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日本三大うどん、讃岐と稲庭ともう一つは?実は意見割れる“第3のうどん”

文=上杉純也/フリーライター
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日本三大うどん、讃岐と稲庭ともう一つは?
日本各地にあるご当地うどん(「Getty Images」より)

 6月29日、気象庁は東北南部地方の梅雨明けを発表。これで日本各地がほぼ梅雨明けした。今年は九州北部・中国・四国・近畿・関東甲信・北陸・東北南部地方で、“過去最も早い梅雨明け”となり、いよいよ夏本番を迎えることになった。

 日本列島は連日、猛暑に襲われ、うだるような暑さに悩まされている。このあまりの暑さに食欲が減退気味という人もいるだろうが、そんな人でも涼やかなのど越しが堪能できる、うどんなら食べられるという人もいるのではないだろうか。なかでも香川県の讃岐うどんと秋田県の稲庭うどんは“ご当地うどん”として広く知られており、“日本三大うどん”にも数えられている。

 ここでひとつの疑問が浮かぶ。残る1つのうどんは何なのか、皆さんご存じだろうか。実は諸説あって、はっきりしていないのが現状なのだ。当然、地元の人は「うちのうどんこそ日本三大うどんだ」と信じているだろうが、確定したものはない。残る1枠を巡って、激しい議論が交わされているのである。果たして3番目の候補とされるご当地うどんは、何なのだろうか。

 その前に、日本三大うどんに当確している2つについて、あらためて説明しよう。

“うどん県”香川県民のソウルフード、讃岐うどん

 まずは、なんといっても讃岐うどんである。一説には弘法大師・空海が唐(現在の中国)からうどんの製法を持ち帰り、良質な小麦と塩が採れた讃岐に根づいたといわれている。

 本場である香川県だが、全国一面積の狭い県内に約700件のうどん店があるとされている。統計によると人口10万人当たりのうどん店の件数は全国1位で、1世帯当たりのうどんの消費量も全国1位。県自体が“うどん県”を名乗るのも納得といえる。

 特徴は弾力のあるコシとモチモチとした食感で、のど越しが良い点が挙げられる。これを生み出しているのが、手もみ・足踏みしてこねた生地を平たく伸ばし、包丁で切る“手打ち製法”である。生地を手でしっかりとこねてから、足で踏んで圧をかけることで讃岐うどんならではの強いコシが生まれる。さらに、単に硬いだけの麺になってしまわないように、足踏み後に生地をゆっくりと休ませることで、麺にほど良い弾力が加わり、コシとモチモチ感が備わるのである。

 また、出汁はカタクチイワシを使用した甘い風味の“いりこ出汁”である。透き通った出汁は讃岐うどんの魅力のひとつだろう。

 食べ方としてはシンプルなかけうどんが定番だが、そのほかにも茹でたお湯と一緒に麺を丼に盛って、つゆにつけて食べる釜揚げうどんや、茹でた麺に醤油をかけて食べるしょうゆうどん、熱々の麺につゆや醤油をかけて卵を絡める釜玉うどん、茹でた麺に濃いめの出汁をかけて食べるぶっかけうどんなど、さまざまある。気軽なソウルフードとして地元民に愛されているのが讃岐うどんなのだ。

一子相伝、藩主への献上品で庶民が口にすることはなかった稲庭うどん

 続いては、秋田県の南部でつくられている稲庭うどんだ。“手打ち”でつくられる讃岐うどんと違い、独特の“手延べ製法”でつくられている。生地を練る・綯(な)う(=より合わせること)・延ばす・かけるという工程を経て、しっかりと熟成を重ねていくことで、独特のコシが生まれていく。食用の植物油を使わず、打ち粉にでん粉を使って、乾燥させる前に特有の平べったい形につぶす製法も特徴のひとつだ。

 完成した手延べの麺の形状は幅2〜3ミリほどと細く(冷麦よりもやや太い)、平たい乾麺で、うっすらとした黄色をしている。茹で時間は3分ほどと短めで、半透明な乳白色になったところで引き上げ、氷水でキリッと締めることにより、透き通るような美しいツヤが出る。カツオと昆布の出汁を使ったつゆはキリリとした味わいで、そこにねぎやしょうがを加えてシンプルに味わうのがオススメだ。温麺で食べても、つけ麺で食べてもなめらかな口当たりのあとに、つるつる・しこしことしたのど越しを堪能することができる。

 稲庭うどんの歴史は古く、江戸時代の寛文5年(1665年)ごろ、稲庭村小沢集落に住んでいた佐藤市兵衛という人物が地元産の小麦を使用し、干しうどんを製造したのが始まりとされている。当時は秋田藩主に献上されるものであり、その製法は一子相伝、門外不出の技として代々、佐藤家当主に伝えられてきた。そのため、1972年に製造技術や粉の配合を当時の当主が家人以外に公開するまでは、一般に食されることがなかったというから驚きだ。讃岐うどんのように生活に根づいた庶民的な食べ物ではなかったのである。

三大うどんの候補・水沢うどん

 さて、ここからは3番目の候補とされているうどんを北から紹介していこう。まずは群馬県の“水沢うどん”で、渋川市伊香保町水沢付近がその名産地だ。400有余年前の江戸時代に江戸幕府公認の寺院を意味する朱印状を送られたことでも有名な水澤寺(水澤観音)の付近で、参拝客向けに振る舞われたのが起源とされる手打ちうどんである。

