中国の習近平国家主席は2月25日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行った際、「中国はウクライナ問題の複雑で特殊な歴史的背景を理解し、安全保障問題におけるロシア側の正当な懸念も理解している」と述べて、今回のロシア軍のウクライナ侵攻について、一定の支持を表明。さらに、習主席は欧米などを念頭に「冷戦思考を捨て持続可能なヨーロッパの安全保障の枠組みを形成すべきだ」と指摘しロシアの立場に理解を示したうえで、「対話と交渉による解決を期待したい」などと強調していたことが明らかになった。
これを受けて、プーチン大統領は「アメリカとNATO(北大西洋条約機構)は長きにわたってロシアの安全上の合理的な懸念を無視し、何度も約束に背いて東への軍事配備を続けた」と指摘しながらも、「中国はロシアの重要な戦略的パートナーである」と強調するなど、習氏の助言を受け入れるかたちで「ロシアはウクライナとハイレベルの協議を行いたい」と付け加えていたこともわかった。
中国国営新華社通信などによると、中国は2月27日の国連安全保障理事会で、米国などが提出したウクライナ情勢に関する国連緊急特別総会の招集を求める決議(第2623号決議)について棄権に回ったほか、中国外務省も「中国政府の立場は、制裁は決して問題を解決するための根本的かつ効果的な方法ではなく、いかなる違法な一方的制裁にも常に反対してきた」とのコメントを発表するなど、2月24日のロシア軍のウクライナ侵攻後、ロシア寄りの立場を一貫して表明しており、中露両国間の新たな同盟関係を堅持する構えだ。
習氏とプーチン氏の個人的な関係
この背景には、中露両国が国境を接しており、友好関係を維持し平和な環境を守ることが中国の経済的発展に通じることなど地政学的な要素のほか、習氏とプーチン氏は個人的な関係が深く、これまで10回以上も首脳会談を行うなど親密な関係にあることも極めて重要な要素としてある。
また、習氏が信奉する指導者として、筆頭に上げられるのは毛沢東元主席だが、個人的に信頼している指導者はプーチン氏であることも背景にある。その大きな理由が、プーチン氏は習氏が切望している「終身皇帝」の理想を具体化、現実化している唯一の現存する指導者であることだ。
プーチン氏は2018年3月のロシア大統領選で勝利し、通算4期目となる大統領に就任した。さらに、20年3月には、ロシア連邦議会下院がプーチン大統領の続投を可能にする内容を盛り込んだ改憲案を承認したことで、24年に4期目の任期満了を迎えたあとも5期目を目指して再出馬できる見通しだ。現在のところ、有力な対抗馬も見当たらず、プーチン氏が5期目の大統領として当選することが有力視されており、プーチン氏は習氏が理想とする事実上の終身皇帝となることが可能だ。
習氏も今年秋の中国共産党第20回全国代表大会(第20回党大会)で、従来の2期10年の任期を上回る3期目の党総書記に選出されることがほぼ確実とみられている。さらに、すでに憲法の国家主席の任期の規定を削除していることから、プーチン氏と同様、終身皇帝の座も夢ではなくなっている。このようにみてくると、プーチン氏は習氏にとって、いわば「師匠」ともいえる立場であり、絶対的な存在といってもよいだろう。
台湾問題とウクライナ問題を「相互承認」
さらに、今回のプーチン氏のウクライナ軍事侵攻は、習氏にとっても他人事ではない。習氏は常々、中国による台湾の統一を公言している。習氏がプーチン氏を見習って、時期を見て台湾侵攻に踏み切ることが現実味を帯びてきている。
習氏とプーチン氏は2月4日の北京冬季五輪開会当日の首脳会談で、次のように台湾問題とウクライナ問題を「相互承認」している。
<ロシア側は中国の「1つの中国」原則に対する支持を確認し、台湾が中国の切り離せない一部であると認め、いかなる形の台湾独立にも反対する。(略)両国はNATOの拡大に反対し、同盟が冷戦思考をやめて、他国の主権と安全、利益、文明と文化、歴史的背景の多様性を尊重し、他国の平和的発展に対して、公平で客観的な姿勢で臨むように求める>
このようなことから、米国大統領在任中、中国を敵対視してきたドナルド・トランプ前大統領は2月22日、ラジオ番組に出演し、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、中国人民解放軍による台湾侵攻が起こりうると警告した。
トランプ氏は大統領時代のプーチン大統領との会談で「彼がずっとウクライナを望んでいたことを知っている」と指摘。「次は中国の番だ」と語り、「台湾併合の野心をあらわにする中国の動きを注視する必要がある」と指摘している。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)