幕張新都心にある日本最大級のコンベンションセンター「幕張メッセ」で6月14から16日の3日間、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(略称JUIDA:Japan UAS Industrial Development Association)主催の「ジャパンドローン2021」が開催された。JUIDAは2014年7月に設立された無人航空機システム(UAS:Unmanned Aircraft Systems)の民生分野における積極的な利活用と応用技術の研究開発、安全ルールの研究、環境整備を進める非営利団体、ドローンスクールなどを認定し、操縦者の育成にも力を入れている。
同団体が主催するドローン展は今回で6年目を迎え、出展者数は108社。会場の入り口の一番目立つところには「大型ドローン」で注目されているベンチャー企業の「テララボ」、官民一体となって国産ドローン開発を進めるヤマハ発動機、NTTドコモ、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)などのブースが並ぶ。
今回のドローン展でもっとも注目されていたのがソニーだ。同社は6月10日、業務用ドローン「AirpeakS1」を発売することを明らかにした。ソニーがドローン事業に参入するのは初めてのことだ。
「業務用のドローンは特定の会社が大きなシェアを占めているという現状がある。これは高度な技術を保有する会社だからこそなせる技。空力特性や安定性、推進力、重量とパワーのバランス、量産品として安定供給できる高い技術力があって成り立っている。ソニーとしてもそこに挑むべきではないかという結論に至りました」(川西泉ソニーグループAIロボティクスビジネスグループ執行役員)
「AirpeakS1」は独自開発のモーターやプロペラ、制御システム、センシング技術などにより、最高速度時速90km、最大角速度180°/s、最大傾斜角度55°を実現。独自開発のキーデバイスを組み合わせた推進デバイスと飛行制御で最大20m/sの耐風性能がある。さらにフルサイズミラーレス一眼カメラα(Alpha)が搭載できるものとしては業界最小クラスの機体で、映像クリエーターなどの専門職のニーズに対応しているという。機体を意のままに操ることのできる送信機、センシングによる障害物検知や自動飛行に加え、機体の飛行情報をクラウドで管理し、安全な運行管理を可能にしたという。
では産業用ドローンは今、どのような状況にあるのか。JUIDA理事長で東京大学未来ビジョン研究センター特任教授の鈴木真二氏に国産ドローンの最新事情について話を聞いた。
コロナ禍で高まるドローン需要
――今年のドローン展ではソニーが国産ドローンを発表しました。
鈴木 国産ドローンの開発では、今まで大手企業の参入があまりなかったのですが、今回のドローン展ではソニーが出展しました。実際デンソーなどがこれまで国産ドローンの開発に精力を注いできたのですが、市販はしなかった。売ってしまうと事故が起こったときの社会的影響や責任の問題などが降りかかってきてしまうなど、かなり慎重だったのですが、今回はソニーがドローンの製造事業に乗り出しました。これは世界的にも大きなニュースだと思います。
――ソニーのドローンの大きな特徴はなんですか。
鈴木 カメラやCCDは世界でも日本が独占的な市場を持っています。ソニーはその中心的なメーカーです。そのあたり、空撮用ということで特徴を出されているんじゃないかと思います。ドローン開発の技術自体はかなり成熟してきていますが、それにどういう付加価値を与えるのかというのが大きいんじゃないかと思います。
――昨年、今年とコロナ禍のなかでドローンはどのように活用されたのでしょうか。
鈴木 コロナ禍のなかでいろいろな活用の場が広がりましたし、私どもはドローンスクールを認定しているのですが、ドローンスクールで資格を取ろうという人たちもコロナの影響で減少するどころか、逆にこういう時期だからこそ新しい技能を身につけようという人が増えたようです。
――ドローンの有資格者は、日本に今どのくらいいるのでしょうか。
鈴木 まだ国の認定資格になってはいませんが、JUIDAだけで1万5000人ぐらいで、その他の団体も含めると数万人規模になると思います。JUIDAだけでもだいたい毎年5000人づつ増えています。
コロナ禍でのドローン活用
――ドローンの活用法ですが、昨年はどのように使われていたんでしょうか。
