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赤石晋一郎「ペンは書くほどに磨かれる」

国家のIT運営を担うデジタル庁、その危険すぎる呆れた実態…必ず失敗する「3つの理由」

文=赤石晋一郎/ジャーナリスト
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デジタル庁のサイトより

 9月1日にスタートしたデジタル庁の評判が散々だ。

「初日からデジタル庁のウェブサイトが繋がりにくくなったことで、“不安”な船出であることを印象づけました。公式サイトが簡素すぎることでもわかる通り、構想1年で立ち上げた見切り発車中の見切り発車がデジタル庁なのです。会見で紙が配られたり、初登庁する幹部級の民間職員が東京ガーデンテラス紀尾井町前のコンビニで集合させられたり、備品パソコンではZoomもSlackも使えないことなどが話題になったように、とにかく仕切りの悪さが目立つスタートでした」(全国紙社会部記者)

 菅義偉首相が昨年9月の自民党総裁選で公約に掲げたのがデジタル庁(以下・デジ庁)創設だった。政権発足から5カ月足らずで閣議決定し、1年あまりで実現にまで漕ぎつけた肝いり政策だ。デジ庁では省庁の縦割りを打破し地方自治体も巻き込み統合システムを作ることなどが構想されている。組織としては内閣直属組織となりトップには首相、その下にデジタル大臣という形態をとる。500人のスタッフのうち約100人を民間から採用するという、政府が“明治維新以来の大改革”と意気込んだ一大プロジェクトなのである。

 しかし、である。デジタル庁の周りから聞こえてくるのは不安の声ばかりだ。

「業界ではデジタル庁の組織図を見ただけで『これは伏魔殿だ』との声が上がっています。組織の新味を出すためかCA、CIO、CDOなど8つの“C”職をアドバイザー的な位置に並べてますが、何の権限もないC職に意味はあるのか? と業界から失笑されています。デジタル監の位置もそう。デジタル大臣の下という微妙なポジションであり、かつ内閣が変わればデジタル監は1回辞表を出さないといけないと聞いて『そんな仕事受ける人いないでしょ』との声が上がっていた。実際にオファーを受けた業界の有名人たちは、軒並みデジタル監就任を断わっていたそうです」(IT企業経営者)

 政府関係者も「まずデジタル庁のデジタル化が必要だ」と嘆くほど、その先行きが不安視されているデジタル庁。なぜ上手くいかないのか。3つの問題点を上げて論じていきたい。

調達の問題

 1つ目の問題は、「調達」の問題だ。デジタル庁は5000億円ともいわれる巨額予算を執行する調達庁という側面を持つ。この調達をめぐっては発足前から問題が噴出していたのはご存じの通りである。

 例えば6月に朝日新聞が報じた『事業費削減「脅した方が」 五輪アプリ請負先巡り平井大臣指示」(6月11日付)という問題、そしてNTTから接待を受けていたという「週刊文春」(文藝春秋)報道は、いずれも調達をめぐってのトラブルと疑念なのである。

「デジタル庁の最大の改革ポイントが調達改革であることは間違いない」と語るのはデジ庁職員である。そこで不安視されるのが平井卓也大臣の“調整力”のなさ、だという。平井氏を知る人物はこう語る。

「平井氏はよくNECなどの大手ベンダーを敵視した発言を行います。確かに発注が独占的になり高額になるというベンダーロックイン問題はあった。しかし、この問題の本質は官僚の丸投げ発注体質にあり、ベンダー側がそれに乗じてリスク代込みで高額受注していた部分もあったわけです。そこで平井氏のように『場合によっては出入り禁止にしないとな』とか『完全に干すから』と叩くだけでは対立が深まるだけ。大手ベンダー側はいま平井氏周辺のネガティブ情報を集めて徹底抗戦しよう、という動きもあると聞いてます」

 つまりは時代後れの恫喝だけでは改革は進まない、というのだ。

 別の問題点を自民党議員はこう指摘する。

「NEC恫喝やNTT接待などの問題が浮上するのも、調達を可視化する仕組みがないことに問題があるのです。大手の企業はそうしたルール作りと可視化が普及している。誰が関わってどのような議論をしてそこに見積もりを出したか、記録が残るようになっているべきなのです。それが本来のデジタル庁が目指すべき姿なのですが、まったく準備が進んでいない」

