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梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

なぜ東北新幹線は脱線?なぜ免震構造ではなく、揺れの大きいコンクリート高架橋?

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
東北新幹線「やまびこ」に使用されているE6系の車両(「Wikipedia」より)
東北新幹線「やまびこ」に使用されているE6系の車両(「Wikipedia」より

 福島県沖を震源とするマグニチュード7.4の地震が2022年3月16日の23時36分32秒に発生し、宮城県登米市・蔵王町や福島県相馬市・南相馬市・国見町で最大震度6強を観測した。この地震で東北新幹線は大きな被害を受け、特に福島駅から白石蔵王(しろいしざおう)駅へと向かっていた東京駅21時44分発、仙台駅23時46分着となる17両編成の「やまびこ223号」が脱線してしまう。脱線の衝撃は大きく、車内に乗客75人、乗務員3人の計78人がいたうち、4人が負傷した。

「やまびこ223号」は17両の車両のうち16両が脱線したという。仙台駅方から17号車、16号車、一番後ろの東京駅方が1号車と連結されているうち、1両目の17号車から4両目の14号車まで、そして6両目の12号車から17両目の1号車までが脱線し、5両目の13号車は脱線を免れた。

 各車両には1両につき走行装置の台車が2基装着され、台車1基に車輪が4輪取り付けられている。したがって、1両当たりの車輪の数は8輪だ。国土交通省の運輸安全委員会によると仙台駅方から1両目(17号車)から4両目(14号車)まで、6両目(12号車)から8両目(10号車)まで、11両目(7号車)から17両目(1号車)まではすべての車輪が脱線した。9両目(9号車)は2基の台車のうち後方となる東京駅方の台車の4輪すべての車輪が、10両目(8号車)は同じく2基の台車のうち前方となる仙台駅方の台車の4輪すべての車輪がともに脱線している。

 脱線は「やまびこ223号」が停止寸前か停止した直後に起きたと運輸安全委員会の調査官は言う。仮に脱線が走行中に起きたのであれば車輪がレールから外れた場所を通り、コンクリートの構造物などを大なり小なり壊しながら通るはずであるが、その痕跡が残っていないからだという。ともあれ、詳細な状況であるとか原因の究明は同委員会の調査を待たなくてはならない。

脱線当時は4分遅れて運転?

「やまびこ223号」が脱線した場所は白石蔵王駅から東京駅方2.1kmの宮城県白石市大平中目(おおだいらなかのめ)付近で、在来線の東北線と斜めに立体交差している地点からさらに400mほど東京駅方の場所だ。線路は直線で、仙台駅に向かって13パーミルの下り坂となっている。13パーミルとは水平に1000m進んだときに13mの高低差が生じる勾配を指す。東北新幹線のなかでは1982(昭和57)年6月23日と最初に開業した大宮-盛岡間では、仙台駅付近に存在する20パーミルを除いて最も急な勾配を15パーミル以内として建設されたから、脱線した場所は比較的急な勾配区間だ。

 線路はコンクリート製の高架橋の上に敷かれていて、アスファルトで舗装された上に設置された軌道スラブと呼ばれるコンクリート盤の上にレールが取り付けられた。直線区間用の軌道スラブ1個の寸法は長さ5m、幅2.34m、厚さ19cmで、軌道スラブ両端の真ん中に設けられた直径50cmの半円が目を引く。軌道スラブどうしの間隔は5cmで、中間にぽっかりと空いた直径50cmの円の中には直径40cmのコンクリート製の柱が建てられ、軌道スラブが前後にずれないように食い止める。

なぜ東北新幹線は脱線?なぜ免震構造ではなく、揺れの大きいコンクリート高架橋?の画像2
東北新幹線では軌道スラブを敷き詰めた線路がほぼ全線で採用された。写真は建設中の七戸十和田-新青森間で、基本的に軌道スラブは大宮-盛岡間のものと同じながら、レールを軌道スラブに固定するレール締結装置の数が片側7カ所と1カ所少ない。2008年11月17日 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の職員立ち会いのもと筆者撮影

 東北新幹線では軌道スラブを敷き詰めた線路がほぼ全線で採用された。写真は建設中の七戸十和田-新青森間で、基本的に軌道スラブは大宮-盛岡間のものと同じながら、レールを軌道スラブに固定するレール締結装置の数が片側7カ所と1カ所少ない。2008年11月17日 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の職員立ち会いのもと筆者撮影