鈴木 これまでのように農業、土木測量、写真撮影などのような使われ方もあるのですが、コロナ禍という視点で見ますと、上空から緊急時にアナウンスをしたり、災害時の状況把握や物資輸送などで活発に使われるようになりました。海外ではPCRの検査キットや検体を運ぶことでも使われています。日本ではまだ薬機法の規制が厳しいので、そこまではできていません。ただ災害などで医薬品を届けることなどはできるようになりつつあります。
――離島への医薬品輸送は今、どの程度までできるようになっているのでしょうか。
鈴木 今年の夏までに新たなガイドラインが出されると聞いています。離島や災害時という限定された用途ですが、だんだんと広がっていくのではないかと思います。
――ドローンは昨年、災害ではどのような活躍をしたのでしょうか。
鈴木 例えば赤城山の山火事でドローンが状況把握に活用されました。一方で今年2月に許可を得ていない方々が、足利市の山火事でドローンを飛ばしてしまいヘリの消火活動を妨げたという事件がありました。それ以来、消防や救助のヘリコプターが飛行する指定された空域では、自治体から要請を受けたドローンでないと飛ばしてはいけないという規制がかかるようになりました。災害時にはヘリコプターも飛びますので、ヘリコプターにぶつかってしまうと大きな災害につながってしまいますから。
――ドローンの運行管理システムは現在、どこまで整備されているのでしょうか。
鈴木 すでに商用化されていまして、民間でそうしたサービスを提供しています。ただ、まだそうした運行管理システムを活用するような使い方はされていないのが現状です。物流で目視外まで飛ばそうとすると、そうしたシステムで管理しなければならなくなります。米国の場合は、空港周辺でドローンを飛ばす人は必ず運行管理システムにつないで、自分がいつどこで飛ばしているのかという情報をリアルタイムで監視できる状況でないと飛ばせません。空港周辺は飛行機と出会う状況がありますので、空港ごとにそうしたシステムが置かれています。
22年から「レベル4」スタート
――産業用ドローンの実用化はどこまで進んでいますか。
鈴木 工事現場の点検、建物の点検、農薬散布などで活用されています。農薬散布がもっとも多く、建物の点検なども増えています。今後は物流、警備などでも活用されていくと思います。
――警備ではどの程度利用されていますか。
鈴木 刑務所内の巡回や工場の敷地内などで一部使われていますが、まだそれほど使われていません。航空法の規制がありますので、第三者の上を飛ばすということがほとんど許可されません。試験的にスタジアムの夜間警備などで使うなどの実証実験が行われています。「レベル4」という有人地帯の上空を飛ばしやすくするための航空法改正案が、6月4日の参議院本会議で可決、決定しました。これから22年中の施行に向けて制度を詰めていくわけです。そうしたことができてくると、街中はまだ難しいですが、人がまばらに住んでいるようなところでは使いやすくなると思います。
――東京オリンピック・パラリンピックでの活用については、具体的な話は出ているのでしょうか。
鈴木 オリンピックのヨットやボートなどの競技では空撮で利用されますが、これはIOCが認定しているスペインに本部のある撮影団体が一手に担うことになります。聖火ランナーについてはNHKが代表して撮影しています。ドローンは国内のマラソン競技などでも活用され、空撮だけでなく、選手が倒れたときにAEDなどを搬送するのにもドローンが活用されています。
――ドローンを活用した本格的な物流は、いつ頃からできるようになるでしょうか。
鈴木 高傾斜のある山間部や船を使わなければならないような離島での活用の可能性があります。人が担いで運ばなければならないようなところでドローンを活用する実証実験はすでに行っていますし、楽天は山小屋に物を運ぶサービスを始めているところもあります。川沿いにドローンを飛ばして物を運ぶ実証実験も、さまざまな自治体で行われています。
事業化にはもう少し時間がかかると思います。ドローンの事業免許はまだ日本では準備されていません。米国連邦航空局(FAA)ではアマゾンやUPS、グーグルなどに免許を発行しています。ビジネスとして始まっているわけではありませんが、儲かることがわかればそうした事業者はどんどん事業化すると思います。
――「レベル4」はいつ実現するのでしょうか。
鈴木 22年には法律上は、許可された飛行機で許可された免許を持った操縦者がいれば、ケースごとに審査されますが、許可が下りれば人の上を飛ばしてもいいということになっています。今は人がいるところでは飛ばせませんが、いずれは人口密度が低い地域などから利用が開始されると思います。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)