 群馬県は古くから小麦粉の生産が盛んであった。その小麦粉、塩と水沢山の湧き水のみを使用し、水沢の地でつくられたうどんのみが“水沢うどん”を名乗ることができる。生地をしっかりとこね、鍛え、寝かせるといった作業を繰り返し行うのだが、店によっては24時間寝かせてつくり上げるところもあるようだ。

 讃岐うどんのようなしっかりとしたコシの強さと弾力、そして茹で上げた際にところどころに透明感がある白い麺が特徴である。のど越しの良さもポイントで、冷たい“ざるうどん”で食べるのが基本。醤油ダレやゴマダレなどのつけ汁で食べるスタイルが定番となっている。讃岐うどんと比較されることも多く、讃岐うどんを“男うどん”、水沢うどんを“女うどん”と評する向きもある。

謎多ききしめん

 次は、愛知県名物の“きしめん”だ。厚さ1㎜、幅が7〜8㎜ほどの平たいうどんのことで、県内全域で食べられる愛知県のソウルフードである。そのルーツは諸説あるが、もっとも有力なものの一つとして江戸時代、東海道・芋川(現在の愛知県刈谷市)の名物だった“平打ちうどん”が挙げられる。

 同地でつくられていた平らなうどんは“芋川うどん”と呼ばれ、江戸時代初期から名物として知られていた。愛知県できしめんが広く浸透した理由として、一般的なうどんに比べて麺が幅広で薄く平たい形状であるため、つゆの味が染みやすく、しっかりとした味付けが好きな県民の好みに合ったからではないかといわれている。

 特徴としては、茹でると麺の透明感がアップする点だ。コシは弱く、つるつるとした軽い食感が魅力で、滑らかに食べられる。柔らかいながらも、ほど良い弾力があるのもポイントだ。パンチのある濃いめの出汁がよく合う。濃厚な味付けの汁にツルツル麺は、これ以上ない組み合わせといえよう。夏場は“ザルきしめん”にするのもOKだ。

 その形から、うどんとは別ジャンルというイメージもあるが、代表的な名古屋めしのひとつで、全国的な知名度から三大うどんの候補となっている。きしめんの名の由来は、紀州(現在の和歌山県・三重県南部)の名物“紀州麺”とする説や、徳川家の将軍がキジ狩りに訪れた際に献上され、気に入った将軍が“キジ麺”と命名したことによるとする説など、さまざまある。

氷見うどん、五島うどんなどのご当地うどん

 3番目は富山県氷見市周辺で発展を遂げてきた“氷見(ひみ)うどん”だ。歴史としては江戸時代からつくられている手延べうどんで、ルーツは石川県北部の輪島でつくられている能登そうめんといわれている。そのため、ひも状の細めの形が特徴的な乾麺となっている。

 手延べ製法ではあるが、讃岐うどんや水沢うどんのような手打ち製法も取り入れることで、細麺ながら歯切れのよい独特のコシと弾力、まるで餅のような粘りある食感が生まれている。つまり、手打ちのコシも手延べののど越しのよさも楽しめるうどんなのである。

 食べ方としては、温かくても冷たくしても美味しく食べることができるが、地元では富山湾で採れる海の幸を使ったかき揚げうどんや、天ざるうどんなどが人気の食べ方。うどんそのものの味を楽しみたければ、釜揚げうどんやざるうどんなどのシンプルな食べ方がオススメだ。

 最後は長崎県五島列島の“五島うどん”だ。遣唐使の時代に中国から伝わったとされ、稲庭うどんと同じく“手延べ製法”の乾麺だが、“打ち粉”で伸ばさず、特産品の“椿油”を表面に塗って細長く伸ばしてつくっている。生地には上五島で製造された塩が練り込まれており、断面は直径2mmほどのパスタに似た丸状だ。食用の椿油を使用しているため、長く茹でても伸びにくく、煮込んでも強いコシが残るという特徴がある。

 地元でオススメの食べ方は“地獄炊き”。鍋にたっぷりの湯を沸かして麺を7〜8分茹で、そのまま溶き卵や五島名産の焼きアゴ(トビウオ)出汁のつゆにつけて食べるのが定番となっている。口の中につるんと入り、少しモチッと弾力がある食感は、まさに“生パスタ”に近い。

 このほかにも埼玉県の“加須うどん”、山梨県の“吉田のうどん”、三重県の“伊勢うどん”、福岡県の“博多うどん”なども有名なご当地うどんである。これまで日本全土で数多くのうどんが生まれ、時代の流れや風土とともに発展してきた歴史がある。そう考えると、そもそも無理やり3つを決める必要はないのかもしれない。

上杉純也/フリーライター

上杉純也/フリーライター

出版社、編集プロダクション勤務を経てフリーのライター兼編集者に。ドラマ、女優、アイドル、映画、バラエティ、野球など主にエンタメ系のジャンルを手掛ける。主な著作に『テレビドラマの仕事人たち』(KKベストセラーズ・共著)、『甲子園あるある(春のセンバツ編)』(オークラ出版)、『甲子園決勝 因縁の名勝負20』(トランスワールドジャパン株式会社)などがある。

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