
2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻では、ウクライナ軍が想定を超える反撃によって首都キーウを守り切り、東部・南部地区での激戦に突入し、戦闘の長期化も予想されている。衝撃を受けた欧州、米国、日本などの西側諸国は、自国経済への悪影響を覚悟しつつも、一致してロシアへの経済制裁を発動している。これに対して、ロシアは通貨ルーブルが一時の大暴落から回復し侵攻以前のレベルに回復したこともあり、「西側の経済制裁は自国経済を痛めるだけで、完全な失敗である」と強気に断じている。
しかし、経済制裁はボディーブローのように徐々にロシアの経済活動をむしばみつつある。その一つの例が、ロシアの民間航空である。このままの状況が続けば、遅かれ早かれロシアの航空会社の航空機が少なからず運航不能に陥る。広い国土で民間航空の機能不全が起これば、ロシア経済の悪化にさらに拍車をかけることになるだろう。
ロシアの民間航空機の大半はエアバスとボーイング製
ソビエト連邦の時代は、民間航空機といえばイリューシンやツポレフといったロシア製の航空機ばかりであったが、ソ連の解体と冷戦終結に伴い、1990年代から次々と西側のジェット旅客機に置き換わり、現在では有力航空会社の保有機材の大半がエアバス、ボーイング製である。
例えば、ナショナル・フラッグ・キャリアであるアエロフロート・ロシア航空の航空機材187機の内177機がエアバス/ボーイング製であり、ロシア製はスホーイ・スーパージェットというリージョナルジェット10機のみである。また、国内線最大手のS7航空の場合も、航空機材105機の内88機がエアバス/ボーイング製で、残りの17機はブラジル エンブラエル製のリージョナルジェットである。
さらに、これらのエアバス/ボーイング製などの西側のジェット旅客機の大半が、西側の航空機リース会社からのリース機材で、ロシアの航空会社全体で500機以上がリースされている。
欧米の制裁 EU/米国域内飛行禁止、リース機の返却要請、パーツの輸出禁止
欧米はロシアのウクライナ侵攻後、即座に一連の経済制裁を発動した。航空での制裁は基本的に次の3つのカテゴリーである。
(1)ロシアの航空会社の航空機のEU/米国域内飛行禁止
(2)ロシアの航空会社へのリース機材の契約解除/返却指示(対リース会社)
(3) 航空機パーツの輸出禁止、技術サポートの停止
制裁に対してロシアもただちに反応した。EUなどの航空会社に対し、ロシア領内飛行禁止の制裁を発動した。また、EUの指示によるリース機材の契約解除/返却については、これを無視し、リース先の国籍からロシア国籍に変更し、かつ航空法を改正しロシアの航空当局が耐空証明を出し直した。