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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

価格1%上げれば収益は10%向上する?「価格」が持つパワーと恐ろしさ

文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授
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「Getty Images」より

 マーケティングの代表的なフレームワークである「マーケティング・ミックス」。形ある商品なら4P(商品・価格・流通・販売促進)、無形であるサービスなら7P(商品・価格・流通・販売促進・人・プロセス・物的証拠)など、極めて有名な枠組みである。こうした要素において、価格はもっとも活発に研究されていない領域かもしれない。

 ある豆乳メーカーにインタビューを行った際、「健康ブームを受けて、トクホ(特定保健用食品)の認証を得たものの、売価が10円アップし、売上が大きく落ち込んだ」という話を聞き、価格のパワー、恐ろしさを実感したことがある。

 価格は数字で表示されるため、誰もが簡単明瞭に判断でき、他社製品との比較も極めて容易である。また、たとえばトマトでも価格が高ければ、「きっと高品質でおいしいに違いない」、安ければ「何かワケアリのはず」と、多くの消費者が感じることだろう。つまり価格は、(正しいかどうかは別として)品質の高低も表すシグナルや、広告の役割すら担っているともいえる。

 価格戦略(プライシング)に関して、THE WHARTON SCHOOLの教授であるZ.John RajuとJagmohan Zhangによって、2010年に出版された『Smart Pricing: How Google, Priceline, and Leading Businesses Use Pricing Innovation for Profitability』Pearson Prentice Hall(『スマート・プライシング 利益を生み出す新価格戦略』朝日新聞出版)を参考に検討していく。

“何カ月も手塩にかけて育てた作物の収穫の際、「さあ、収穫の時だ。気楽にやろう」という農業従事者はいない”という書き出しは衝撃的である。つまり、企業は長い時間をかけて市場調査や製品開発を行い、市場に製品を投入するといったことには注力するにもかかわらず、こうした努力を収益につなげるために重要な役割を果たすプライシングには関心を払っていないと指摘しているのだ。

 また、多くの企業が採用している、コストプラス法、競争に基づく価格設定、需要に基づく価格設定などについて、極めて単純で場当たり的であると、痛烈に批判している。コストプラス法の利点として、シンプル、公正、財務的健全性などが指摘されるが、贈答品の場合は高価格のほうが好ましいケースもある。また、コストを売価に転化させることが可能となる場合もあり、コストを最小化しようという意欲が起きない。さらに、売上が計画を下回る場合、財務的健全さは保証されないと指摘している。

 競争に基づく価格設定に関しては、泥沼の価格競争に陥る危険性を、一方、需要に基づく価格設定に対しては、顧客ごとに売価が変わる不透明性および不公平感から生じる顧客の離反を危惧している。

 また、価格のパワーに関して、自社の収益を高めるために引けるレバーは、価格、売上数量、変動費、固定費の4つしかなく、とりわけ価格がもっとも大きな影響を与えると、多くのデータが語っているにもかかわらず、もっとも軽視されているとのこと。

 こうした企業におけるプライシングの問題点に対して、Pay as you wish(買い手が価格を決定)、Free(商品やサービスの無償提供)、自動値下げ方式、購入価格指定方式などを紹介している。

 最近、ガソリンをはじめ、物価上昇に関するニュースがしきりに流れている。確かに、価格に対して、消費者をはじめ社会の関心は極めて高い。原料高といった極めて明瞭な理由があっても、一歩間違えば厳しい批判に晒されそうな雰囲気に溢れている。

 こうした状況において企業は無難な値付けに陥りがちだが、たとえば先の著書では、価格を1%上げれば収益は10.29%向上するといったデータが紹介されている。また、世の中には一般的な商品と比較して高価格であるにもかかわらず、好調な販売を維持するプレミアム商品も数多く存在している。これらを勘案すれば、積極的・科学的なプライシングに挑戦する価値は大いにありそうだ。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

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