栃木県足利市は10日、重要文化財の名刀「山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)」の現・所有者が、同市に売却する意向であることを明らかにした。同市公式サイトで所有者のメッセージを発表した。
「山姥切国広」はEXNOA(旧DMMゲームズ)とニトロプラスが共同制作した名刀擬人化ゲーム『刀剣乱舞』(とうけんらんぶ)の人気キャラクターのひとりだ。同ゲームは2015年にPC版、16年にスマホホアプリ版がリリースされた。それ以降、同ゲームに登場する名刀が全国各地の博物館や美術館で展示されるたびに、多くのファンが会場に押し寄せている。日本刀文化の再評価にも期待が寄せられているほか、一部の自治体などが町おこしの一環として活用する動きも広がっている。
昔からの日本刀ファンに加え、『刀剣乱舞』由来のファンの急増が今回の同市の購入、所有者の売却にも影響したのだろうか。
「山姥切国広が幸せになることを願っている」
所有者のメッセージは「山姥切国広を愛して下さっている皆様へ」と題され、以下のように記されていた。
「ご心配をいただき本当にありがとうございます。5年前から、縁あって足利市とお付き合いをさせていただき、いつも誠実に真摯に向き合ってくださり、とても信頼しております。
山姥切国広を私達の元で眠らせて置くには存在があまりにも大きくなりすぎていて、正直守りきれなくなってきています。手放すのは断腸の思いではありますが、保管されている場所は私達も見学させていただきましたが、湿度、温度管理、セキュリティもしっかりされていて、とても居心地が良さそうでした。
考え抜いた結果、信頼できる足利市にお任せするのが一番良いのではないかと思っております。今後、山姥切国広が幸せになり、より一層皆様に愛されることを切に願っております」
同サイトには早川尚秀市長のコメントも掲載された。内容は以下の通り。
「6月8日の市議会一般質問における、山姥切国広の寄託や購入のご質問につきまして、私から、『何より所有者の気持ちが大事であり、これまでの良好な関係を基礎に適切に意思表示をしたい』と答弁したところ、大きな反響がございました。そうした中、所有者様から山姥切国広を愛してくださっている皆様に、ご自身のお気持ちをお伝えしたいとのご連絡を頂き、メッセージをお預かりいたしました。
私といたしましても、こうした丁寧なメッセージをいただき、たいへんありがたく思っております。今後のことにつきましては、所有者様との誠意を持った話し合いの中で詳細を詰めてまいりたいと存じます。
その際、430 年以上大切にされてきた足利ゆかりのこの刀を、私は責任をもって後世へ引き継いでゆきたいという思いをお伝えしながら、話し合いを続けたいと思います。詳細が決まりましたら、改めてお伝えしたいと存じます」
市制100周年展示に2万5000人
市が所有権を得れば今後、一般公開の機会が増えることも期待される。しかしTwitter上では、以下のように複雑な心境を吐露する刀剣ファンの姿も見られた。
「正直複雑です。刀剣乱舞が始まって山姥切国広を知る人が増えて、私たちが愛した刀が沢山の人に幸せを与えてるんだと勝手に嬉しくなっていました。でも、それと同時に所有者は怖かったのではないかとメッセージを読んで感じます。所有者様と山姥切国広の時間を奪ってしまったのではと悲しくてなりません」(原文ママ、以下同)
「山姥切国広を現所有者様から引き離したい審神者(編集部注:さにわ、『刀剣乱舞』のプレイヤーのこと)は一人もいないと思う。とても大事にされていると聞くし”断腸な思いをいだきつつ手放す“というのは悲しさが先に立ってすんなり”良いこと”と思えない。個人所有の限界を感じさせたのが刀剣乱舞のせいなら一審神者としてごめんなさいとしか言いようがない」
足利市の担当者は、『刀剣乱舞』などによる刀剣ファンの全国的な急増に触れながら、今回の経緯を次のように説明した。
「所有者の方とは、2017年年3月に市立美術館の展覧会で山姥切国広の展示から良い関係を築かせていただいていました。今年の2~3月に市制100周年を記念して、特別展を市立美術館で開催した際に、展示させていただいたところ2万5000人の方が来場されました。
市長のコメントにある通り、次の世代に受け継ぐためにしっかりと保存し、より多くの方にご覧いただくために、所有者の方から託されたものだと考えております」
(文=Business Journal編集部)