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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

東芝・三菱電機・経産省、「ガバナンス」「経営における善悪」への恐ろしいほどの無関心の原因

文=加谷珪一/経済評論家
東芝・三菱電機・経産省、「ガバナンス」「経営における善悪」への恐ろしいほどの無関心の原因の画像1
東芝のサイトより

 東芝と経済産業省による株主総会への不正介入疑惑や、三菱電機による大規模な不正行為の隠蔽など、日本経済の屋台骨ともいえる名門企業に相次いで不祥事が発生している。両社に共通しているのはガバナンスに対する著しい認識の欠如であり、小手先の対応で改善できるものではない。事態を矮小化し、場当たり的な対策に終始すれば、再び同じような問題を起こす可能性が高い。

あまりにも著しい認識の乖離

 東芝は筆頭株主であったエフィッシモ・キャピタル・マネジメントによる株主提案を受け、2020年7月に行われた株主総会が適性だったのか外部弁護士による調査を実施した。これは東芝自身が決断したことではなく、株主が同社の経営に不信感を抱き、調査を求める議案を提出したことがきっかけである。そもそも、こうした議案が提案・可決されること事態が希であり、株主が経営陣に対していかに不信感を持っていたのかが分かる。

 2021年6月10日に公表された報告書では、株主総会は「公正に運営されたものとはいえない」と結論付けている。東芝が経産省に支援を要請し、同省と東芝が一部株主に不当な影響を与えたとの見解だ。

 この調査結果に対して梶山経済産業大臣は6月15日、東芝への個別対応について「経産省として当然のことを行っている」として、半ば開き直りとも取れる説明を行っている。調査報告書についても「根拠が必ずしも明らかではない」としたものの、同省として独自調査は行う予定はなく、今後についても「東芝の動きを注視していく」と述べるにとどまった。結局のところ、東芝に対して個別対応は行ったが、それは正当な行為であり、後のことは東芝に任せるという「逃げ」の姿勢が鮮明になっている。

 東芝は10日後の6月25日に定時株主総会を開催したが、11名の取締役選任案の採決で永山治取締役会議長と小林伸行監査委員の再任が反対多数で否決されるという異例の事態となった。永山氏への反対票は56%、「総会の運営に問題がなかった」としていた監査委員の小林氏への反対票は何と74%にのぼっている。これだけの反対票が投じられたということは、一部の外国人投資家だけではなく、生保など日本の機関投資家ですら、東芝のガバナンスに怒りを表明したことになる。国内の機関投資家が上場企業に経営にここまで介入するのは極めて希であり、東芝問題がいかに深刻であるかを物語っている。

 それにしても、東芝と経済産業省と株主(市場)との間に生じている意識の断絶は凄まじい。東芝と経産省は自らの行為について問題ないと認識していたようだが、会社の所有者(つまり主権者)である株主は正反対のことを考えていた。このような事態に陥ってしまったのは、企業のガバナンスにおける根本的な善悪について、東芝と経産省がまったく無関心だったことが原因である。

ガバナンスに対する基本的な価値観の欠如

 東芝は株式会社なのでルール上、経営の最終決定権は株主にある。株式会社というのは、株主が会社の所有権を持てるようあえて設計された形態なので、経営者が株主の意向を尊重しないというのは、株式会社の理屈としてあり得ないこといえる。

 もし株主の意向に左右されたくないのなら、株式会社の形態をやめればよいだけで、実際、米国には投資家の意向に左右されないようLP(リミテッド・パートナーシップ)など株式会社以外の形態を選択するケースも多い。コーポレートガバナンスというのは、民主主義の統治から派生した概念であり、商業活動や企業活動について規定している商法や会社法も民主主義の体系の一部となっている。したがって企業のガバナンスについても、条文の些末な解釈以前の問題として「根本的な理念や価値観」というものがあり、「やって良いこと」と「やってはいけないこと」ことが明確に区分されている。

 商法や会社法が示す理念や価値観と、国家運営との間で利害の対立が生じるケースは当然、想定される。政府には国家の安全を守る義務があるが、商業活動の自由も安全保障と同様、資本主義国家・民主主義国家の土台となる基本原則である。安全保障上の理由から株主の権利を侵害する可能性が考えられる場合には、ルールに従って慎重に対応しなければならない(これは戦争などの非常事態において私権が制限されることの是非と同じ文脈である)。東芝の場合、こうした手順を無視しているため多くの株主が怒りを表明している。

