
三菱電機は7月28日、漆間啓専務執行役(62)を社長に昇格させた。不正検査問題を受けて杉山武史社長(64)は引責辞任し、取締役や執行役から外れ、特別顧問に退いた。柵山正樹会長(69)は留任した。
漆間氏は1982年早稲田大学商学部を卒業し、三菱電機に入社。FA(ファクトリーオートメーション)システムや社会システム部門、欧州部門のトップを務めてきた。20年4月に代表執行役に就任、企画担当専務として、今年6月に発表した中期経営計画をとりまとめた旧体制のNo.2だ。
漆間氏は記者会見を開き、「危急存亡の時。企業風土の改革を進めて新しい三菱電機をつくり、社会の信頼を取り戻すことが使命だ」と述べた。漆間新社長は「社内基盤が弱い」(関係者)と懸念されている。歴代社長は東大、京大、九州大など旧7帝国大の工学部系の出身者が大半を占めるが、「漆間氏は文系で早大商学部卒」(同)だ。
不正は、長崎製作所(長崎県時津町)でつくる鉄道車両向けの空調設備や、ブレーキやドアに使う空調圧縮機の検査で発覚した。出荷前の検査で、顧客との取り決めたやり方と違う方法で検査したり、架空のデータを入力したりする不正が1985年ごろから続いていた。架空データを自動的につくる専用プログラムを使用していた。
三菱電機では2018年以降、製品の品質データの偽装や検査の省略といった不正が今回を含めて計6件見つかった。再発防止に向け、社外の弁護士らによる調査委員会を設け、原因の究明調査を進め、9月中に調査結果を公表する。
漆間新社長が就任した2日後の7月30日、三菱電機はホームページに「業務用空調・冷熱機器ご愛用のお客様へのお詫びと点検のお知らせ」と題する文章をアップした。冷熱システム研究所(和歌山市)が製造したビルや店舗などの大型施設に使われる業務用空調について、最終検査工程に使う装置が断線による故障で正常に作動していなかった。
こうした不備が起きていた期間は14年6月から21年7月までの7年間。対象は578機種4万338台に及ぶ。うち27機種2430台は、電気用品安全法が定める検査ができていなかった。
8月17日には受配電システム製作所(香川県丸亀市)が製造する配電盤(ガス絶縁開閉装置)で検査の不正を行っていたことが発覚した。配電盤は電流の開閉を行う装置で変電所などで使われる。検査前の検査を一部省略したり、顧客の要求とは異なる方法で実施したりしていた。対象となったのは1996~2021年に出荷した4529台。国内外の官公庁や鉄道会社など490社・機関に納入してきた。主要駅や発電所、工場などで使われている。