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小説『ムショぼけ』重版で確信した、21年間書き続けたことの意義【沖田臥竜コラム】

文=沖田臥竜/作家
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 まだ春は始まったばかりのある日。私の携帯電話が鳴った。お世話になっている小学館の担当編集のかたからであった。

「おめでとうございますっ!」

 開口一番そう告げられたとき、意表を突かれたと表現すればいいだろうか。何のことかまったく見当がつかず、「えっ?」と聞き返していた。

 「『ムショぼけ』の重版が決定しました!」

 やはり意表を突かれという表現は間違いではなかった。

 ずっと好きな話があった。のちに一流小説家として世に知れられる人が、エッセイで書いていた話だ。世の中に小説家と呼ばれる人はたくさんいて、その中に有名な小説家も存在している。だが誰しもが、いきなり有名になったわけではない。

 その小説家も不遇な時代が続いていた。勝負を賭けた一冊も火がつくことがなかった。そこから2年の月日が経ち、もうダメだ……と考えたその日、「散歩に出かけてくる」と妻に言って家を出た。あてなどはなかった。ただ、悩み、諦めかけた瞬間に、彼の携帯電話が鳴った。相手は編集者だった。

 「重版が決定しました! 『リング』の重版が決定です!」

 そう、それは貞子が登場することで知られるホラー小説が、出版から2年を経て、重版された瞬間だったのだ。その後の爆発的大ヒットはご存じの通りだ。彼は一躍、有名小説家の仲間入りをした。

 自分も諦めそうになると、いつもどこかでこの話を思い出していた。でも、我が身にその一報が届いたときには、突然のことに何のことかわからなかったのだ。それだけ、『ムショぼけ』が、それほど愛される作品になったのか、と思うと熱いものが込み上げてきたのだった。

 発売前から映像化が決まっていた『ムショぼけ』は、昨年秋から放送されたドラマで反響を呼び、その後のネット配信でも好評である。ここまではっきり言えるのは、私ひとりの作品ではないということだ。本当にたくさんの人たちが付き合ってくれたからこそ、生み出すことができた作品だ。

 作品を書き上げ、ドラマを撮り終えてからも、さまざまな新聞社や週刊誌が『ムショぼけ』を宣伝してくれた。そのほとんどが、自らの人脈で協力してもらったのだ。媒体数は何十を超えるが、全員が『ムショぼけ』を世に出すために骨を折ってくれたのだ。私が経営している会社の若い子らも、書店営業へと回ってくれた。

 そうした経緯があって、出版から7カ月という時を経て、重版がかかったのだ。それは嬉しいではないか。みんなひとりひとりに、ありがとうと言いたいではないか。もちろん、13冊も本を出していれば、重版されたことも一度や二度とではない。

 だけど、今回の作品は関わった人が多い分、それぞれの想いのうえに実現した重版だと思える。筆を握って21年。いろいろなことがあったが、書き続けていたことは間違いではなかった、と自分自身にしっかりと言ってやることができた。

 爆発なんてしなくていい。小さな喜びを一回一回噛み締めながら、末永く読まれていってくれればそれでいい。25歳のときに初めて書いた小説のタイトルを受け継いだ作品が映像化され、世の中で生きている。そこにはやはりドラマがあって、だからこそ文芸は面白い。

(文=沖田臥竜/作家)


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■『ムショぼけ2〜陣内宗介まだボケています〜』

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14年間の獄中生活を経て出所した元ヤクザ・陣内宗介は、社会や文化、そして友人や家族の変化に惑わされる、まさに『ムショぼけ』状態だった――。しかし、宗介は持ち前の侠気と愛される人柄で奮闘。怒りと笑いと涙が飛び交う日々の中、家族も仲間も、そして宗介自身も、どんな時代でも変わらぬ「大事なもの」と向き合いつつ、成長していくのだった。名優・北村有起哉さんの初主演ドラマとしても高い評価を得た『ムショぼけ』(2021年10月~12月/ACBほかで放送)。現在、NetflixやU-NEXTなどの配信での再生も好調で、SNS上にも多くのコメントが寄せられている。
本書は、そんなドラマ『ムショぼけ』の「その後」を、原作者・沖田臥竜が描き下ろした快作。さらに、『ムショぼけ』誕生までの裏側を綴ったエッセイの数々も収録。

定価:本体1200円+税/発売:サイゾー
amazonほか、各書店で発売中

●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)を原作にした同名ドラマが現在配信中(ドラマ『ムショぼけ』)。最新作は『ムショぼけ2〜陣内宗介まだボケています〜』。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

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