 安全保障上、東芝の技術を保護する必要があるのなら、改正外為法の拡大解釈といった方法ではなく、明確な法律に基づき、正面から対応するのがスジだろう。また経産省が本気でそうした措置を考えているのなら、後は東芝に任せるといった無責任な対応は取れないはずだ。結局のところ、経産省と東芝は、ガバナンスに対する基本的な価値観が欠如しており、介入によって発生する事態に対して、政府が責任を持って対処するという覚悟も見られない。結局はこうした無責任な体制が露呈したということにほかならない。

三菱電機は取締役会を完全無視

 まったくの偶然だが、似たようなケースが三菱電機でも発生している。同社では、鉄道車両向け空調装置で長年にわたって不正行為を行っていたことが発覚し、杉山武史社長が引責辞任を表明した。だが一連の過程においてガバナンスがまったく機能していないお粗末な実態が明らかとなっている。

 同社は少なくとも1985年から35年以上にわたって、仕様書とは異なる条件で検査したり、検査そのものを実施しないといった形で不正行為を繰り返していた。顧客には適性に検査をしたように見せかけた書類を提出しており、しかも架空のデータを自動的に生成するソフトウェアまで使用していたというのだから、意図的かつ組織的であることは明らかだ。

 しかも同社では過去に何度も似たような不正行為が発覚しており、2016年から19年にかけて大規模な車内点検を3度も実施している。過去3回の点検でも今回の不正は見逃されており、事態がまったく改善していない。ここまで不正行為が続くと、組織全体として改善する意思がゼロと判断されても致し方ないだろう。

 これはまさに同社の経営そのものに根ざした問題といってよいが、案の定、同社のガバナンスは東芝と同様、ほとんど機能していない状況にある。それは今回の不正発覚と外部への説明が行われた手順を見れば明らかである。

 今回の不正は2021年6月14日に判明したが、最初に同社が選択した行動は経済産業省への説明だった。同社は29日に株主総会を控えており、株主総会では杉山社長以下、経営陣の再任を提案している。当然のことながら株主に対してこの重大な事実を通知しないまま総会を開催すれば、株主を欺くことになる。ところが同社は経産省には報告したものの、株主には情報を開示せず、29日には平然と株主総会を行って杉山社長は再任された。

 不正を公表したのは何と総会翌日の30日で、しかも総会で情報を開示しないことは取締役会にも諮られなかった。当初、杉山氏は取締役会の了承を得たという趣旨の発言をしていたが、これは虚偽であったことが明らかとなっている。

 会社の所有者である株主と、その意向を間接的に企業に反映させるために存在する取締役会は完全に無視された形といってよい。同社の取締役には、元検事総長や元外務次官、元メガバンク頭取などが就任しているが、メンツは丸つぶれといってよく、ここまで株主と取締役会が軽んじられるケースも珍しい。三菱電機の幹部は、企業経営における根本的な善悪が著しく欠如しているとしか思えない。

あまり深く物事を考えていない?

 筆者が一連の問題に底知れぬ恐怖を感じるのは、東芝の経営陣も三菱電機の経営陣も、企業活動の根源的な善悪について、異様なまでに関心が低いことである。意図的にガバナンスを無視しようと思っているのではなく、あまり深く考えずに、こうした行為に及んでいる可能性が高いのだ。

 東芝の調査報告書を読むと、モノ言う株主にどう対処するか、経営陣がそれだけで頭がいっぱいだった様子がありありと伝わってくるし、ガバナンスにおける善悪というものを理解していれば、杉山氏が「取締役には諮ってある」などと、息を吸うように虚偽の説明をするわけがない。

 企業経営あるいはガバナンスに対する基本的な哲学を欠いたまま、いくらコーポレートガバナンス指針などのマニュアル参照したところで、正しい行動が取れるわけがない。日本は以前からガバナンスの欠如が指摘されてきたが、これは極めて根が深い問題であると筆者は考えている。

(文=加谷珪一/経済評論家)

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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