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ソニーG、「エレクトロニクスを知らない」平井前社長、なぜ“どん底”から純利益1兆円へ再建?

文=編集部
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ソニーの社屋

 ソニーグループは社名変更して初めての定時株主総会を6月22日、東京都港区のグランドプリンスホテル新高輪で開いた。株主163人が出席した。吉田憲一郎会長兼社長は品薄が続いている家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)5」について、「来年度は供給を加速し、PSの歴史において過去最大となる年間2260万台以上の販売を実現したい」と強調した。「巣ごもり」需要を背景に初代PSの1998年度の販売記録を更新することを目指す。

 コロナ禍で企業業績の明暗が大きく分かれ、エレクトロニクス業界ではソニーが「明」の代表格となった。2021年3月期連結決算(米国会計基準)の純利益が前期比約2倍の1兆1717億円となり、初めて1兆円の大台にのせた。ゲーム事業などが好調に推移したほか、東宝と共同で配給した『劇場版「鬼滅の刃」』の大ヒットが収益を押し上げた。

 売上高は8兆9993億円(20年3月期比9%増)、営業利益は9718億円(同15%増)。売り上げ、営業利益、最終利益とも過去最高を更新した。ゲームや映画、音楽などのエンタメ系事業が業績を牽引した。特に巣ごもり需要でPSのソフトの販売が伸びた結果、ゲーム部門は売上高2兆6563億円(同34%増)、営業利益3422億円(同43%増)と伸長した。

 ゲーム、映画、音楽の3事業の営業利益の合計は6088億円。全営業利益の62%を稼ぎ出した。エレクトロニクスや半導体で収益がぶれることが多かったソニーの姿は過去のものとなった。

 22年3月期も好調を持続できるのか。これが市場の最大の関心事だ。法人税の減額など特殊な要因がなくなるため、純利益1兆円のハードルはかなり高い。米国会計基準から国際会計基準に移行するため前期との増減率を記載していないが、売上高は9兆7000億円、営業利益は9300億円、純利益は6600億円を見込んでいる。市場では「純利益を7400億円前後」と予想していた。会社予想が市場のコンセンサスを下回ったことが、史上最高の決算だったのに株価が上昇しなかった一因とされる。

 吉田氏の役員報酬は2割増の12億5300万円(前年は10億2300万円)。業績連動報酬3億5000万円に加え、ストックオプションや譲渡制限付株式の付与などが目立った。3月決算会社の役員報酬ランキングで第5位。日本人でトップである。

コミュニティ・オブ・インタレスト

 株主総会に先立ち、5月26日、オンラインで経営方針説明会を開いた。「ゲームや音楽などのエンターテイメント分野を軸に、長期で顧客基盤を現状の1億6000万人から10億人に拡大する」(吉田氏)。「10億人という目標はソニーグループがゲームやアニメなど顧客と直接つながるダイレクト・ツー・コンシューマ(DTC)の領域で想定している。世界を感動で満たすためのビジョンというふうに考えていただきたい。今あるものをしっかり大きくしていくが、もうひとつの柱はM&A(合併・買収)」と強調した。

 エンタメ事業を成長エンジンとする姿勢を一段と鮮明にしたわけだ。24年3月期までの3年間に2兆円の戦略投資枠を設けた。ソニーは感動体験や関心を共有する人々の集まりを「コミュニティ・オブ・インタレスト」と定義する。単なる登録会員などとは異なる、熱心なファンの集まりを指す。

 その具体例として、漫画が原作の『鬼滅の刃』を挙げる。19年、ソニー傘下のアニプレックスが企画したテレビアニメが人気を呼び、20年に公開した映画は国内の興行収入の記録を更新した。映画は海外でも公開した。続編のアニメやゲーム制作も進む。ひとつの知的財産(IP)をグループ内で切れ目なく活用しながら、ファンを増やし、重層的に稼ぐことに成功した。

 吉田氏は「ゲーム原作の映像化」を例示した。まずPS用の人気ゲーム「アンチャーテッド」を題材にした映画を22年に公開する。ドラマも含めて10作品の映像化を計画する。映画業界ではゲームを原作とした作品の成功例が少ないといわれる。ゲームと映画の両部門を擁するソニーでも、これまで連携して成功した例はなかった。漫画を原作にした『劇場版「鬼滅の刃」』が大ヒットしたため二匹目のドジョウを狙っていることがうかがえる。

感動経営

 吉田氏は経営方針説明会で、数値目標を語らない代わりに「感動」という言葉を多用した。感動は吉田氏が参謀役を務めた平井一夫前社長(現シニアアドバイザー)時代から掲げる経営ビジョンである。

 ソニーはリーマンショックで巨額な赤字を抱え、危機に陥っていた。音楽畑出身でゲーム事業で頭角を現した「エレクトロニクスを知らない男」の平井氏の改革には、ソニー社内外から反発が大きかった。「エレクトロニクスのソニー」の黄金時代を築いたOBたちが何度も本社に乗り込み、平井氏に面と向かって退陣を迫ったこともあった。コモディティー(汎用)化したエレクトロニクス製品からは手を引き、映画や音楽といった、それまで傍流と見なされていた事業に力を入れた平井氏が、次なる時代の旗印に掲げたのが「KANDO(感動)」だった。

 ものづくりから感動路線への大転換を下支えしているのは金融ビジネスである。20年9月、金融持ち株会社ソニーフィナンシャルホールディングス(SFH)を100%子会社にした。この時、金融関係者の間から「ソニーはものづくりを止める」との声が上がったほどだ。

「家電量販店大手のノジマと手を切ったスルガ銀行にSFHが関心を示している。ノジマの持ち株(4285万株、18.4%を保有)をSFHが引き受ける」(首都圏の有力地銀の頭取)という見方が急浮上している。

 感動経営は耳触りの良い言葉だ。だが、映画やゲームは水モノ。当たれば大きいが、失敗すれは大赤字に転落するリスクが常に伴う。事実、中期の経営方針は「想定した範囲内。目新しさに欠ける」(エレクトロニクス担当のアナリスト)と受け止められた。市場は肩透かしを食らった格好だ。「株主(投資家)は感動経営にさほど感動せず、という皮肉な結果を招いた」(同)といった辛口の分析もある。

 ソニーGの株価は2月5日に1万2545円の年初来高値をつけたが、それ以降は1割強安い1万円飛び台が続いた。ここへきて、ようやく1万1000円台半ばに戻った。かつてのウォークマンのように、ユーザーに驚きを与えることができる商品・サービスを生み出すのは言葉でいうほど簡単ではないことを投資家は熟知している。

BusinessJournal編集部

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