 大きな権限を持ち巨額調達を行うことになるデジタル庁。このままでは魑魅魍魎の利権争奪戦になりはしないか、と懸念されているのだ。

セキュリティー意識の欠如

 2つ目の問題が「セキュリティー意識の欠如」である。昨年、ある調達が話題になった。高市早苗総務相が2月14日の閣議後記者会見で明かした、「政府共通プラットフォーム」を外資企業が手掛けるクラウドサービスを採用する方針を示したのだ。政府共通プラットフォームとは、各省庁がそれぞれ管理しているシステムを一元的にクラウド化するというもの。採用された企業はアマゾンの子会社である「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」だった。

「この政府共通プラットフォームクラウドの調達には、AWS出身のCIO補佐官の暗躍が大きかったと噂されています。だが、採用にあたっては、もっとセキュリティーと安全保障の議論があってよいはずでした。政府情報を外資に託して良いのか? 国産では本当に無理なのか。クラウドを外資に託すベンダーロックインになってしまう可能性もあるわけですし、情報が海外に流出する可能性もないわけじゃないからです」(政府関係者)

 ところが懸念とは別の次元で「共通プラットフォーム」はその運用が打ち切られることになった。利用が約40件と低迷したことが原因だった。現在の共通プラットフォームはデジタル庁には引き継がず、数年の移行期間を経て廃止される。政府共通システムはデジタル庁でイチから作り直すことになるという。

 では、デジタル庁でセキュリティー対策を万全に行えるのかというと、こちらも同様に不安満載なのである。

「デジ庁幹部はセキュリティーについて、『システムを作ってから考えればいい』という認識でしかなく意識が低い。そもそも音声が外部流出するような大臣がデジタル庁のトップなのだから、『これからはあらゆるルートで情報がダダ漏れになるんじゃないか』とみな不安がっています」(同)

 政府サイトなどが海外からサイバー攻撃を受けることが日常茶飯事となっている昨今。デジタル庁が目指す政府情報を中央で一元管理することが実現したとき、その情報がサイバー攻撃に遭って流出したときの被害もまた甚大となる。

政治力の欠如

 3つ目の問題となるのが、「政治力の欠如」である。省庁を超え地方自治体を巻き込んだ大改革を行うのには強大な政治力が必要とされることは論を待たないだろう。

「デジ庁の結果が出るまでは少なくとも4年はかかるとされています。理想を実現させるためには、限られた時間のなかで官僚組織を合理化するなど大改革しないといけない。例えば官僚には各種天下り先があり、そこが行政情報や行政情報に関連する業務を扱っていたりする。こうした構造を一つ一つ打破することで初めてDX(デジタルトランスフォーメーション)は成立する。当然、官僚は抵抗をするでしょうから、強い指導力を持ってDXを進めていかないといけない。よくデジ庁周辺では『アーリーハーベスト(手っ取り早い成果)』を出すという声が聞こえますが、そんな生やさしい考えではデジタル庁の掲げる理想は実現できないでしょうね」(経済紙記者)

 デジタル庁を発足させた菅首相は今月退任することが決まった。平井大臣は党内基盤も脆弱で、選挙も決して強くない政治家だ。いまや自民党政権すら続くのか見通せない状況にあるのは周知の通りだ。そのような状況で改革に必要な推進力が出てくるとは考えにくい。「未来志向のDXを大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げる」と高らかに謳うデジ庁だが、その周辺から浮かび上がってくるのは矛盾ばかりなのだ。

「『すべての行政手続きがスマートフォンで60秒以内にできる』ことを目指すと言ったり、平井大臣をはじめデジ庁はベンチャー起業等の“シャイニー”なところばかりを真似していますが、本来は銀行や政府のシステムの世界はベンチャーの世界とは違い『地道な世界』です。各官庁との折衝からルール作りというところに重きを置いてやるべき仕事なのです。リーダーシップをとりながら長く問題に取り組める政治家、コツコツと改革の為に尽くせるデジ庁職員がどれくらいいるのか、ということが今後問われていくでしょう」(同)

 日本政府のDXは一朝一夕には進めることができない、ということなのだろうか。

赤石晋一郎/ジャーナリスト

赤石晋一郎/ジャーナリスト

 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。
 日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note:赤石晋一郎

Twitter:@red0101a

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