ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 上越新幹線「E4系」、なぜ引退?
NEW
梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

上越新幹線「E4系」、なぜ引退?“二階建て車両”の難点と利点 消える菱形パンタグラフ

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
上越新幹線「E4系」、なぜ引退?“二階建て車両”の難点と利点 消える菱形パンタグラフの画像1
E4系の2階席、通路をはさんで3人がけの腰掛が並ぶ客室の腰掛

 上越新幹線の「Maxとき」や「Maxたにがわ」として用いられているJR東日本のE4系という車両が2021(令和3)年10月1日限りで定期運行を終えるという。E4系の拠点となる新潟新幹線車両センターという車両基地を抱える同社の新潟支社は、この3月から「ラストラン企画」として車体にラッピングを施すほか、7月には専用ホームページも開設するという力の入れようだ。

 10月1日までの毎日にE4系を使用する列車も発表されていて、東京-新潟間の「Maxとき」が上下5本ずつの計10本、東京-高崎または越後湯沢間の「Maxたにがわ」が下り5本、上り7本の計12本、合わせて22本が設定されている。いま挙げた本数には東京-高崎または越後湯沢間で「Maxとき」と「Maxたにがわ」とを一緒に連結した3本を含んでいるので、実際に走行している姿を見られるE4系の列車の本数は19本だ。

 E4系とはどんな車両かと尋ねられれば、一言で説明できる。「二階建ての車両です」と。E4系は、先頭車を含めて連結されている8両すべての車体が二階建てとなっていて、駅や沿線で出合えば一目でわかるであろう。何しろ新幹線を走るほかの車両は、一階建ての車両ばかりであるからだ。

「あれ、新幹線にはもっと二階建ての車両が走っていたはずなのに……」というご指摘ももっともである。新幹線では二階建ての車両は1985(昭和60)年10月から活躍していた。最初に登場したのは東海道・山陽新幹線向けの100系だ。その後、東北新幹線向けにE1系という車両が1994(平成6)年7月に登場し、こちらは連結されていた12両すべてが二階建てとなっていた。しかし、100系の二階建て車両は2003(平成15)年に、E1系も2012(平成24)年にそれぞれ姿を消し、いまはもう見ることができない。

 今回引退するE4系は、1997(平成9)年12月にまずは東北新幹線向けとしてデビューした。上越新幹線では2001(平成13)年5月から走り出し、徐々に活躍場所を上越新幹線に移している。いまでは、上越新幹線の列車が東北新幹線の線路を走る東京-大宮間を除き、E4系を用いた東北新幹線方面の列車は走っていない。

 E4系が姿を消す理由は老朽化が進んだからだ。新幹線の車両は高速で長距離を移動できるために、JR在来線や私鉄の車両と比べて走行距離が極端に長い。走行距離は1年に20万kmを越え、長いものでは40万kmにも達する。このため、15年も用いられると走行距離は400万kmを越え、さすがに傷みが目立ってしまう。こうしてこの秋の引退を迎えることとなった。

 ところで、E4系の後継となる車両は二階建ての車両ではない。E7系といって北陸新幹線でも使用できる車両で、連結されている12両すべてが一階建てである。E4系の後釜の車両が二階建てとならなかったのは、新幹線で用いるには不利な面が目立つようになったからだ。

 E4系の車高は約4.5mと一階建ての車両と比べて1mほど背が高い。単に速く走るのであればモーターの力を強くすればよいが、走行中に発する騒音や振動を減らすことは難しい。前方投影面積が大きいので、どうしても騒音や振動が増えてしまうのだ。沿線への環境を考えるとスピードアップは難しく、最高速度はいま営業中のすべての新幹線の車両のなかで最も遅い時速240kmにとどまっている。

 ほかに理由を挙げると、二階建てであるために2階室はもちろん、その下の1階室でも乗り降りしづらいし、さらにはE4系のように全車両が二階建てだと乗務員や車内販売員への負担も大きい。バリアフリーの観点からもあまり歓迎されなくなってきたので、老朽化に伴う置き換えを機に、新幹線から二階建ての車両が去ることとなったのだ。

