
横浜市の林文子市長(75)は7月15日、8月22日投開票の横浜市長選挙に4選を目指して無所属で立候補すると表明した。立候補表明はこの時点で9人目。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致について林氏は「経済活性化のひとつの核。横浜の将来にとって必要」と述べ、誘致推進の立場を鮮明にした。
IRは横浜港・山下埠頭(中区)の約43ヘクタールの土地に民営で建設する計画。カジノのほか、MICE施設(国際会議場や展示場)、エンターテインメント施設、最高級ホテルなどを一体的に運営する。
横浜市は菅義偉首相(72)のおひざ元だ。菅首相にとって「横浜への全国初のIR誘致」は第2次安倍晋三政権の官房長官時代から最優先としてきた政治課題といっていい。林氏は2017年の市長選で自民、公明両党の推薦を受け3選を果たしたが、IR誘致については「白紙」で選挙を乗り切った。当選後の19年8月、誘致を正式に表明した。
林氏は早くから「4選出馬に意欲的」(市政関係者)とされてきた。自民党がIRを推進する林氏を支え、立憲民主党など野党の支援を受けたIR反対派の候補と正面からぶつかるという構図が想定されていた。
誘致反対派はカジノ導入でギャンブル依存症が増えるとともに治安の悪化を懸念してきた。ところが、横浜市内ではIR反対の市民の声は根強く、「林氏の苦戦を予想した自民党横浜市連は多選などを理由に林氏を神輿(みこし)として担がない方針」に転換、独自候補の擁立を模索してきた。
菅首相と小此木氏の決別
6月25日、小此木八郎国家公安委員長(56)は、菅首相に辞表を提出。辞任と同時に、横浜市長選挙への出馬を正式に表明。「横浜へのIR誘致は取りやめる」と明言した。八郎氏の父・小此木彦三郎氏は神奈川県選出で、通産相・建設相を歴任した大物国会議員。その秘書として仕えていたのが菅氏という因縁がある。小此木八郎氏は菅氏から見れば旧主の息子にあたる。しかも菅氏と小此木氏の付き合いは45年を超す。小此木氏は、自民党内で冷や飯を食わされている石破茂氏に近い議員でもあった。
そんな小此木氏に“救済”の手を差し伸べたのが無派閥の盟主の菅氏だったという構図だ。昨年9月、自民党総裁選で小此木氏は菅陣営の選挙対策本部長に就任した。その小此木氏が横浜市長選に出馬し、菅氏が旗振り役を務めるカジノを含むIR誘致を「取りやめる」と明言したのである。
小此木氏の出馬の裏には、“横浜のドン”と呼ばれる地元の有力者・藤木幸夫氏がいるというのが、地元の一致した見方だ。横浜港ハーバーリゾート協会会長を務める藤木氏は、本拠地である山下埠頭へのカジノ誘致に絶対反対の急先鋒なのである。