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野村直之「AIなんか怖くない!」

なぜ成功する人たちは図書館に通うのか?他人とは違う知識で独創的発想を生む

文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員
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「gettyimages」より

“DXとAI”、 “DXと働き方改革”、“テレワークのコツ”など、コロナ禍で待ったなしになった改革が語られています。そのなかで、創造性の発揮を強調する人が多くいます。私もその一人で、著書『最強のAI活用術』の第5章「AI導入を支える人材が持つべきスキル」として「知識労働から知能労働へ」という小見出しを掲げています。

 知識の記憶と簡単な運用は計算機、AI(たとえばチャットボット)に任せる。しかし、そもそも、その知識が必要か否か、どこかに存在するか無さそうかに気づかないと、AIなどの道具を使いこなすことができません。眼前の問題を解決するために、その知識をどう入手、咀嚼し、アレンジして使いこなしたら良いかを考案し、独創的な新解法をその場で編み出せる必要があります。上記書籍では、そんなことができる人を、「知能労働者」と呼んでいます。

 そのような知能労働の担い手をどうやって育てるか? 振り子が左右に大きく振れるように、従順な労働者を育てる教育から、突然、創造性溢れる人材ばかり輩出すべく学校教育、社内教育、生涯教育の舵を切れるものでしょうか?

発想力、創造性全般を高めるために

 アンドリー・セドニエフ著 『IDEA FACTORY 頭をアイデア工場にする20のステップ』によれば、「アイデア発想は技術である」「才能の問題ではない」とあり、「質より量を重視すれば素晴らしい使えるアイデアが混じるようになる」といいます。同書では以下、発想の技術、脳や生活への配慮について具体的な処方箋を説明しています。

 同書にはまた、「天才と大多数の人たちの違いは、子どものころの創造性を維持できるかどうかである」とも書いてあります。大いに賛同いたします。実際、1968年に技術者と科学者の創造性を測定するNASA製のテストを1600人の子どもに行った実験結果を紹介しています。「5歳の時点で98%の子どもたちが天才的な創造性を発揮するが、(学校に通うようになって)その割合は10歳になると約30%に低下し、15歳になると10%にまで激減することがわかった。」そして、「伝統的な社会規範に従うよう指導され」てしまった大人のグループでは、「天才的な創造性を示したのはわずか2%に過ぎなかった」という結果が出ているそうです。

 さあ、どうしたら良いでしょうか? 

 テレワーク環境では会議の効率も上がり、むしろ仕事の生産性は向上したという報告も多数聞きます。しかし、その彼らも、同じ部屋の仲間とのふとした雑談から面白い発想が生まれる頻度は激減したともいいます。これは危機です。新人さんがちょっとした躓きを乗り越えるのにも、すぐにその場で先輩、同僚が肩越しに同じディスプレイを覗き込んでくれる何気ないアドバイスが大事だったりします。

 このような問題の解決を含め、リアルオフィス環境の(悪いところは引き続き排除して)良いところを取り入れるワークスタイルの確立は昨今の大きな課題といえるでしょう。発想を刺激しくれるような面白いこと(駄洒落を含めて)をその場で創造的にしゃべってくれるAIの登場までは、まだだいぶかかりそうという前提で考えてみます。

 リアルオフィスで顔突き合わせる以上の発想力を大半のメンバーが備えられるようにするにはどうしたら良いか。本連載のバックナンバーを適宜ご参照の上、Slackによるリアルタイム多メディア共有の新しいテレワーク環境下で雑談を復活させるコツなど、ご一緒に考えていけたら幸いです。

知識の多くは書籍の形をしている

「必要なことはWeb検索で全部わかる」と思い込んでいるように振る舞う人をときどきみかけます。本当にそうでしょうか? そもそも情報(a piece of information)と知識は違います。1つの事件報道や海外出張報告は情報ですが、「楽しい海外出張の手引き」という小冊子があれば知識ですね。「手引き」という呼び方に象徴されるように、知識は、(紙に書いてあれば)手でめくって「使う」もの。何をどうしたら良いか、「手引き」してくれるわけであり、単なる情報とは違います。