 E4系や二階建ての車両の欠点ばかりあげつらってきたが、多くの利点をもつからこそ導入されたこともまた確かである。その利点とは何かは、E4系の引退で新幹線から失われるものについて説明していくので、そのなかで取り上げていこう。

E4系の引退で新幹線から失われるもの1 二階建ての車両

 改めていうまでもないが、E4系がすべて姿を消すと同時に新幹線から二階建ての車両も失われる。二階建ての車両が導入される最大の理由は、車内の床面積を増やして収容力を高めるためだ。E4系で最も定員の多い車両は2号車で、定員は2階室が64人、その下の1階室が55人、車両の端に設けられた平屋の1階室が14人の133人となる。

 一方で新幹線を走る一階建ての車両では、1両当たりの定員は100人が最大だ。残念ながら定員は2倍とはならないが、それでも1.3倍は立派な数値である。なぜなら、8両編成を組むE4系の定員は817人(普通車763人、グリーン車54人)で、同時期に製造されて東北新幹線や上越新幹線でいまも走っているE2系を10両連結してやっと定員は815人(普通車764人、グリーン車51人)となるからだ。

通路をはさんで両側とも3人がけの腰掛が並ぶ座席配置

 E4系は朝夕に通勤・通学での利用の多い列車に用いることを目的に開発された。この結果、すでに説明したとおり二階建て車両となり、8両編成のE4系どうしを連結して16両編成で走らせられるようにしたのもその一つだ。

 もともと多い定員をさらに増やすため、普通車のうち1~3号車(16両編成の列車では9~11号車も)の2階室では通路をはさんで両側とも3人がけの腰掛が並ぶ。新幹線の普通車では、腰掛は通路をはさんで片側が3人がけ、もう片側が2人がけという配置が一般的なところ、1列につき1人多く旅客を乗せられる。

 車両の幅が3.38mのE4系といえどもさすがに1列に6人もの旅客を座らせるのはやや苦しい。腰掛に装着されたひじ掛けは通路側にしかなく、旅客どうしの間はもちろん、窓側にもなしと、新幹線の車両の設備としては異例だ。しかも、背もたれを倒せるリクライニングシートでもない。

 E4系もさすがに普通車の指定席では従来どおりの座席配置で、2階下、平屋とも1階室では自由席でもやはり通路をはさんで片側が3人がけ、もう片側が2人がけである。とはいえ、1~3号車の2階室の居住性が悪いかというとそうでもない。腰掛1脚に大人の男性3人が座るとさすがに窮屈だが、空いていて2人で腰掛けているときは広々としていて案外快適だ。

デッキに取り付けられたジャンプシート

 通勤・通学輸送を考えて設計されたE4系ならではの装備としてジャンプシートも挙げられる。ジャンプシートとは普段は壁に収納されていて、座りたいときに座布団部分を引き出すつくりをもつ腰掛を指す。1~3号車の新潟寄り、そして新潟方面行きの列車であれば進行方向左側のデッキに2脚設置されている。さすがにジャンプシートは定員には含まれてはいないし、座り心地もよいとはいえないが、立っているよりは楽だ。

上越新幹線「E4系」、なぜ引退?“二階建て車両”の難点と利点 消える菱形パンタグラフの画像2
E4系に設置されたジャンプシート

階段放送装置

 E4系は8両編成26本の208両が製造され、2021年度を迎えて7本、56両が営業を続けている。これら8両編成7本のうち、2003(平成15)年11月に製造された最も新しい1本にだけ、階段放送装置が用意された。

 階段放送装置とは、E4系がブレーキをかけた際に階段に立っている人たちが転ばないよう、これからこれからブレーキが作動することを階段付近のスピーカーを通じてチャイムと音声とで案内するものだ。具体的な働きを示すと、E4系がブレーキを作動させる約15秒前になるとまずはチャイムが鳴り、続いて「手すりにおつかまりください」という放送が流れ、再度チャイムと音声とが流れて旅客に注意を促す。

