オリックスの子会社で後発医薬品(ジェネリック)の有力メーカーである小林化工(福井県あわら市)は、業界大手の沢井製薬を傘下にもつサワイグループホールディングス(GHD)に全工場と従業員を譲渡する。譲渡するのは矢地第一・第二工場・オンコロジーセンターや清間第一・第二工場、総合物流センター、製剤技術総合研究所である。
全工場などの譲渡にサワイGHDと小林化工、オリックスの3者が合意した。サワイGHDが12月に新設した子会社トラストファーマテック(大阪市)が22年3月末までに小林化工が持つ福井県内の5つの生産拠点や物流拠点、約600人の従業員のうち製造部門など、およそ500人を引き継ぐ。新会社は小林化工の既存の製品は引き継がない。
「小林化工は被害者への対応が終わるまで会社を存続させる」(田中宏明社長)が後発薬事業から全面撤退する。サワイGHDは会社は買わず、工場と従業員の8割強を引き継ぐ、という変則的な買収となった。買収金額は公表していない。
これまでの経緯を見ておこう。オリックスは20年1月、小林化工の株式の過半数を取得して子会社にした。傘下に収めて1年も経たない20年12月、爪水虫治療薬に睡眠剤が混入していたことによる健康被害が発生した。服用した245人から健康被害の報告があり、2人が死亡した。
福井県や厚生労働省の立ち入り調査で、製造・品質管理などで多数の法令違反が判明。県から21年2月9日、製薬会社としては過去最長となる116日間の業務停止と業務改善命令を受けた。その後、医薬品の承認申請書類の虚偽記載なども明らかにになり4月、厚労省から12製品の承認取り消しと業務改善命令を受けた。
小林化工の田中社長は会見で、「目標として1年後の再開を掲げていたが、現状の体制を維持するのは困難と判断した。従業員の雇用を守らなくてはならない」と、自力再建を断念した理由を語った。
小林化工は譲渡金を被害者の補償や流通する自社製品の自主回収の費用に充てる。「補償は大半が終わっている」(同)としており、今後は清算・廃業に向かう。小林化工の21年3月期の決算公告によると総資産は866億円、うち固定資産は529億円。株主資本は724億円で自己資本比率83%と超優良の財務内容を誇っている。株主の負担なしで清算できる見込みだ。
オリックスは結果的に失敗したM&Aの“敗戦処理”のメドをひとまずつけた。オリックスが買収した当時の小林化工は業界屈指の優良企業だったが、ふたを開けてみたら“毒まんじゅう”だったことになる。ジェネリック市場は成長分野とみてオリックスは飛び付いたわけだが、オリックスのM&Aの眼力が問われることとなった。
サワイGHDはメリットの大きい工場と人員だけを取得
今回の取引はサワイGHDがオリックスに持ちかけた。それだけサワイGHDにはメリットが大きいということなのだろう。小林化工という法人を買収しないのだから、小林化工が販売してきた製品を引き継ぐ義務がない。不正のあった製品などをリニューアルして改めて出荷する必要がないのでリスクは少ない。工場と従業員だけ取得するのはこのためだ。
サワイGHDの澤井光郎会長は記者会見で、「製造設備だけでなく、医薬品製造に関わる人材の両方がそろうことが大きなポイント」と工場や人員を引き継ぐ狙いを語った。小林化工から譲り受けた工場でサワイブランドの後発薬を生産することになる。
サワイGHDは2031年3月期に年間230億錠の生産能力と20%以上の販売シェアを目標に掲げている。21年3月期の生産能力は年間155億錠。シェアは15.7%だ。この目標の達成に向けて九州第二工場(福岡県飯塚市)に405億円を投じて新しい製造棟を建設する。この製造棟の生産能力は30億錠。工場ができあがって出荷が始まるのは24年4月からだ。
そこで、小林化工の工場に目をつけた。福井県の工場の生産能力は30億錠ある。新設する工場棟と小林化工の工場を合わせると生産能力は215億錠に拡大する。目標とする230億錠にあと一歩だ。
取得額は公表していないが、業界筋の推定では100億円程度と見られている。建設中の自社工場より300億円も安い。サワイGHDにとって「おいしい買い物」に映ったのかもしれない。
日医工を突き放し一強体制を目指す
ジェネリック医薬品は価格が安く、医療費を抑えたい国の使用促進策によって、一気に市場を拡大してきた。だが、急成長による構造上の歪みが一気に露わになった。小林化工を皮切りに不祥事が相次いだ。大手の日医工は品質基準を満たさない製品を出荷していたことが判明。3月に業務停止命令を受けた。品質を保証するための製剤改良などに時間がかかり、現在も多くの製品を出荷できていない。
日医工は上場企業だが、それ以外でも長生堂製薬(徳島市)が厚生労働省に提出する承認書と異なる方法で後発薬をつくり業務停止命令を受けた。共和薬品工業(大阪市)は自主点検により一部に製造手順書の記載漏れや誤った記載が判明した。両社とも体制の立て直しのため製品出荷を絞った。
後発薬は品質不正などで生産が滞り、品不足が深刻だ。製薬業の業界団体、日本製薬団体連合会(日薬連)の調べでは、8月末時点で出荷量制限や欠品、出荷停止といった問題のある医薬品は全体の20%の3143品目。そのうち、後発薬は92%にあたる2890品を占めている。
ジェネリックメーカーは194社(19年11月時点)あり、そのほとんどが中小規模だ。ジェネリック医薬品の安定的な生産体制を築くためにも国は業界の再編に本腰を入れざるを得なくなった。サワイGHDの澤井会長は後発薬メーカーの業界団体のトップを務めるが、国とサワイGHDの考え方は微妙に違うようだ。「国は業界の再編を主導すべきではない」として小林化工の工場の買収に立ち上がったという見方もある。小林化工の資産を譲り受け、これを業界主導による再編のお手本としたいのだろうか。
後発薬医薬品業界は20年3月期に3年ぶりに首位が交代した。日医工の連結売上収益(国際会計基準)は19年3月期比14%増の1900億円となり、沢井製薬の売上収益(同1825億円)を抜いて首位に立った。19年4月に連結子会社に組み入れたエルメッドが首位躍進の原動力となった。
サワイGHDは巻き返すべく、小林化工の全工場取得に動いた。サワイGHDの22年3月期の連結売上収益は1964億円。コア営業利益は313億円を見込む。対する日医工は業務停止処分が影響して、売上収益は1850億円にダウンし、コア営業損益は119億円の赤字になると予想している。最終損益は186億円の赤字だ。
日医工の業績の足踏みを尻目に、サワイGHDは小林化工の全工場取得と自社工場の建設をテコに一気にシェアアップを図る。
(文=編集部)