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コロナ「オミクロン株の毒性弱い・指定感染症5類へ引き下げ」論への疑問

文=明石昇二郎/ルポライター
新型コロナウイルス感染症が拡大
「gettyimages」より

変異ウイルスはいつも海の外からやってくる

 日本で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症の「第5波」がなぜ収束したのかさえ、科学的にその理由を解明できていないうちに「第6波」が到来し、これまでで最大規模の感染爆発に至っている。

 日本で「第6波」の感染爆発が起きたきっかけが何であったのかは、すでに判明している。1月18日に本サイトに掲載された拙稿『在日米軍基地からオミクロン株が染み出し…米国、日本への感染拡大『輸出』の実態』でも指摘したとおり、「鎖国」と揶揄されるほど厳しい水際対策を取っていた日本に、これまでで最強の感染力とされる新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」を、米軍と米兵たちが持ち込んだのである。その証拠に、第6波で最初に「まん延防止等重点措置」が適用されたのは、大規模な在日米軍基地を抱える沖縄・山口・広島の3県だった。これまで新型コロナウイルスの流行は変異株の時も含め、いつも「海外」からやってくることを忘れてはならない。

 感染した米軍兵士たちが日本に入国し、基地から出歩いて前掲の3県にオミクロン株を広めるに至った最大の要因は、米軍兵士を日本の検疫の対象外にしている「日米地位協定」である。新型コロナ感染症の封じ込めには「憲法改正が必要だ」と唱える国会議員たちもいるが、「第6波到来」は現行憲法の不備や欠陥によるものではない。しかし日本政府は、日米地位協定の改定はしないのだという。

 米国の顔色ばかり窺い、地位協定ひとつ改定できないでいる我が国の国会議員らに、果たして憲法改正で米国を説得できるだけの気概と根性はあるのだろうか。そう言われて悔しければ、試しに日米地位協定を改憲の前に改定してみることだ。

指定感染症「2類相当」指定が諸悪の根源なのか

 感染症対策としての「憲法改正」論と同様に、一部の国会議員や自治体首長らが唱えているのが、感染症法上、新型コロナウイルス感染症を結核などと同じ「指定感染症2類相当」として厳しく管理しているのを、季節性インフルエンザ並みの「5類」に引き下げよ――という主張だ。

 保健所の機能がパンクしているのは、感染者を厳しく隔離・管理する「2類相当」にしていることが原因であり、オミクロン株の重症化リスクは「2類相当」指定するほど高くはないという見立てが、その理由である。ただ、この策では、「第6波」を収束させることはできないと思うのは、筆者だけだろうか。

 それに、「オミクロン株の重症化リスクは高くない」という大前提が正しくなければ、この主張は土台から瓦解する。オミクロン株自身の毒性が“弱い”のと、ワクチン接種による“軽症化”は、似て非なるものであり、この点の見極めも慎重を期す必要がある。

 新型コロナウイルスが日本に上陸してから2年以上が経ち、日本でワクチンを2回接種した人の率が今年2月7日現在で78.9%と高くなっていることが、感染した人の“軽症化”に貢献しているのだとすれば、オミクロン株の毒性が決して“弱い”わけではなくなる。加えて、体質や持病等の理由でワクチンを接種していない人の間では肺炎等の重症例もすでに確認されている。まだワクチン接種をしていない残り20%の人にしてみれば、やはり恐れるべきウイルスのままなのだ。

 しかも、「2類相当」指定が求める「感染者の隔離」や「PCR検査」は、すでにまったく徹底されなくなっている。そもそも、今年2月2日時点で「自宅療養」という名の自主的隔離をしている人が全国で43万4890人にも達しているので、感染者の隔離政策は事実上崩壊したのと大差ない。「第6波」による感染爆発のため、新型コロナ感染症の中等症や重症と判断されても、感染症病棟が満床のためすぐに入院できない。医療関係者から先週聞いた話では、東京の多摩地区で重症化した高齢の患者が地元の病院に入院できず、東京23区内の病院まで探してやっと受け入れ先の病院が見つかったのだという。このままでは、「隔離」以前に治療にたどり着けない人も多数発生しそうだ。昨年の秋頃なら、検査当日か翌日には結果が判明していたPCR検査にしても、今では結果が出るまでに数日待たされることもある。

 こうした状況を受けて東京都などでは、陽性患者の濃厚接触者で風邪のような症状がある場合、PCR検査や抗原定量検査を行なわないまま「新型コロナ感染症」と医師が診断する「特例疑似症患者」(みなし患者)の制度も、見切り発車的に始まっている。ちなみに、東京都内で2月6日に「特例疑似症患者」と診断された人は526人。この「特例疑似症患者」たちも、感染から3日以内にモルヌピラビルなどの新型コロナ治療薬を処方してもらえるのだろうか。

 山積するこれらの課題は、「5類」に引き下げることで解決されるのか。「5類」に引き下げることで、いったい何を守ろうとしているのか。

喫緊の課題は「憲法改正」と「2類の見直し」なのか

 さらに言えば、新型コロナ感染症を「5類」に引き下げるのなら、水際対策にも悪影響を与える可能性があることも考慮しなければならない。

 現在、新型コロナ感染症は「2類相当」であるため、検疫法に基づく「検疫感染症」に指定されており、海港や空港において、海外から来日するすべての人に対して検疫を行ない、陽性患者を発見したら隔離、停留、消毒等の防疫措置を行なうことになっている。しかし「5類」になると検疫感染症ではなくなり、強制的に検疫や隔離を行なうための法的根拠がなくなる恐れがある。現在、厚労省が定める「検疫感染症一覧表」には、「5類」の感染症はひとつも含まれていないからだ。

 検疫だけは「2類相当」のまま――なんてことができるのか。そしてそのことに対し、諸外国や来日される人からの理解と支持は得られるのか。「5類」に引き下げることの影響は、国内にとどまるものではなく、外交や国益にまで及ぶのである。

        ※

 水際対策への配慮がないまま「5類」に引き下げるのなら、感染力の強い変異ウイルスが海外で登場するたびに、日本国内で感染爆発が繰り返される事態を覚悟しておく必要もありそうだ。米兵らの検疫を事実上免除していたことでオミクロン株の大規模上陸を許したのと同じ轍を、我が国は踏み続けるのか。つまり「5類への引き下げ策」は、一部の国内事情しか見ていない議論であり、思慮が足りない。

 そんなわけで、諸政党や国会議員の皆さんの一部から威勢よく発せられている「新型コロナ政策」には、感染爆発の速やかな収束や、今後の感染爆発を未然に防ぐ上で役に立ちそうなものは、残念ながら見当たらないのが実情だ。

 となると、私たち庶民はどのようにして今回の「第6波」を乗り越え、やり過ごせばいいのだろうか。そもそも、喫緊の課題は「憲法改正」や「2類相当指定の見直し」なのか。このままでは、私たちは首相官邸に出入りする議員や専門家たちの無能を呪い、その不幸を嘆くことしかできない。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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