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梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

電車の窓ガラス、なぜ割れる?なぜ新幹線の「複層ガラス」は曇らない?安全ガラスの種類

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
電車の窓ガラス、なぜ割れる?なぜ新幹線の「複層ガラス」は曇らない?安全ガラスの種類の画像1
「Getty Images」より

 筆者(梅原淳)は仕事柄、テレビ局からのコメントの依頼を多数受ける。さまざまな内容の質問があるなかで目立って多いのは踏切、それから鉄道車両に用いられている窓ガラスについてだ。踏切については本欄の『知ってビックリ「線路の踏切」の秘密…閉まってから到達まで20秒、カンカン音の決まり』で紹介したので、今回は鉄道車両に用いられている窓ガラスについて説明しよう。

 テレビ局から鉄道車両の窓ガラスについてコメントを求められるのは、窓ガラスの破損が発生したときである。その際に聞かれるのは原因、それから窓ガラスの強度だ。原因は大方判明している。多くの場合、走行中の列車に向けてだれかが投げた石が窓ガラスに当たって割れたのだ。動機はさまざまであろうが、とにかく危険なのでやめてほしい。

 ほかに、鉄道車両自体がレールやまくらぎの下に敷いてある砂利や砕石を舞い上がらせた結果、窓ガラスを破損してしまうケースも考えられる。けれども、鉄道車両に付着した雪が線路に落下し、その雪と一緒に砂利や砕石が固まらない限り、砂利や砕石が吹き上げられることはまずない。それに、鉄道車両が走行中に雪混じりの砂利や砕石を舞い上がらせるには相当な高速で走っていなければならないので、新幹線やJR在来線の特急列車はともかく、通勤電車ではまず起きにくい現象だといってよい。

 鉄道車両の客室に装着されている窓ガラスが割れると、決まってこう聞かれる。「もっと窓ガラスは強くできないのですか」と。イベント運転に用いられている古い車両を除き、現代の鉄道車両の客室に使用されている窓ガラスの強度は国の基準で安全ガラスまたは安全ガラスと同等以上の性能を有することと定められている。逆にいうと、安全ガラスよりも強いガラスは防弾ガラスのようにポリカーボネートを張り付けた特殊なものとなってしまう。となるとコスト面でも重量面でも鉄道車両に大量に用いることは難しい。

 ちなみに、安全ガラスという名称は個々のガラスの種類ではない。強化ガラス、合わせガラス、強化合わせガラス、複層ガラスというガラスの総称である。強化ガラスとは一般的なガラスである板ガラスに熱処理を施して強度を高め、と同時に割れたときに細かな破片となるようにつくられたガラスを指す。自動車用のガラスでもおなじみだ。

耐衝撃性の試験方法

 JISではガラスの強度を示す耐衝撃性について試験の方法を定めている。試験は強化ガラスだけでなく他のガラスも共通で、直径5cm、重さ508gの鋼鉄製の球をガラスの種類、厚みによって決められた高さから落とす。破損しなければもちろん合格、破損した場合はガラスの種類別に定められた条件に合致していれば合格となる。

 強化ガラスの場合、厚さが3.2mmならば90cmの高さから、4mm以上であれば1.1mの高さから鋼鉄製の球を落とす決まりだ。試験は同一ロットの6枚のガラスを選び、それぞれ1回ずつ球を落下させる。6枚のガラスのうち、破損したガラスが1枚以内ならば合格だ。もしも2枚以上割れた場合、同一ロットからさらに6枚を抽出して試験を行い、1枚も割れなかったときだけ合格となる。

 一方、強化ガラスの細かな破片とはどのくらいかは、JISのR3213「鉄道車両要安全ガラス」で定められた。ハンマーやポンチを用いて破砕した際、厚さ3.2mmの強化ガラスでは10cm四方の正方形の領域での破片の数は10個以上でなくてはならない。もしも10個未満の領域が存在したときは20cm四方の範囲での破片の数が40個以上となっている必要がある。一方、厚さ4mm以上の強化ガラスの場合、5cm四方の領域での破片の数は40個以上で合格だ。もしも40個未満の領域が存在したときは、その領域を含めた10cm四方の領域に広げて破片の数を数え、160個以上なければならない。

 合わせガラスとは、間にプラスチックをはさんで2枚以上のガラスを張り合わせたガラスを指す。ガラスとプラスチックとは接着されているので、ガラスが割れても破片の大部分が飛び散らないという特徴をもつ。合わせガラスには板ガラスを用いてももちろん構わないが、万全を期して強化ガラスを張り合わせた合わせガラスを採用したケースも見られる。1枚でも強化ガラスを使用した合わせガラスは強化合わせガラスと呼ばれる。

 耐衝撃性の試験は強化ガラスよりも合わせガラスのほうが厳しい。鋼鉄製の球を4mの高さから落とすからだ。試験は同一ロットの6枚に対して実施し、鋼鉄製の球が貫通せず、なおかつ衝撃面とは反対側の面から剥がれた破片の重さが20g以下となったものが5枚以上であれば合格となる。もしも、いま挙げた基準を満たすものが4枚以下であった場合、さらに同一ロットの6枚を抽出し、6枚とも基準を満たさなければ不合格となってしまう。

 複層ガラスとは、2枚以上の合わせガラスまたは強化ガラスを一定の間隔を置いて並べ、ガラス同士のすき間に乾燥した空気を詰めてから周辺を接着して密封させたガラスを指す。新幹線や特急列車など、窓が固定された車両向けとしておなじみだ。間に空気が入っているおかげで車両内外の気温差で客室側のガラスが曇ったり結露することはほぼないし、防音性や断熱性にも優れている。

 耐衝撃性の試験は使用されているガラスに合わせて行う。順序としては合わせガラスであるとか強化ガラスを製造した後に試験を実施し、合格したものを使用して複層ガラスをつくることとなる。

 今乗っている鉄道車両の客室の安全ガラスがどの種類のガラスかは、客室から見て右肩部分、または右下部分に表示されている。ガラスの種類は記号で示されていて、強化ガラスは「TR」(Tempered glass for Rolling stock)、合わせガラスは「LR」(Laminated glass for Rolling stock)、複層ガラスは「SR」(Sealed insulating safety glass for Rolling stock)だ。

注目浴びる複層ガラス

 さて、鉄道車両用のガラスの話題としては、2021(令和3)年1月に京阪電気鉄道の3000系という特急電車に新たに連結されることとなった座席指定車両のプレミアムカーに採用される複層ガラスが注目される。複層ガラスの内側に液晶ディスプレーや小型制御器版を収め、窓ガラスに列車の行き先や列車名、列車の出発時刻といった情報が車外に表示されるのだという。これまでは窓ガラスは単に窓の一部であり、行先表示器は窓とは異なる場所で役割を果たしていたが、両者が一体化されてとてもすっきりとした。ガラスを製造したAGCによると、車外への行先表示器を兼ねた鉄道車両向けの窓ガラスはプレミアムカーが世界で初めてだそうだ。

 複層ガラスに液晶ディスプレーを内蔵となると、この部分から外を眺められない。AGCによると、窓ガラスに透明ディスプレーを組み込むこともできるそうで、電源を切っているときは普通の窓ガラス、電源を入れると窓ガラスに情報や映像が表示されるとのことだ。これならば必要に応じて行先を表示するといった使い方もできる。

 一部のカーナビではプロジェクターから自動車のフロントガラスに情報を表示していることから、鉄道車両にも応用できそうだ。たとえば、鉄道車両の前面のガラスに速度計や計器といった情報を写し出せば、運転士があまり視線を移動せずに運転に専念できるようになる。

(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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