
ウクライナ危機などをきっかけに、世界経済が大きな変化の局面を迎えている。1990年代初頭以降、ベルリンの壁が崩壊したことなどをきっかけに世界経済のグローバル化が加速した。国境の敷居は下がり、あたかも世界中が一つの国のように経済活動を行うことが可能になった。その最大のメリットは、各国の経済運営の効率性が高まり、景気が良くなっても物価が上昇しづらくなったことだ。
しかし、ここへきて、米中の対立やウクライナ危機などによって国境の壁が上がり、経済のブロック化などが進む「ディグローバリゼーション」が進み始めたように見える。ディグローバリゼーションは、グローバル化と反対の動きと考えれば良い。世界全体でサプライチェーンの寸断は深刻化するだろう。
そうした状況下、日本郵船が航空運送事業の強化を急ぐなど、収益源の多角化を目指して事業ポートフォリオの変革を加速し始めている。中長期的な目線で見ると、世界経済のデジタル化は加速するだろう。陸海空での物流需要が高まることはあれど、減少基調に転じる展開は想定しづらい。その一方、物価高止まりの懸念上昇など世界経済を取り巻く不確定要素は増える。設備投資に慎重になる、あるいは減らす企業は増えるだろう。リスク管理を徹底し、成長期待の高い分野に経営資源をよりダイナミックに再配分できるか否かが日本郵船の今後の事業展開に大きく影響するとみられる。
過去最高益を更新した日本郵船
現在、日本郵船の業績は絶好調だ。2022年3月期の売上高は2兆2807億円に達し、前年から6723億円の増収で、純利益は前期比約7.2倍の1兆91億円と過去最高益となった。だった。その背景の一つには、コロナ禍の発生によって世界経済全体で人の移動(動線)が寸断され、物流が逼迫したことが大きい。特に、世界の工場としての地位を発揮してきた中国において感染が再拡大したことによって、上海など世界的な規模を誇る港湾施設の稼働率が低下した。それによってコンテナの積み下ろしや輸送が停滞し、貨物船の稼働率も落ち込んだ。さらに、中国内外で接触を避けるためにトラックの運転手や船員の不足も深刻化した。その結果、世界のタンカー輸送などの目詰まりが深刻化し、海運市況が逼迫したのである。コンテナ船などの料金が跳ね上がり同社の業績は拡大基調だ。
米国の物価の上昇ペースが幾分か鈍化する兆しが出てはいるものの、世界経済の現状はかなり深刻と見るべきだ。日本郵船が公表している海運市況データによると、中国から欧州、米国向けの定期船運賃は幾分か調整はしたが高値圏で推移している。共産党政権がゼロコロナ政策を続ける姿勢であることを考えると、中国から欧米向けの定期船市況は逼迫した状況が続くだろう。それに加えて、ドライバルク船(鉱山資源などの乾貨物を梱包せずに輸送する貨物船)の市況も反転基調だ。ウクライナ危機の発生はそのきっかけの一つとなった。そうした要素を背景に2022年3月期の定期船事業の経常損益は7342億円と前年から5934億円増だった。