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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国「失われた20年」到来の可能性…民間債務と高齢化率、バブル期の日本を上回る

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

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中国・上海(「gettyimages」より)

 世界の中央銀行が外貨準備資産として金の保有量を積み増している。昨年の総保有量は1990年以来31年ぶりの高水準に膨らんだ(2021年12月26日付日本経済新聞)。直近の10年間で15%増加している(約3.6万トン)。大規模な金融緩和で米ドルの供給量は膨らみ続け、金に対する価値が大幅に切り下がったことがその要因だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は金融引き締めに動き始めているが、通貨安によるインフレになりやすい新興国の中央銀行の米ドルへの不信感を払拭できていない。

 英シンクタンクの経済ビジネス・リサーチ・センターは昨年12月、「2020年代の重要な課題は世界経済がインフレにどう対処していくかだ。インフレをコントロールできなければ、世界はリセッションに備えなければならないだろう」と指摘している。

 このように世界経済の懸念はデフレからインフレにシフトしつつあるが、この動きの背景には世界経済の構造的な変化があると筆者は考えている。1990年は冷戦が終結した年であり、この年を境に中国をはじめとする旧共産圏の安価な労働力が世界市場に大量に流入した。冷戦終了直後の中国には「無限の労働力がある」とまでいわれ、「この労働力を活用すれば安価に製品を量産することができる」と考えた外資系企業は大挙して進出したことから、中国はあっという間に「世界の工場」となった。

 だが安価な労働力が永遠に続くわけがない。2010年代後半に入ると中国でも労働力不足が表面化した。若い世代の価値観の変化も大きかった。現在の20~30代の若者はきつい仕事を敬遠する傾向が強く、サービス業での雇用が増えていることもあって、製造業の労働力の確保が困難になった。そこにダメ押しとなったのが少子化だ。中国の出生数は近年急減している。

 米国でもコロナ禍で仕事を辞める人の数が記録的に増えている。昨年第3四半期に1270万人の米国人が離職し、離職した労働者の約3分の2が完全に仕事から離れてしまったという。そのせいで米国の労働参加率は45年ぶりの低水準になってしまった。

インフレの脅威

「長らく続いた安定の時代は終わり、グローバルな経済システムは大変革に突入する」

 このように指摘するのは相場研究家の市岡繁男氏だ。市岡氏が注目するのは世界のGDPの7割を占める日本、米国、欧州、中国の生産年齢人口(15~64歳)の推移だ。これらの国々の生産年齢人口は2014年にピークを迎え、その後は毎年減少している。国別で見ると日本が1996年、欧州は2011年、中国は2016年からマイナスとなった。米国はまだプラスだが、2020年の増加数は約70年ぶりの低水準だった。

 生産年齢人口が減少するなかで経済成長を保つことができたのは、世界的な低金利のおかげだった。高齢化が進む日本や欧州の長期金利がマイナスになったことで、債務の増加につながる量的緩和などの景気刺激策を講じやすかった。だが債務を増やし続けることで経済成長を維持し続けるという芸当は長続きしない。生産年齢人口が減少すればモノが足りなくなり、インフレになるのは時間の問題だからだ。

 「脱炭素」への急激なシフトもエネルギー価格の上昇(グリーンフレーション)をもたらしており、インフレ抑制のための金融引き締めが不可避の状況になりつつある。

 世界経済は新型コロナのパンデミック対策で債務が急拡大するなかで、インフレの脅威に直面しつつある。債務危機が起きるリスクが高まっている。国際通貨基金(IMF)は昨年12月、「世界の債務は2020年に226兆ドルと過去最大に膨れ上がり、金利上昇のなかでその持続可能性をめぐり懸念が高まりつつある」と指摘した。新型コロナのパンデミックに対応した巨大な景気対策が採られたことから、世界の債務の対GDP比率は前年比28ポイント増の256%に上昇し、年間の伸び率として第2次世界大戦後最大となったが、注目すべきは世界の債務増加の26%を中国だけで占めたことだ。

 市岡氏は「中国の民間債務の対GDP比率(220.5%)と高齢化率(12.6%)はともにバブル期の日本を上回っていることから、今後は日本のように『失われた20年』になる可能性が高い」と主張する。

リーマンショック級の金融危機が起きる可能性

 市岡氏はさらに「米国の非金融部門(政府+家計+企業)の債務総額の対GDP比率は1933年以来の高水準になっており、僅かな金利上昇で経済は破綻するのではないか」と予測する。数カ月前から「インフレの高止まりリスク」を警告してきたサマーズ元米財務長官も昨年12月、「米金融当局が経済に打撃を与えることなく過度の物価上昇を抑制するのは極めて難しい」とした上で「米国経済が今後リセッションに陥ると、長期にわたって困難な局面が続く」と警告を発している。

 21世紀に入り世界の債券市場はリーマンショックを経験したものの、マイナスリターンの年は少なかった。だがここにきて「世界的なインフレにより、物価上昇に敏感な債券を中心に価格が下落し、1999年以来最悪の年になる」という悲観的な見方が出ている。低格付け社債(ジャンク債)市場が再び活況を呈するなど危機の予兆はあらわれていないが、インフレがさらに進めば、状況は一変する可能性が高いだろう。

 ロシア中央銀行は昨年9月に発表した年次金融予測で「18カ月以内(2023年3月まで)にリーマンショック級の金融危機が起きる可能性」を指摘した。物価上昇に直面したFRBが利上げを余儀なくされ、世界経済は急激に悪化するというのがその理由だが、この予測が外れることを祈るばかりだ。

(参考文献)

『次はこうなる グラフで読み解く相場の過去、現在、未来』(市岡繁男著)

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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