、婚礼事業を投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズに売却すると発表。売却額は100億円程度といわれていた。

 婚礼事業の売却に伴って千趣会は、21年12月期連結予想を下方修正した。売上高は従来の910億円から760億円へ。純利益は20億円から11億円にそれぞれ引き下げた。

アベノマスクの興和がワタベを買収

 ワタベを買収する興和はどんな会社なのか。昨年、新型コロナウイルス対策として、安倍晋三首相(当時)が「1住所あたり2枚配布」とぶち上げた「アベノマスク」と呼ばれる布製マスクの提供企業だ。供給元5社のうち1社が興和で一躍、有名になった。

 興和の前身は1894年、名古屋市で創業した綿布問屋。紡績業に進出し、興和紡績として名古屋証券取引所と大阪証券取引所に株式を上場していた。09年12月、興和の三輪芳弘社長が代表取締役を兼務している興和紡績がMBOを実施。興和紡績は10年に上場廃止となる。現在、創業事業である紡績は行っていない。

 興和は専門商社としてグループを統括している。54年、興和新薬を設立して製薬業に進出して以降、医薬品事業が主力となる。胃腸薬「キャベジンコーワ」や外用鎮痛消炎剤「バンテリン」で知られる。19年に興和新薬を興和が吸収合併した。興和は上場していない。

 21年3月期の連結決算は売上高が20年3月期比3%減の4116億円、最終損益は52億円の黒字(前の期は10億円の赤字)だった。高脂血症の治療薬などの売り上げは伸びたが、子会社が運営するホテルナゴヤキャッスル(名古屋市)が建て替えのため昨年9月に営業を終えたことや、コロナ禍で名古屋観光ホテル(同)などが振るわなかった。22年3月期は売上高が前の期比13%増の4300億円、純利益は92%増の100億円を見込む。生活習慣病の治療薬の伸びを想定している。

 興和は19年、ハワイのワイキキのメインストリートの一等地に超高級ホテル「エスパシオ・ジュエル・オブ・ワイキキ」を開業するなどホテル部門を強化中だ。ワタベの買収によって自社のホテルで挙式を直営で行う体制が整う。コロナが収束してワタベのリゾート婚も復活すれば、創業家の渡部家ではなく、キャベジンコーワの興和が果実を味わうことになりそうだ。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

Business Journal

企業・業界・経済・IT・社会・政治・マネー・ヘルスライフ・キャリア・エンタメなど、さまざまな情報を独自の切り口で発信するニュースサイト

Twitter: @biz_journal

Facebook: @biz.journal.cyzo

Instagram: @businessjournal3

ニュースサイト「Business Journal」

リゾート婚のワタベウェディングが苦境、なぜキャベジンコーワの興和に完全子会社化された?のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!