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根強い人気の「釜めしの素」、客層の高齢化が課題…丸美屋の若年層への訴求戦略

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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根強い人気の「釜めしの素」
具材と一緒にコメを炊く「釜めし」は在宅の定番メニューだ(写真提供=丸美屋食品工業)

 職種やその日の仕事内容で異なるが、自宅でのリモートワークが一般的となった。食品メーカーの商品パッケージには「在宅の昼ごはんに」の文字を入れる商品もあるほどだ。

 巣ごもり消費が始まった2020年春は、「パスタやパスタソースが売れた」「レトルトカレーは、巣ごもり長期化の見通しで特売品にシフトした」という話を聞いた。

 また、在宅で過ごす時間が増え「調理にひと手間かける」消費者も多かったようだ。2020年のインスタントラーメン(即席麺)市場は、カップ麺よりも袋麺が伸びた。一方で調理する頻度も増えたので、市販の食品を活用して時短を図る消費者も目立った。

 すでに3年目に入り長期化するコロナ禍、家庭内の調理はどんな状況なのか。それを探るテーマに「釜めしの素炊き込みごはん」を選んでみた。根強い人気があり、食卓の定番メニューだからだ。首位ブランドを持つメーカーに取材しながら消費者心理を考えた。

市場規模は約200億円

 まずは「釜めしの素・炊き込みごはん」の市場規模を聞いてみた。

「2021年の市場規模は約200億円です。他社からも注力商品が多く発売された2017年には約210億円まで伸びましたが、その数字からは少し落ちました。とはいえ、消費者のコメ離れが進むなかでは手堅い市場といえます」

 丸美屋食品工業の永田温子さん(マーケティング部 釜めし・米飯チーム)は、業界の現状をこう説明する。

 大型小売店の陳列棚を見ると、味噌・醤油メーカーの商品も人気だ。長年培った製造技術の応用もできるのだろう。昨年の売れ筋ランキングは次のようになっている。

■「釜めし・炊き込みごはん」売れ筋ランキング(2021年1~12月)

順位:商品名/容量、メーカー名
1「丸美屋 とり釜めしの素」(134g)丸美屋食品工業
2「丸美屋 五目釜めしの素」(147g)丸美屋食品工業
3「地鶏釜めしの素」(233g)ヤマモリ
4「炊き込み御膳 とり五目」(272g)江崎グリコ
5「炊き込み御膳 鶏ごぼう」(238g)江崎グリコ
6「らくらく炊きたて赤飯おこわ」(393g)イチビキ
7「九州かしわめし」(210g)ヤマモリ
8「丸美屋 とりごぼう釜めしの素」(128g)丸美屋食品工業
9「井村屋 お赤飯の素」(230g)井村屋
10「山菜五目釜めしの素」(247g)ヤマモリ
(出所)取材を基に筆者作成

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長年首位の「丸美屋 とり釜めしの素」(写真提供=丸美屋食品工業)

「具材を足す」消費者は3割

丸美屋 とり釜めしの素」は1970年発売で、今年で52年となる。発売の経緯は後述するが、長年、同分野の売れ筋ランキング首位だ。これ以外にも、さまざまなシリーズ商品を展開しており、釜めしの素シリーズの年間販売個数は約2800万個となっている。

 消費者はどんな調理をしているのだろうか。

「釜めしの素に関しては、あまりみなさん調理を工夫されません。具材の入った釜めしの素をお米に混ぜて炊くだけ。白いごはんに比べてご馳走のイメージもあり、おかずを1品減らせるので、釜めし自体には手をかけない人が多いようです」(永田さん)

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釜めし・米飯のマーケティングを担当する永田温子さん(筆者撮影)

 以前の取材で、同社が販売する「丸美屋 麻婆豆腐の素」は「別に用意したひき肉を足したり、ねぎや春雨を足したり、各家庭で工夫する」という話を聞いたが、釜めしの素はあまり手を加えないようだ。ちなみに「具材を加える約3割:加えない同7割」と聞く。

 全国各地に「ご当地釜めし」もあるが、売れる味の傾向は地域で違うのだろうか。

「地域性もあまりないですね。それぞれ『筍』『鯛』『はまぐり』『牛肉たけのこ』を具材に入れた期間限定の釜めしの素を発売すると、各商品の支持をいただきますが、地域によってこの具材の人気が高まることもありません」(同)

 永田さんが触れた「筍」「鯛」「はまぐり」「牛肉たけのこ」は春の具材で、秋は「松茸」「栗きのこ」「かに貝柱」などが期間限定で登場する。

高度成長期に「手間のかかる料理」を簡便化

 丸美屋の商品でもっとも有名なのは、ふりかけ「のりたま」だろう。長年トップブランドの大黒柱で、2020年に発売60年を迎えた同商品に次ぐ柱として、「とり釜めしの素」が開発された。

