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理央周「マーケティングアイズ」

旅くじ、2万円台で全線乗り放題…ピーチ、奇抜どころか実に理にかなった販売戦略

文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長
ピーチ・アビエーション
ピーチ・アビエーションのサイトよりより

 格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーションのプロモーションが話題になっている。

 まずは、「どこ行きかわからない飛行機のチケット」だ。いわゆるガチャ形式のカプセル型の自動販売機で購入する「旅くじ」を東京と大阪で始めた。カプセルの中には、東京での販売は成田空港から、大阪での販売分は関西国際空港から、それぞれ出発する飛行機チケットに引き換えられる「クーポン」が入っている。東京には11路線、大阪には13路線あるのだが、チケットに書かれている行き先はカプセルが出てからのお楽しみ、というもの。これを1回5000円という価格で販売をしている。

 通常、旅行は何を見に行くのか、何をするのかというような「目的」を決め、宿とそこまでの交通機関を予約する。しかしこの旅くじは、交通機関を決め、行く場所が決まり、宿を決める、といった逆の手順になる。顧客側は、どこに行けるのかワクワクしながら、くじを引くということになる。

 これまでにないやり方であるため話題性も出て、多くのメディアにも取り上げられたこともあり、東京、大阪の分は終了後に再発売をした。さらに11月からは名古屋でも販売を開始したのだ。

 また、10月に実施した1カ月国内の全路線乗り放題の「Peachホーダイパス」も面白い。

 このパスには、ライトプランが2万9800円、スタンダードプランが3万9800円という2つのプランがある。

 ライトプランは、座席指定と荷物のお預けが有料で、スタンダードのほうは座席指定は無料で、荷物も1つまでは無料ということ。さらに、先着30名までは、それぞれ1万円引きの1万9800円と2万9800円で、販売を開始した。いわゆる飛行機チケットの期間限定のサブスクだ。

 ピーチの国内線は30路線以上あるので、かなりいろいろなところに行ける。ホームページには、北海道で自然を楽しみ、東京でトレンドを満喫、福岡でラーメンを食べて日本1周になります、といった具合で、楽しみ方も載せていた。

 加えて、サーフィンをやりに行くのもいいし、動物に癒されに行くのもいい、と、このチケットで体験することが想像できる、楽しい告知ページになっているのが特徴だ。

LTVを向上

 この2つは、一見奇をてらったプロモーションに見える。しかし、実は理にかなっているのだ。

 いったん緊急事態宣言もあけて「外出したい」という気持ちになる層は増えるはず。

 今まで我慢していたので、ここでちょっと食事に出たい、外に出たいという消費行動を「リベンジ消費」と呼んだりするが、旅行も同じ傾向にあると踏んだのだろう。

 また、リモートワークが普及したこともあり、旅先で仕事をするというワーケーションのスタイルも浸透してきた。このようなニーズが増えていくなかで、LCCというピーチの市場でのポジションを踏まえて「市場機会」があると判断しての戦略だと考えられる。

 飛行機の座席は、いったん飛んでしまったらもう売ることができない、繰り越せない在庫になる。その意味で、閑散期など乗客が少ない時期には、空席で飛ばすくらいなら低い価格で販売するほうが良い、という考え方をする。ホテルが繁忙期と閑散期で価格を変えるのは飛行機業界のこのレベニューマネジメント(収益管理)という考えから来ている。この傾向は、コロナ禍ではなおさらだ。

 このプロモーションは、くじにしても乗り放題にしても、売り上げの上乗せが期待できる。

 そして、この抜群の話題づくりだ。期間中は各種メディアのみでなく、多くのSNSに投稿されたであろうから、認知度のアップにつながる。この期間中に、面白い、ワクワクすると、初めてピーチに乗ってくれる人が増えれば、その分顧客データを蓄積することができる。

 このくじや乗り放題のサービス以降にも、定期的に案内を出すことができる。さらに、ピーチファンになってくれれば、リピートも期待できるし、友人や知人への推奨にもつながる。

 顧客が初めて購入し、以降自社の商品やサービスを継続購入する累積の経済的な価値をLTV(ライフタイムバリュー:生涯顧客価値)という。ピーチは、当然このLTVまでを頭に入れ、長い目でみたら元が取れると考えた上で、今回のくじや乗り放題の計画を立てたのだろう。

 人は「知らないもの」は買わない。ピーチの施策のように、まずは試してもらって、その後ファンになってもらうという流れをつくることが肝要だ。それは、市場機会の発見、誰に何を売るのかという戦略を決定、そこから何をするのかという戦術を組み立てるという一連の流れで考える。

「何を売るか、どうやって売るか?」を先に考えるのではないのだ。

 このピーチの戦略は、多くの業界にも当てはめられる考え方だ。

(文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)

理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長

理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長

●理央 周(りおう めぐる、本名:児玉 洋典)

マーケティング・コンサルタント、企業研修講師。1962年生まれ。静岡大学人文学部卒。フィリップモリスなどを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBAを取得。アマゾンジャパン株式会社、マスターカードなどで、マーケティング・マネージャーを歴任。2010年に起業。収益を好転させる中堅企業向けコンサルティングと、従業員をお客様目線に変える社員研修、経営講座を提供。2013年より関西学院大学経営戦略研究科教授として教鞭をとる。著書は『「なぜか売れる」の公式』(日本経済新聞出版社)、『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(日本実業出版社)など。商工会議所や経営者会での講演、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌への出演、寄稿も多数。


マーケティングアイズ株式会社

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