 高架橋の高さは不明ながら、10mから20m程度はあるだろう。脱線した場所付近の高架橋の橋柱を見ると、ほぼ中間部分には水平方向に「つなぎ梁」と呼ばれる梁が1本架け渡されているからだ。この梁は高架橋の高さが10mを超えると橋柱の中間に装着されることになっている。

 脱線した当日の「やまびこ223号」はどのように走行していたのだろうか。現時点でわかる範囲で説明しよう。

「やまびこ223号」は定刻では1分停車の福島駅を23時21分に出発し、白石蔵王駅には23時31分に到着して1分停車した後23時32分に出発の予定であった。冒頭の説明でもわかるとおり、地震は23時36分32秒に発生している。JR東日本によると、この列車に乗り換えようとする旅客が乗っていた在来線の列車が遅れたために途中のどこかの駅で待機したために脱線当時は4分遅れて運転されていたのだという。

 だが、この説明でも合点がいかない。4分遅れの「やまびこ223号」は白石蔵王駅に23時35分に到着するはずで、地震発生の時点では同駅に停車している最中か、次の仙台駅を目指して動き出した直後かと思われるからだ。

 東北新幹線では震度4相当の揺れを検知すると即座に送電を止め、停電を検知した列車は非常ブレーキを自動的に作動させる仕組みをもつ。実は23時36分32秒の2分前の23時34分27秒にも福島県沖を震源とするマグニチュード6.1、最大震度5弱の地震が発生していた。JR東日本によると、23時34分27秒の地震が発生した際、「やまびこ223号」は約時速150kmで走行中で、非常ブレーキを作動させて停止した時刻は23時35分(秒は公開されていない)であったという。どうやら、「やまびこ223号」は4分ではなくさらに遅れて運転されていた可能性が高い。

並行する在来線の東北線との違い

 今回の地震で東北新幹線が受けた被害は「やまびこ223号」の脱線以外にも甚大であった。JR東日本によると3月21日現在で被害は福島県郡山市の郡山駅と岩手県一関市の一ノ関駅との間に集中しており、その数は駅や線路、施設合わせておよそ1000カ所に達するという。具体的な被害とその数とを多い順に挙げると、架線を支える金具などの損傷が約550カ所、軌道スラブをはじめとする線路の変位や損傷が約300カ所、以下架線用などの電柱が傾くなどの被害が79本、高架橋を支える柱へのひび割れといった土木設備の損傷が約60カ所、駅の壁面パネルの破損といった駅設備の被害が約10カ所、架線の断線が2カ所だ。

 東北新幹線は3月30日現在で郡山-一ノ関間が不通となっている。復旧の見通しは、郡山-福島間は4月2日、仙台-一ノ関間は4月4日だ。「やまびこ223号」が脱線した場所を含む福島-仙台間は4月20日前後となると見込まれている。

 一方で東北新幹線に並行する在来線の東北線は、地震発生直後こそ栃木県那須塩原市の黒磯駅と岩手県北上市との間が不通となった。だが、東北新幹線を上回る早さで復旧作業が進められ、3月17日夜にはいったん全線で列車の運転再開を果たす。

 3月21日になって福島県福島市内の東福島駅と伊達駅との間にある第2摺上川(すりかみがわ)橋りょうの橋脚にひびやコンクリートの剥離が生じていたのが見つかり、福島駅と福島県国見町にある藤田駅との間は再び不通となる。応急的な復旧工事が行われ、翌3月22日朝から列車の運転が再開された。

 最高速度が時速320kmの東北新幹線に対し、東北線は時速120kmと許容されている最高速度が大幅に低いため、応急的な復旧工事でも何とか走行できることは確かだ。それにしても同じような場所に線路が敷かれていながら、ここまでなぜ被害状況が異なるのであろうか。

 その鍵を握っているのは高架橋だ。東京駅と盛岡駅との間の535.3kmを結ぶ東北線に設けられた高架橋は186カ所に設けられ、延長は33.1kmである。高架橋の割合は6.2%だ。一方、東京駅と新青森駅との間673.9km(実際の距離。営業キロは713.7km)の東北新幹線には1109カ所の高架橋があり、延長は324.2km、割合は48.1%にも達する。

 高架橋はほぼ100%コンクリート製で、今回の地震ではコンクリートの被害が大きかった。阪神淡路大震災の被害を契機に耐震基準が強化され、東日本大震災も受けて高架橋への耐震補強工事が繰り返し実施されているにもかかわらずだ。

