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経歴詐称疑惑の土屋美和・世田谷区都議、ひた隠す「東亜総研」元職員の経歴…国際貢献活動への疑念

文・構成=編集部、協力=出井康博/ジャーナリスト
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土屋美和氏公式サイトより

 一般的に職務経歴書の記載は新しく追記されることがあっても、履歴の内容が年々書き換わったり、削除されたりはしないものだ。だが、政治家は別のようだ。

 今月4日に投開票された東京都議選の世田谷選挙区(定数8)で、菅義偉首相や自民党神奈川県連の強力な支援を受けて初当選を果たした自民党の土屋美和都議(43)。その学歴や居住地に関する詐称疑惑を「文春オンライン」(文藝春秋)が14日、報じた。

 同日公開の記事『「菅総理とメル友です」自民女性都議43歳に経歴詐称の疑い』では、選挙前に土屋氏が自身のホームページ上などに記載されていた「ニューヨーク大学経営大学院修了」の経歴が、選挙後に削除されていたことに着目。同大に問い合わせたところ、同大経営大学院で「学位をとったり、授業を受けていたりした記録はない」との回答があったのだという。また都選挙管理委員会に届け出た「現住所」に生活実態がない可能性を指摘している。

“地元”は世田谷区?

 文春の指摘以外にも、同氏の選挙公報や公式ホームページ上には不明瞭かつ有権者の誤解を招く可能性のある記述が多数散見された。例えば、次のような下りがある。

「私は人生の半分弱を海外で、そして約18年間、この世田谷区で過ごしてきました。様々な国、人種、宗教の方々と生活をしてきたからこそ気付ける、日本の良き文化・伝統、そして世田谷の魅力などを世界中に発信すると共に、子どもたち、孫たちが、幸せを実感できる社会を、この世田谷から実現するため、この度の挑戦を決意しました」

 世田谷区で「暮らしてきた」のではなく「過ごしてきた」という同氏のプロフィールを見る限り、世田谷区民であったことを明記している部分は「世田谷区立中町小学校卒」の部分しか見たらない。同小学校卒業後は私立ハワイプレパラトリーアカデミーで寄宿生活をし、聖心女子大学を卒業したことになっている。なお今月14日時点で、文春報道で指摘されていた「ニューヨーク大学経営大学院修了」の記載はない。

 社会人になってからの経歴は以下の通りだ。原文ママで引用する。

「・(株)時事通信社の金融専門放送のアナウンサー

政治・経済ニュース、そして株価情報を生放送で伝えることで、理解力と対応力を養う。 取材や情報を伝えるだけではなく、主体的に実際に中に入って金融、経済に携わりたいと思うようになり

・ニューヨークのMitsubishi UFJ Securities(USA),.Inc. に入社

・日本帰国後、不動産系金融機関、(株)レーサムの海外投資事業部にて、フィリピンやミャンマー、カンボジアのプロジェクトに携わる

・2016年参議院選挙の自民党公認候補の公募に応募、オープンエントリー2016のファイナリストに選出

・自民党元幹事長 武部勤先生のもとで政治を学びながら、ベトナムや東南アジアなどの国際貢献の仕事に従事

・衆議院議員秘書」

消えた「神奈川県議選出馬の経歴」

 土屋氏は2019年4月7日投開票の神奈川県議選で、愛川町・清川村選挙区から立候補し、落選した。当時の新聞報道などを見ると同氏は自民党神奈川県愛甲郡第一支部長であり、「愛川町中津地区在住」とある。公職選挙法の被選挙権は「同じ市町村に引き続き3か月以上住所していること」が条件とされているため、この時期は愛川町民だったのだろう。いずれにせよ前述のプロフィールには神奈川県議選に関する記載はない。

 全国紙記者は次のように語る。

「今回の都議選と同じで、土屋氏は自民党の落下傘候補として愛甲郡に投入されていました。多くの落下傘候補と同じく、選挙事務所兼支部に寝泊まりという状態だったと現場の記者から聞いています。生活実態があるのかというのは、地元住民から疑問の声も寄せられていたようです。当時の選挙活動では、愛甲郡への愛着を強く訴えていたようですが……」

「ベトナムや東南アジアなどの国際貢献の仕事に従事」とは?

 また名門校や有名企業名が列記された経歴の中で、なぜか以下の部分だけ不明瞭なのも気になる。

「自民党元幹事長 武部勤先生のもとで政治を学びながら、ベトナムや東南アジアなどの国際貢献の仕事に従事」

 土屋氏が神奈川県議選で報道各社に提出した調査票を見る限り、「公益財団法人東亜総研職員」がこの記述に該当する経歴だ。当時の新聞などにも明記されていた。ちなみに「東亜総研」は監理団体としてベトナムなどから技能実習生を受け入れていることで知られる。

 外国人技能実習生問題に詳しいジャーナリストの出井康博氏は「東亜総研」と自民党の関係について次のように解説する。

「武部勤氏は東亜総研の『代表理事・会長』です。自民党との関係でいえば、武部氏は小泉政権当時の自民党幹事長でした。そして二階俊博・現幹事長は東亜総研の『特別顧問』を務めています。また、元自民党代議士で閣僚経験者の村田吉隆氏は評議員会議長です。

 技能実習制度は『国際貢献』を趣旨に掲げていますが、実態は低賃金で日本人の嫌がる仕事を担う外国人労働者の受け入れ手段に他なりません。実習生の斡旋を担う監理団体にしろ、やっていることは民間の人材派遣業者と変わらない。したがって、東亜総研でのキャリアを『国際貢献活動』と呼ぶのは無理があると私は考えます」

 そもそも東亜総研の経歴はなぜ記載されていなかったのか。土屋氏の後援会に電話で確認を取ろうとしているが15日午前現在、通じない状況だ。自民党本部関係者は次のように推測する。

「選対の判断でしょう。土屋氏の選挙をコーディネートした神奈川県連や菅義偉首相の周辺が、日本の国際協力活動に対して敏感な創価学会員に選挙協力を仰ぐのにあたって、伏せた方が良いと思ったのかもしれない。技能実習制度は最近、世論の風当たりが強い。当然、学会員もよくは思っていないでしょう」

 前出の出井氏は次のように語る。

「実習制度についてはメディアで批判が相次いでいます。先日もニュースになったように、米国務省の報告書でも毎年『人身売買』だと指摘されています。しかし、土屋氏ご本人に『国際貢献活動』との認識があるなら、批判など気にせず、堂々と東亜総研の名前も出せばよかったのではないかと思います」

 選挙戦において何をPRするのかは、各陣営の戦略ではある。経歴もまた然りだ。しかし、有権者の投票行動をミスリードするような記載は断じて避けるべきではないのだろうか。

(文・構成=編集部、協力=出井康博/ジャーナリスト)

出井康博/ジャーナリスト

出井康博/ジャーナリスト

1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)近著に『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)などがある。

Twitter:@yasidei

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