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小林敦志「自動車大激変!」

レクサスブランド、驚きの販売事情…米国では強烈な格差社会の象徴?

文=小林敦志/フリー編集記者
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LEXUS ‐ ES」より

 先日、2021年8月26日にマイナーチェンジを実施し発売となった、新型「レクサスES」に試乗する機会があった。そして、新型ESを見たクルマ好きの多くが「これってあのESだよねえ」とか「ESもかなり立派になったねえ」と、改良で上質感やアグレッシブなイメージがさらに高まったことに驚いていた。

 世界におけるレクサスブランドの主な市場は北米、中国そして日本となる。1989年に北米市場において、世界で初めて“レクサス”ブランドが立ち上がった当初より、LSとともにラインナップが今日まで続いているモデルがESとなる。初代モデルは、日本国内においてV6エンジンを搭載した“トヨタ カムリ プロミネント 4ドアハードトップ”をベースに、レクサスブランド車として北米市場においてラインナップされた(ちなみに当時のカムリ[FF2台目]にもV6が北米ではラインナップされていた)。

 1991年に日本以外の市場で登場した2代目は、日本国内において“トヨタ ウインダム”の車名で販売されていた。その後、1996年に登場した3代目、2001年に登場した4代目も、日本国内では“トヨタ ウインダム”の車名でラインナップされていた。

 2006年にデビューした5代目、2012年にデビューした6代目は、トヨタブランド車やレクサスESとして日本国内ではラインナップされずに、2018年にデビューした現行7代目が、日本市場でも同年にレクサスESとしてデビューしている。

 わかりやすくいえば、レクサスESはトヨタ カムリをベースとした“レクサス版”となるモデル。アメリカでは、ラインナップされるレクサスブランドの乗用車(SUV以外ということ)では唯一FFとなることもあり、エントリーモデルというか、ある種“別枠”として位置づけられている。最近では、アメリカ市場でもクロスオーバーSUVの人気が高まり、レクサスブランド車でもSUVが売れ筋となっているが、ESはセダンのなかでは最も販売台数が多くなっており、2020暦年締め年間販売台数は4万3292台となり、レクサスRX、同NXに次いで、レクサスブランド車では売れている。

 南カリフォルニアの新車販売事情に詳しい現地在住の知人は、以下のように語ってくれた。

「SUVがここまで人気となり、当たり前のように乗られるようになる以前、レクサスESは販売台数が多いだけではなく、値引き額が少なくても売れたので“台当たり利益”も良く、苦労せず数を売ることができたそうです。アメリカのそこそこレベルの企業あたりまでで、日本でいうところの課長などの中間管理職の特にお父さんは、カムリに乗っていることが多かったです(通勤用として)。カムリは、日本でいうところのカローラセダンに相当するモデルとなります。

 そして、課長から部長へ昇進すると、オフィス内に専用の個室が与えられることが多く、一気にステイタスアップとなります。すると、昇進前まではレクサス車を買うためのローンやリースを申し込んでも審査が通らなかったとしても、昇進したことで通るようになったとして、真っ先にカムリ(または同クラス車)からレクサスESへと乗り替える人が多かったそうです。

 アメリカでは、乗っているクルマはそのまま、その人の“身の丈”を表わすことになります。カムリからレクサスESへ乗り替えることができたということは、その人自身の社会的ステイタスアップを表現することになるので、そのうれしさから、値引き交渉もそこそこにレクサスESを買っていく人が多いと聞いたことがあります」

日本とはレベルが違う米国の格差社会

 アメリカにおいては、レクサスだけではないが、ラインナップ内でも明確なヒエラルキーが存在する。たとえば、レクサスではLSが富裕層ファミリーのお父さんが乗るメインのクルマであり、そのほかは“ギフト(贈り物)”として家族にプレゼントされることも多いとのこと。

「たとえば、アメリカでは新車がクリスマスプレゼントとしてよく売れます。ある知り合いのレクサス店のセールスマンのお得意様が、レクサスRXを奥様へのクリスマスプレゼントとして購入したそうです。すると、『クリスマスの朝に付き合ってほしい』と言われたそうです。朝早く、言われた通りにサンタクロースの格好をして新車のレクサスRXをお得意様の自宅へ持って行くと、ガレージに入っている、それまで乗っていた奥様専用車と新車のレクサスRXを入れ換えてほしいと言われたそうです。

 そして、ガレージ脇でしばらく待っていると、お得意様の奥様が出勤のためにガレージに来たそうです。当然、奥様は新車のレクサスRXになっているのに驚き、そのときにサンタクロース姿のセールスマンと旦那さんが登場し、サプライズプレゼントとなったそうで、奥様は大変喜ばれたとのことです」とは前出知人。

 さらに、この知人は「少々昔の話ですが、豪邸に住んでいるメチャクチャリッチなご家族が来店し、『娘のために』と高校への通学用にレクサスIS Fをポンと小切手をきって娘さんにプレゼントしたそうです。娘さんは喜んで高校へ乗っていくと、同色のレクサスIS Fに乗っている同級生を発見し、翌日別の色に買い替えたそうです」とも話してくれた。

 また、景気が悪くなると、レクサスISや同ESなどより、トヨタブランドのフルサイズセダンとなるアバロンがよく売れるようになるとも聞いたことがある(不景気によりレクサス車ではローンやリースの審査が通らなくなったなどの事情もあるようだ)。

 もちろんIT関係で若くして所得が豊かになったベンチャー企業の社長が過去にはレクサスGSを購入したり、やり手の若い女性経営者がレクサスNXを購入することもあるが、奥さんや娘さん、あるいは息子さんへのギフトとしても、レクサスLS以外はよく売れるというので、格差社会が広がっているとされる日本よりも、レベルの違う格差社会がそこには存在するのがよくわかる。

 おもしろい話としては、レクサス車でHEV(ハイブリッド車)のラインナップを始めた頃、あるお得意様にHEVを勧めると、「HEVならトヨタブランド車しか買わない」と言われたそうだ。つまり、この顧客はレクサス車がトヨタ製とは認識していなかったのである。仕方がないので、“トヨタ自動車製造”と書かれている、車内にあるプレートを見せて説明したとのこと。それだけ、アメリカではレクサスブランドが“トヨタの上級ブランド”ではなく、独立したブランドとして社会的認知を受けているのだと話を聞いて納得してしまった。

 そのなかでレクサスESは“一般庶民レベルでちょっとリッチになったら買えるプレミアムブランド車”という意味でも、レクサスブランドのエントリーモデル(あるいは庶民向けモデル?)とされている。

 アメリカのレクサス店では、通勤時にメンテナンスで自分のレクサス車をサービス工場に持ってくると代車を貸してくれるのだが、この代車となるのはレクサスESもしくはレクサスRXが一般的で大量に用意されている。お客は代車でオフィスへ通勤し(今はリモートワークも多いが)、帰宅時に代車を返して自分のクルマで帰宅することになる。

 海外で展開している、トヨタ以外の日本メーカーのプレミアムブランドだけでなく、欧州のプレミアムブランドのなかでは、レクサスESのような立ち位置のモデルは見当たらないところでも、ニーズがレクサスESに集中しているようだ。つまり、レクサスのライバルブランドでは、レクサスESのように、それほど際立って所得が高くない購入希望者でもローンやリースが通りやすいモデルが存在しないといっていいのである。

 また、日本国内でのレクサスブランドはアメリカほどの強烈なヒエラルキーはないのだが、それについては次回に詳述したい。

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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