
唖然とした人が多かったのではないか。経済産業省の20代の若手キャリア官僚2人が、コロナ禍での国の経済支援策のひとつである「家賃支援給付金」制度を悪用して約550万円をだまし取っていた疑いで逮捕された。この制度は同省が所管。身内の者による、許されざる不正受給である。
なぜ公務員倫理に反する事件が相次いだのか
同省所管の給付金を巡っては、昨年6月頃から不正受給が相次いだ。同省は不正を調査するために担当職員を置き、SNSやホームページで「不正受給は絶対に許しません」「不正受給は犯罪です」などと警告して、自主的な返納を呼びかけていた。逮捕された2人がそれを知らなかったはずはあるまい。
コロナ禍によって売り上げが大きく落ち込んだ中小企業や個人事業主への同省所管の給付金は、2020年5月に始まった「持続化給付金」と、7月開始の「家賃支援給付金」がある。法人の場合、持続化給付金は前年からの売り上げの減少分を最大200万円給付するのに対し、地代・家賃を補助するために作られた家賃支援給付金は、直前1カ月以内に支払った賃料をもとに算定され、最大600万円の給付がある。2人は、上限に近い金額をだまし取ったことになる。持続化給付金など、他のコロナ対策の制度を悪用していないか、余罪についてもしっかり捜査する必要があるだろう。
2人が不正な申請を行ったのは、昨年12月下旬から今年1月にかけてだ。この年の12月初めには、顧問先の従業員ら約100人に持続化給付金の不正受給を持ちかけていた疑いで国税庁OBの元税理士が大阪府警に逮捕され、被害額は1億円以上に上るとして大きく報じられた。また警視庁も、国立印刷局の20代の男性職員2人を持続化給付金の不正受給の容疑で逮捕、別の20代の男性職員2人を書類送検した。4人はそれぞれ100万円の給付金をだまし取ったとして起訴され、懲戒免職となった。
こうした事件の報道は、当然2人の目にも入っただろう。その直後に不正の申請を行っていたというのは、なんとも大胆としかいいようがない。制度や対策を熟知しているがゆえに、自分たちは絶対にバレないという自信があったのだろうか。
今回の事件を受け、梶山弘志経産相は「高い倫理意識を求められる国家公務員たる当省職員に、こうした案件が発生をしたこと、誠に遺憾であると思っている」として謝罪。未然防止できなかったかどうか検証する考えを示し、「全容の解明をふまえて厳正に対処するとともに、再発防止策を検討したい」と述べた。この検証はぜひ、第三者を交えて行ってほしい。
報道によれば、逮捕された2人は同じフロアで働いており、職場で証拠隠滅の相談をしていたという。実際、押収された2人の私用パソコンから、給付金申請に使用した書類のデータは削除されていた、という。
また一方の容疑者は、給料よりみはるかに高額な家賃のかかる都心のタワーマンションに住み、複数の高級外車を所有して高級腕時計などのブランド品を購入するなど、国家公務員らしからぬ派手な生活ぶりが目立ち、それが捜査の端緒になった、とも報じられている。職場の同僚や上司は、何も気づかなかったのだろうか。
不正な申請を行った時、容疑者のひとりは入省2年2カ月、もうひとりは入省してまだ8カ月だった。高い志を持って国家公務員になった者が、仕事をするうちに堕落していったと見るには、あまりに短い期間であるように思える。いったい彼らは何をやりたくて国家公務員になったのか。そのうちひとりは入省前から金遣いが荒く、金銭トラブルを起こしていた、との報道もある。今回のケースは、本来公務員になるべきではない不心得者を誤って採用してしまった結果の事件、ともいえよう。選考過程に、改善すべきところはないのだろうか。
また、2人が逮捕された日には、やはり経産省の男性職員が国会内の女子トイレを盗撮した容疑で逮捕されている。
なぜ、このような倫理に反する行為が続いたのか。