 言葉にすると簡単だが、仕組みは結構複雑だ。階段放送装置には各駅に停車する際にどのように速度を落とし、そしてどのあたりでブレーキを作動させるかのデータをあらかじめ入力しておく。実際に走行しているときには運転室に設けられたモニタ装置から、いまどの位置を走っているのかという情報が階段放送装置へと送られ、この装置は入力されたデータと比較して演算しながら、ブレーキをかける前に案内放送を流す。

 大変きめ細やかな心配りではあるが、結構大がかりであったようだ。2003年に製造された8両編成もう1本と合わせて2本にしか導入されず、他のE4系に追加で取り付けられることはなかった。

菱形のパンタグラフ

 E4系は二階建て車両ということもあって独自の構造をもつ機器類が多いので、この車両が引退すると必然的に新幹線の車両では使われなくなる。新幹線から姿を消すものもまた多いといえるが、少々専門的なものばかりで挙げていくときりがない。そこで、外から見えていて、一般にもおなじみの機器を紹介することとした。それはパンタグラフだ。

 鉄道車両が架線から電力を取り入れる装置をパンタグラフという。一昔前までは子どもたちが鉄道車両の絵を描くと、必ずと言ってよいほど菱形のパンタグラフが誇らしげに車両の屋根に鎮座していた。E4系のパンタグラフも菱形で、下側の2本の枠が交差した形状をもち、4号車と6号車とにどちらも東京寄りに搭載されている。

 ところで、2000年代に入ると菱形のパンタグラフは徐々に数を減らし、代わりにくの字形のシングルアーム式が主流を占めるようになった。シングルアーム式パンタグラフは押し上げる力が強いので架線から離れづらいし、使用する部品の点数が少なくて経済的だ。

 新幹線のように走行中の騒音値を抑えたい用途にもシングルアーム式パンタグラフは最適で、前方投影面積が小さいおかげでパンタグラフが風を切る音が減って好都合である。新幹線の車両のパンタグラフも徐々にこちらのタイプに切り換えられ、菱形で最後まで残ったのはE4系となった。

 E4系のパンタグラフが菱形となった理由はわかりやすい。この車両が設計された1990年代半ばの時点で、JR東日本は東北新幹線や上越新幹線、北陸新幹線など、フル規格の新幹線を走る車両向けのシングルアーム式パンタグラフを開発中であったからだ。同社の新幹線初のシングルアーム式パンタグラフは1996(平成8)年秋に製造された秋田新幹線「こまち」用のE3系が最初である。

 ならばE3系用のシングルアーム式パンタグラフをE4系に転用すればよいように思われるが、JR東日本は行っていない。当時同社はE4系に合わせて東北新幹線や北陸新幹線用にE2系を製造していた。だが、この車両のパンタグラフも菱形でE3系用のものはやはり導入されていない。

 E3系のシングルアーム式パンタグラフの周囲には、パンタグラフに当たる空気の速度を下げて空力音を減らす目的でパンタグラフカバーが設置された。これが結構大きくて長さは5mほどある。二階建て車両のE4系はもともと屋根上に機器搭載用のスペースが少ないので、E3系用のパンタグラフを搭載することは困難だ。

 ちなみに、JR東日本が開発していたフル規格の新幹線を走る車両向けのシングルアーム式パンタグラフは、2001(平成13)年に登場したE2系のマイナーチェンジ車両で実用化された。こちらはパンタグラフカバーなしでも空力音を減らせた改良版である。ならばE4系の菱形のパンタグラフもこちらのタイプに取り替えればと考えたくなるが、パンタグラフ近くに取り付けられている機器の位置を変える必要があり、手間が掛かると考えられたようで変更されていない。これはE4系だけなく、菱形のパンタグラフを搭載していたE2系でも同じであった。

(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

上越新幹線「E4系」、なぜ引退?“二階建て車両”の難点と利点 消える菱形パンタグラフのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!