「楽しい海外出張の手引き」は一読してそれで終わり、ではありません。例えば、今度はまだ先輩社員の誰も行ったことのない国に行く自分のケースに当てはめて、若干なりともアレンジ(加工)し、出張中も携行して使うことになります。個々の具体的な知識を使いこなすには、体系的な方法論と、基礎知識の体系に触れ、ある程度咀嚼して、いざ本番のときに使えるよう身に付けていなければなりません。

 そうすると、多くの場合、100ページを超える書籍レベルの規模の図解入り文章を「読む」必要が出てきます。そこには、章立て、目次の形で知識の構造、体系が示され、基本的には先頭から読むと、体系的に理解できるようになっています。

 書籍には知識の比率が高く、ただのニュース記事、一般のWebページの大部分は、情報にすぎないことが多いのです。ただし、いわゆる知識まとめページ(ITならQiitaのようなサイト)は書籍より粒度が小さめでその場で検索、活用するにはやりやすい知識集かもしれません。豆知識、トリビアともよばれる蘊蓄系のページ、昔なら、おばあちゃんの知恵、みたいなページは1冊の書籍には不足だし、体系も構造も小さすぎてあまり知的トレーニングにはならないけれど、気分転換には良いものですね。

 ちなみに、「レファ本」といわれる、個別知識を百科事典のように網羅し、膨大な情報量をもった原典タイプの書籍があります。通読するよりは辞書のように、その都度「ひく」ものであり、エピソードのような生情報を豊富に含んだりするので「知識」度は通常の実用書、教科書より下がるかもしれません。

 でも、これはこれで大いに価値があります。お奨め「レファ本」の具体例とその活用法については、日垣隆さんの名著『使えるレファ本150選』(ちくま新書)をぜひご参照ください。目次にある「ニュースに惑わされない」人間になるきっかけがつかめるかと思います。

自分の殻を破り新たな発想や発想法に出会うための図書館活用法

 目下の課題、目的にぴったりの知識(多くは書籍)をどうやって見つけたら良いでしょうか? Amazonの書籍検索のレビューを読んだり、他の書評サイトをみたりしてもいいですが、そもそも、検索キーワードすらわからないとか、検索でヒットした多数の書籍の良しあしが(読む前なので)さっぱりわからない、という時はどうしたら良いでしょうか?

 自分の調査法(範囲、発想)、自己流の知識獲得法、活用法の殻を破ってくれる図書館の活用がお奨めです。元新聞記者・現フリーランス・ライターが執筆した『図書館「超」活用術 最高の「知的空間」で、本物の思考力を身につける』の、「すこし長めのまえがき」「なぜいま『図書館』なのか」「ネットでは見つからない自分だけの“解”」の冒頭には、

・仕事がうまくいかないなら、図書館に行くべきだ。

・忙しくていつも時間が足りないなら、図書館に行くべきだ。

・明日〆切の大事な仕事を抱えているなら、いますぐ図書館に行くべきだ。

と、一見すると「何をそんなに悠長な!?」と驚くほど、挑発的な問いかけとその回答=「図書館に行け!」が掲げられています。でも大丈夫。表紙にある、次の呼びかけは実に正しいと思います。

「ネットにはない『場としての力』をフル活用せよ!! 」

「みんなと同じ情報源(ソース)、同じ答えではもう生き残れないし、幸せになれない。」

「図書館をフル活用できれば、仕事も人生ももっとうまくいく!」

 誰も教えてくれない、答えなき時代の「知的生産術」である。ということで、図書館の「空間力」が、「集中力」「発想力」「思考力」「教養力(良い脱線で独創的な発想に至る素材)」などを助けてくれることが、様々な実体験と共に具体的に示されています。

 自分の調査法(範囲、発想)、自己流の知識獲得法、活用法の殻を破ってくれるという意味では、レファレンスサービスという一対一で助言、案内をしてくれる司書さんとの対話もイチオシです。勇気を出して話しかけてみましょう。NDC(日本十進分類法)を巧みに活用し、ときにその枠を超えて異分野、別ジャンルの本に重大なヒントが見つかることもあります。

 同書は、メタレベルで(根本的に)自分を変えてくれる可能性があります。高度知識労働者、知能労働者を増やしてくれそうなほど優れた本ですので、ぜひお読みください。図書館法によりサービスのほとんどすべてが無料というのも凄いことですね。