免震構造

 実はコンクリートの被害は地震の揺れに共振してさらに大きな揺れとなる結果、より大きくなってしまう。したがって、耐震性の向上には限界があり、根本的には近年建設されたビルに採用された免震構造といって地震による水平方向の動きが高架橋に伝わらないようにし、伝わったとしてもゆっくりとした揺れとなるつくりとしたいところだ。具体的には高架橋を支える柱と線路が敷かれる桁との間に強固なゴムをはさみ、柱からの地震の揺れをできる限り吸収して桁に伝えないようにする仕組みとなる。

 整備新幹線といって1990年代以降に開業した北陸、九州、北海道の各新幹線、東北新幹線でも2000年代以降に開業した盛岡-新青森間では免震構造が広く採用された。しかし、1982(昭和57)年に開業した東北新幹線大宮-盛岡間では採用例は少ない。既存の高架橋を免震構造に改良する例も見られるが、そう簡単ではなく、高架橋の共振は東日本大震災でも問題となったものの、いまだに解決していないのだ。

 免震構造が採り入れられた整備新幹線でも、場合によっては採用されないケースも見られる。ただいま建設中の北陸新幹線金沢-敦賀間のうち、福井県あわら市の芦原温泉駅と同県福井市の福井駅との間に架けられる九頭竜川橋りょうでは地震の揺れによる軌道スラブのずれが大きくなるという理由であえて導入されていない。そもそも、高速で通過する新幹線を列車を支える高架橋を免震構造とした場合に列車にどのような影響を及ぼすのかがまだはっきりしていないので、全面的に採り入れることは難しいとされている。

高架橋で線路を築くと建設費が安い

 それにしても、大地震での共振が大きくなるという欠点をもつコンクリート製の高架橋は東北新幹線、それも国鉄時代に開業した大宮-盛岡間465.2km(実際の距離。営業キロは505.0km)にとにかく多い。それもそのはずで、55.5%と過半数を超える258kmもの区間が高架橋となっている。

なぜ東北新幹線は脱線?なぜ免震構造ではなく、揺れの大きいコンクリート高架橋?の画像3
高架橋は一般的に写真の東北新幹線一ノ関駅のような都市部に多いが、東北新幹線では郊外の区間にも多数築かれた。東北新幹線の高架橋延長の324.2kmは、起点の東京駅から仙台駅までの実際の距離となる325.4kmに相当する。2002年5月19日 筆者撮影

 高架橋は一般的に写真の東北新幹線一ノ関駅のような都市部に多いが、東北新幹線では郊外の区間にも多数築かれた。東北新幹線の高架橋延長の324.2kmは、起点の東京駅から仙台駅までの実際の距離となる325.4kmに相当する。2002年5月19日 筆者撮影

 沿線にお住まいの方には恐縮ながら、東北新幹線の沿線は田園地帯が多い。東海道新幹線のように築堤と一般に呼ばれる盛土(もりど)を高く築いておき、道路との交差は短い架道橋で済ませたほうが高架橋ほど威圧感はなく、美観の面でも優れているように見える。

 けれども東北新幹線ではレール、まくらぎの下に砂利を敷くバラスト軌道をやめ、軌道スラブを用いたスラブ軌道を全面的に採用したため、盛土の線路では強度が足りない。また、東北新幹線では宮城県栗原市にあるくりこま高原駅と北上駅との間のやや北上駅寄りから北側は降雪が多く、線路の左右に雪をためておく貯雪式という構造が求められ、やはりコンクリート製の強固な高架橋が最適とされた。

 何よりも重視されたのは盛土と比べ、高架橋で線路を築くと建設費が安いという面である。盛土と比べて高架橋のほうが少ない面積の用地で建設できるからだ。盛土では斜面部分の土地が必要となるが、高架橋では線路の幅と同じ分かやや広めの土地で済むのである。高さ7mの盛土の場合、線路部分は12m、斜面部分は8mずつ必要になるので幅は28mだ。高架橋では線路部分の12m、少々余裕を見ても14m程度でよい。

 線路用地の面積は、実際の線路の長さが515.3kmの東海道新幹線が895万5652平方m、673.9kmの東北新幹線は588万7769平方mである。線路1km当たりの線路用地の面積は東海道新幹線が1万7376平方mである一方、東北新幹線はほぼ半分の8737平方mに過ぎない。東北新幹線大宮-盛岡間が建設された1970年代は列島改造ブームで地価が急騰した時期であったので、建設費を下げるためには高架橋の採用は必須であったのだ。

 列島改造ブームのおかげで東北新幹線が大地震の被害に遭うのは皮肉な現象である。地震の揺れにも共振しない高架橋とするには架け替えが一番かもしれない。でもそれでは長期間の運休は必至だ。既存の高架橋を比較的容易に共振しない構造に改められる技術の開発が待ち遠しい。

(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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