10万人を超えるロシア軍がウクライナ国境線上に配置され、緊張が高まり続けていることを受け、世界中が刻一刻と変わる両国の情勢に翻弄され始めている。ロシアが「同国境付近での軍事演習を終えた軍の一部部隊が基地に帰還しつつある」と表明したことを受け、15日の米国株式市場は上昇して取引を終えた。両国国境付近での緊張緩和の兆しを受けた値動きだった。
しかし、ロイター通信は16日、記事『ウクライナにサイバー攻撃、ロシア軍一部撤収でも警戒続く 外交努力継続』を配信。ウクライナ戦略コミュニケーション・情報セキュリティーセンター15日(現地時間)、同国の国防省と銀行2行がサイバー攻撃を受けたと発表。また同声明で、ロシアの関与が示されたと報じた。
ウクライナの報道調査機関「親露メディアのフェイクあった」
“緩和”と“緊張”という、相反する現象と情報が世界中で錯綜している」。そうした状況は、米・欧州対ロシアという構図の中に埋もれがちな最大当事国であるウクライナも例外ではないようだ。
同国内の“親露メディア”のファクトチェックサイト「VoxCheck」は14日、(現地時間)『«Англосакси підбурюють до війни з Росією». Як маніпулювали проросійські медіа за тиждень 2-9 лютого』を公開した。
2月2~9日にかけて、同国内のメディアなどが「西側がウクライナに対してロシアに対し戦争を行うように扇動している」「西側メディアがロシアの侵略の可能性を煽っている」「英国の17億ポンドの融資を使ってウクライナが、掃海艇やミサイル艇などを整備することで、英国の軍産複合体に利用されている」などと報じた事を取り上げ、事実関係を整理し、「情報操作やフェイクニュースがあった」と指摘している。
ただし、同サイトは“親露メディア”の監視を主眼に置いているため、参照する際は注意が必要だ。なお「VoxCheck」の編集方針は以下の通りだ。
<監視するメディア:「Country」「Klymenko Time」「News」「Ukrainian News」、「Details」「Apostrophe」「From.ua」「Voice.ua」「KP inUkraine」(中略)これらのメディアがロシアのプロパガンダを故意に広めているとは主張していませんが、それらの資料にはロシアの虚偽の情報要素が含まれています。
フェイクニュースや情報操作を探し、それらに反論します。ファクトチェックの基本は『クリックアンドチェック』方式です。誰もが私たちの議論と情報源をチェックすることができます。検証は、関連するリンクを持つオープンデータにのみ基づくことができます。ファクトチェック付きの記事は、編集委員会の2人のメンバーによって署名されている場合にのみ公開できます>
ウクライナ軍人の給与30%増へ
ロシア軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の動向が事細かに世界中で報道されている一方、ウクライナ軍は現在、どのような状況になっているかのだろうか。同国の英語紙「KyivPost」は15日(現地時間)、『Zelensky Approves 30% Wage Hike For Ukrainian Military』を公開。ゼレンスキー大統領が、軍人の給与を引き上げるための法令に署名したことを報じた。
3月1日から適用され、軍人の給与を30%引き上げ、最低賃金を1万4000フリヴニャ(490米ドル)にするほか、国境警備隊の給与も20%引き上げるという。原資はインフラ関連予算から一部流用するという。今回の危機を受けた措置なのかは明記されていない。
ロシア・ウクライナ情勢をめぐるメディアの状況を全国紙国際面担当記者は次のように語る。
「各国メディア関係者もこの1ケ月、完全に翻弄されています。
今回のケースでは、ロシア・欧米メディアどちらも、政府の情報当局者や軍関係者などを一次情報源としないわけにはいきません。安全保障に直結する情報です。当局者は『どの情報を明らかにし、どれを伏せるのか』『どのタイミングでリークするのか』をコントロールすることができるため、それぞれの陣営の思惑は反映されていると思います。
メディアとしては、可能な限り複数のソースに当り、真偽を確かめどちらかに寄らないように心がけていますが、この情勢下ではかなり難しいと思います。
明確なのはロシア軍がウクライナ国境に10万人規模で展開しているということです。各国の外交的な努力が続いていることもまた事実です。いずれにしても、“戦略的な奇襲はできなくても、戦術的な奇襲は可能”という状況が変わらず続いていることです。国境線上に配置された大軍が全面撤退しない限り、純軍事的に言えば、“プーチン大統領が望むタイミングで戦争を始めることができる”という状況は変わりません。この状況が解消されない限り、さまざまな憶測報道は今後も続くでしょう」
“戦争の危機”の中で本格的な情報戦が始まっている。危機的な状況だからこそ、すべての当事者のリテラシーが問われている。
(文=Business Journal編集部)