
新型コロナウイルスの国産ワクチンはまだ実用化されていない。コロナ禍の長期化、感染力の強い変異株の拡大と、国民のフラストレーションは高まるばかりだ。
国産ワクチンはいつできるのか。フロントランナーと目されているのは塩野義製薬だ。塩野義は国内で臨床試験(治験)中の新型コロナウイルスワクチンについて、年内に最大3000万人分の量産体制を整える。木山竜一・上席執行役員医薬研究本部長が6月10日付読売新聞WEB版のインタビューで明らかにした。
提携先の医薬品製造会社ユニジェンの岐阜県池田町の工場敷地内に新工場を5月に着工した。完成すれば、既存の生産設備と合わせて3000万人分のワクチン製造が可能になるという。塩野義のワクチンは「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」と呼ばれる。ウイルスの遺伝子情報を基に、昆虫細胞を使って人工的たんぱく質を培養してつくる。ヒトや動物の細胞を使う方法よりも大量生産に適しているとされる。すでにインフルエンザワクチンなどで実績がある。
塩野義はウイルスの増殖を阻害する治療薬も開発している。9月末までの治験入りを目指す。飲み薬での投与を想定しており、木山医薬研究本部長は「ワクチンは海外の後塵を拝したが、治療薬はどこよりも早く実用化したい」と意気込む。
塩野義は2020年12月、国内でワクチンの治験を始めた。開発と並行し、21年3月には協力会社のユニジェンで年1000万人分の生産体制を整えた。だが、大人数を集める最終段階の治験実施が難しく、早期に開発する壁となっていた。
手代木功社長は5月10日、リモートで開いた決算会見で開発中のコロナワクチンについて「条件が整えば年内に供給することが可能になる」との見通しを明らかにした。これまで実用化の時期を「未定」としていたが、手代木社長は「経営資源を集中投下し、コロナ禍の早期収束に貢献したい」と語った。
年末まで最大6000万人分の生産体制が整うと6月末に伝えられた。「3000万人分を目指してきたが臨床試験で1人当たりの投与量を抑え、倍の人数に接種できる可能性が出てきた」(同社)という。
ワクチンでは米ファイザー製などが先行する。大規模な治験への参加者を集めることが難しくなっていることが開発の壁となっている。塩野義では少人数でも有効性と安全性を評価できる枠組みを厚生労働省などと協議している。
参加者が集まらない場合などに特別に許可される「条件付き承認制度」の適用を受けることで「最終段階の治験と並行しながら、実際の投与を進められないか交渉している」(手代木社長)という。新型コロナ患者の重症化を抑える別の治療薬(候補)は、米国バイオスタートアップのバイオエイジが米国やブラジルなどで高齢者を対象に治験を進めている。