 なぜ「釜めし」に目をつけたのか。

「海や山の幸をお米と一緒に炊き込んで味わう『釜めし』は、古くから全国各地の郷土料理でしたが、メニューとして認知されたのは1960年頃でした。1960年代の釜めしは、外食と駅弁として有名だったのです」(同)

 外食では東京・浅草が本店の「元祖 釜めし春」は1926年の創業。神奈川県横浜市「お可免」(おかめ)は1927年だ。「鳥ぎん」(本店は東京・銀座)や「釜めしビクトリア」(福岡県福岡市)など、昭和20年代に創業した老舗店もある。

 駅弁では今も人気の「峠の釜めし」(本店は群馬県安中市、JR横川駅前)が有名だ。益子焼の土釜に入り、「駅弁の歴史を変えた」といわれる同商品の発売は1958年だった。

「その一方で、さまざまな具材が入った釜めしは、家庭でつくるには手間のかかるものでした。そこで当社は加工食品としての開発を始めたのです」(同)

 1970年「丸美屋 とり釜めしの素」が発売されると、すぐに人気を呼んだ。時系列では1969年発売のヤマモリ「鳥肉入り山菜釜めしの素」が先駆者だが、この2社が黎明期のレトルト釜めし市場をリードした。

 世の中は高度成長期、レトルトカレーやインスタントラーメンも浸透した時代だった。

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現在は期間限定品も発売。小売店では季節を意識した訴求も行う(写真提供=丸美屋食品工業)

若年層の訴求に「台湾まぜめしの素」も発売

 半世紀にわたり親しまれてきた「釜めしの素」だが、課題も残る。コアユーザーが中高年となっており、次世代を担う若年層の開拓が不可欠なのだ。丸美屋はどうしているのか。

「コロナ禍で、30代や40代の子どもを持つ世帯の方が釜めしや混ぜごはんの素を買われる頻度が高まっています。そこで2月17日に『鶏肉を加えて作る 和風五目ごはんの素』『豚肉を加えて作る 中華風五目ごはんの素』を全国発売しました。

 また、同じ日に『台湾まぜめしの素』も発売。こちらは台湾まぜそばで有名な『麺屋はなび』さん(本店は名古屋市)に監修いただいたコラボ商品です。従来からある商品も大切にしつつ、新たな顧客層を開拓したいと思います」(永田さん)

 前者の「加えて作る」シリーズは、少し具材を足したい層や、“手料理感”を高めたい層にも訴求したという。現在放送されているテレビCMも「家族」を打ち出している。

 これ以外に、あまから醤油味の「鶏めしの素」、角煮のたれ味の「豚めしの素」、すきやき味の「牛めしの素」、親子丼風の「親子めしの素」も販売する。

 ごはんに何かを混ぜて炊く商品を増やし、トレンドの味を取り入れながら、若年層も開拓する狙いだ。

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若年層にもさまざまな商品で訴求する(写真提供=丸美屋食品工業)

デリバリーでも人気の「釜めし」だが……

 近年はデリバリーでも「釜めし」が知られている。有名なのは宅配御膳「釜寅」(運営会社はライドオンエクスプレスホールディングス)だろう。宅配寿司「銀のさら」「釜寅」の併設店舗も多く、デリバリー専業だったが、2019年からは岐阜県岐阜市で「和食レストラン 銀のさら」(開業時の店名は「和食レストラン 釜寅」)も展開している。

 こうしたデリバリーの釜めしも中高年層やファミリー層の支持が高く、たとえば20代の若者が同世代の友人と集まった時のデリバリーで選ばれる商品ではない。人によって好みは分かれるが、若者はピザやハンバーガーを選ぶことが多いだろう。

 また、自宅でつくる味付けごはんには「チャーハン」もある。冷凍食品としても人気で、こちらは若者の支持も集める。

 伝統商品として根強い人気の「釜めし」を一気に若返らせる必要はないが、古臭いと思われない訴求は大切だろう。商品分野は違うが、女性向け美容商品では「おばあちゃんの家の鏡台にあった」というイメージを持たれると、若年層からの支持は得られにくい。

 飲料の世界では、中高年向けのイメージを一新させた商品カテゴリーがある。「エナジードリンク」だ。それまでの「栄養ドリンク」とは違う訴求で、若年層の支持を集めた。

「××の素」を幅広く訴求する

 丸美屋が行う手法は「釜めしの素」を大切にしつつ、「××の素」シリーズとして幅広く展開するものだ。今後、どこかで「SKU(受発注・在庫管理上の最小の管理単位)の視点から商品を絞り込む」動きが出てくるかもしれないが、まずは幅広い味で訴求して、トライアルユーザーに興味を持ってもらうやり方だろう。

「コメ離れ」といわれる一方で、白いごはんよりも何かを乗せたり混ぜたりするごはんが好きな消費者は多い。長引くコロナ禍で、在宅の食事でも気分転換を図りたい人が多い現在は、逆にチャンスなのだ。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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