コカコーラの売り方が「進化」している。なかでもコカコーラのアプリ「Coke ON」の仕組みが秀逸だ。このアプリを使い、歩いた歩数によってスタンプがたまり、一定数たまると自動販売機で1本もらえるというのが基本だ。
まず、ユーザーはアプリをダウンロードする。そして、ユーザー自ら1週間で何歩歩くかという“歩数”を設定する。ちなみに私は最低設定数の1日5000歩、1週間で3万5000歩に設定してみた。そしてスマホを持って歩いた歩数がカウントされスマホに累積される。1週間での目標歩数を達成すると、週明けにスタンプは1つもらえてリセットされ、また次の1週間が始まるといった具合だ。
ほかにも、累計で10万歩歩いたり、キャンペーンで2本買ったりすると追加のスタンプがもらえるというおまけの仕組みもついている。そして、スタンプが15個たまると、自動販売機でドリンクが1本もらえるチケットを得られるという仕組みなのだ。
ユーザーにしてみると、スタンプをためて報酬としてコカコーラ製品がもらえるため、歩こうというモチベーションになるので健康管理にもいい。したがって、ユーザーは毎日のようにアプリを見るようになる。
スマホアプリは、販売促進にとても有効なツールだ。一方で、ユーザーにはダウンロードさせる手間がかかる。さらに、やっとダウンロードしてくれたとしても、アプリを使ってもらわなければ意味がない。コカコーラとしては、ユーザーにアプリを見に来させることがとても大変なのだ。この仕組みはユーザーが歩数を確認したくなるので、ユーザーのほうが進んで見にいくことになる点が優れている。
また、スタンプがたまると当然、ご褒美の1本をもらいに行くことになり、ユーザーは嫌でもコカコーラの自動販売機を探して、自動販売機の前に行くことになる。さらにその時に「ついで買い」も期待できる。来させるのではく、行きたくなる仕掛けをしているのである。小売業は来店頻度が高いほど、購入頻度も上がるので売上の増加につながるのだ。
売上を伸ばす仕掛けは、アプリ内にも用意されている。アプリの下のほうに広告やキャンペーンを載せているし、1カ月2700円で1日1本買えるというサブスクリプションのサービスの告知もしている。ユーザーはアプリというネットでドリンクを探し、自動販売機というリアルな場所で購入し受け取るという、今の時代のオムニチャネルのあり方の好事例だ。
マーケティングの原理原則に則った売れる仕組み
さらに、自動販売機も進化している。コカコーラの自動販売機は、一部地域を除く全国に約70万台ある。それらが、インターネットにつながっていて、POSデータのように集計がされる。なので、仮に1台あたり1日10本売れたとしたら、700万回分のデータが入手できる計算になる。これをアプリと連動させれば、どんな人が、どこでどのような商品を何時ごろ引き換えたのか、あるいは買ったのか、という傾向が見えてくる。それを分析すれば、売り場所や地域によって、自動販売機の中の品揃えを変えたりできるし、売れ筋商品の開発にも反映できる。
これまで、消費財の会社は自社の製品をどれくらい出荷したのかはわかったが、出荷された製品が小売業者の店頭でどれくらい、どのように売れているのかは、小売店任せになっていて、把握できないケースが大半だった。IoTを活用するコカコーラの仕組みだと、実売数やどのように売れているのか、どんな商品がどんな人に好まれるかがわかることになる。
このように、コカコーラの一連の取り組みは、Coke ONのアプリとIoT自動販売機を組みわせたDX化ということになる。
企業経営者や事業責任者が、この事例から学べることは何だろうか。アプリの作成を急いだり、売り場にIoTを導入することももちろん重要だが、アプリやIoTデバイスは手法にすぎない。
この事例から学べることは、「ユーザー思いの姿勢」の着想と「収益を上げる仕組みづくり」の2点だ。Coke ONは単に売るためだけ、告知するだけのアプリではなく、健康志向のユーザーのためになる歩数計としての価値を提供していることが第一だ。次に、その提供価値を来店促進の仕組みに入れ込んでいること。価格訴求で来店させるのではなく、ユーザーに自分から行きたいと思わせることで、売るのではなく売れる仕組みになっている点だ。
一見、IoTを駆使した画期的な仕組みに見える。もちろんそうだが、健康志向の高まりという外部環境を分析し、自動販売機という自社最大の強みを活かし、ターゲット層を明確に設定し、メディアを組み合わせるというマーケティングの原理原則に則った、理にかなった売れる仕組みなのだ。
(文=理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)