ただの情報ではないオンラインレポートで他人の価値観に触れる

 読書が素晴らしいといっても、大部の本を通読するのは大変ですね。読んでいるうちに、何を知りたかったのか忘れかねません。問題解決や、独自レポート執筆が目的なら、10冊くらい机に積んで、斜め読みして付箋をはさみつつ、マイペースの思考を貫き通すべきでしょう。

 書籍1冊よりは気楽に読め、特定テーマに関する小規模な知識体系であれば、オンラインレポートのサイトを見つけて、自分に合う、読みやすい著者の記事を参照すると良いでしょう。その選び方ですが、知識の編集・提示のスタイルが自分にとってわかりやすい編集方針のサイトを選ぶと良いでしょう。きっかけは「テレワークのこつ」など、目下の関心事項でWeb検索してそのようなサイトを見つけるのも良いでしょう。

 最近でいえば、ビジネスパーソンの多くが関心を持ちそうなポストコロナの市場予測など含む多数の多彩なテーマをわかりやすく載せているサイトの1つとして、ICT系の調査レポート R&Aという、KDDI Researchさんのこちらをあげさせていただきます。下記の最近の記事を少し読みましたが、単に過去の市場数値を読み解くだけの退屈なレポートではなく、「それはなぜなのか?」と人々の心理動向の変化にまで掘り下げて分析することで、初めて、新しいトレンドの誕生が腑に落ちる感じでした。これは、グラフの曲線を未来の年号にまで伸ばしただけの単なる外挿(これを「予測」と呼ぶクダラナイITが跋扈してます)ではありません。今のところ「なぜ?」を思考できる人間にしかできない本物の予測です。

「寄付とテック  マイクロドネーションで 若者の利他の気持ちを受けとめる」

「ラストマイルは『配達まで15分以内』の争いに ニューヨークで即時配送サービスが熾烈な競争」

「ウィズ・ポストコロナ時代の旅行トレンド」

「環境に配慮しただけで、商品は売れるのか」

やはり未知の人との対話が最高に刺激的

 どうしても図書館に足を運べず、レファレンスコーナーで会話する時間がとれないときはどうしたら良いでしょうか? この連載でもときどきご紹介している、オンライン展示会の展示ブースで説明員と対話するという代案があります。

 その説明員が仮に、さほど創造的でない相手だったとしても十分刺激になることがあります。企業の数だけ異なる文化があるので、異質の企業文化で育った人は、話題の振り方や、内容、表現の選び方、その展開の仕方が違っていて、新鮮です。当初お互いに話が嚙み合わないときに、「面白い! なぜだろう?」と考えることで、めちゃくちゃクリエイティブになり、高速で頭が回転するきっかけになることがあります。

 ということで、最後に3つ4つ、筆者が説明員をやるオンライン展示会をご紹介させてください(笑)。上3つは1月26~28日の開催です。

「ヘルスケアビジネス」オンライン展示会に情報漏洩対策ソリューションを出展

「ITネットワーク・セキュリティ」オンライン展示会に情報漏洩対策ソリューションを出展

「ネットショップ強化 EXPO ONLINE」にお客様の言葉を分析するマーケティング・サービスを出展

第2回マーケティング・販促サミット (2022/2/16-18)

(文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員。


1962年生まれ。1984年、東京大学工学部卒業、2002年、理学博士号取得(九州大学)。NECC&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ(株)を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、各種人工知能応用ソリューションを提供。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員。MITでは、「人工知能の父」マービン・ミンスキーと一時期同室。同じくMITの言語学者、ノーム・チョムスキーとも議論。ディープラーニングを支えるイメージネット(ImageNet)の基礎となったワードネット(WordNet)の活用研究に携わり、日本の第5世代コンピュータ開発機構ICOTからスピン・オフした知識ベース開発にも参加。日々、様々なソフトウェア開発に従事するとともに、産業、生活、行政、教育など、幅広く社会にAIを活用する問題に深い関心を持つ。 著作など:WordNet: An Electronic Lexical Database,edited by Christiane D. Fellbaum, MIT Press, 1998.(共著)他


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