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「やっぱりトヨタのEV開発力は劣っている」初の量産型EVで重大不具合、リコール

文=桜井遼/ジャーナリスト
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トヨタ「bZ4X」(「Wikipedia」より

 昨年12月に2030年に電気自動車(EV)の販売台数を年間350万台にする方針を発表して、EVで出遅れていたというイメージの払拭に躍起になっているトヨタ自動車が、出足からつまずいた。満を持して市場投入した初の量産型EV「bZ4X」は、発売から1カ月過ぎで「考えられない」(関係者)重大な不具合が見付かり、販売を停止した。トヨタがEVの普及に否定的だった理由が露呈したかっこうで、業界関係者も呆れている。

 トヨタが5月12日から予約受付を開始したbZ4Xはスバルと共同開発したEVで、スバルは「ソルテラ」の車名で販売している。外観などの一部仕様が異なるものの、ほぼ同じモデルで、両モデルともトヨタの元町工場で生産する。自動車業界のトレンドであるEVに遅れているとされるトヨタとスバルが、このイメージを払拭するために重要なモデルとなるはずだった。トヨタは6月23日、bZ4Xとソルテラに不具合が見付かり、リコール(回収・無償修理)を国土交通省に届け出た。

 不具合の内容は、急旋回や急ブレーキを繰り返すとタイヤを取り付けているハブボルトが緩む可能性があり、最悪の場合、タイヤが脱落するおそれがあるというもの。トヨタとスバルは両モデルの販売を停止するとともに、納入先に当面の措置として使用の停止を要請することにした。国内で事故は発生していないものの、海外市場で不具合が発覚したという。

 日本の大手自動車メーカーが生産する乗用車でタイヤが脱落するような不具合のリコールは珍しい。原因などは明らかになっていないものの、設計ミスの可能性がある。この不具合を知ったライバルの自動車メーカーの技術者は「やっぱりトヨタはEVの開発が苦手なのでは」と指摘する。

環境対応車がEV一本に絞り込まれることに反発

 トヨタは世界初の量産型ハイブリッド車(HV)の開発に成功したこともあって、環境対応車としてHVを重視してきた。エンジンを搭載しないEVはエンジン系や排気系などの部品を製造するサプライヤーの仕事がなくなり、系列で固めたトヨタグループとしての強みが発揮できなくなるとの危機感もある。

 欧米自動車メーカーはHV技術ではトヨタが先行していることもあって、環境対応車としてクリーンディーゼル車を有力視していた。しかし、フォルクスワーゲン(VW)グループのディーゼル車不正問題の発覚を機に、ディーゼル車市場が縮小すると、EVに比重を移してきた。さらに、カーボンニュートラルへの意識が高まると、走行中の二酸化炭素排出量がゼロのEVが環境対応車の本命と位置付けられ、世界中でEVシフトが本格化している。

 欧州で2035年にHVを含むエンジンを搭載している自動車の販売禁止が打ち出されるなど、エンジン車の規制強化を前に、HVにこだわってきたトヨタもついに昨年12月、EVに大きく舵を切る。トヨタの豊田章男社長が両手を広げるお得意の「寿司ざんまい」ポーズで、軽自動車からスポーティモデルまでEVのコンセプトモデル16車種を一気に披露。「EV本気」を宣言した。トヨタの技術担当役員は、出遅れているEVの開発力を疑問視されても「HVは電動車であり、EVはHVの延長線上にあるので、開発に関する長年の知見がある」としてきた。

 トヨタはEVに本腰を入れるとしながらも、HVや燃料電池車、合成燃料など、パワートレインの全方位戦略の旗は降ろしていない。豊田社長は「(環境対応車の)選択肢をせばめたくない」と、自身が会長を務める日本自動車工業会を通じて、環境対応車がEV一本に絞り込まれることに強く反発していた。

 しかし、発売直後のbZ4Xに不具合が見付かったことで「トヨタのEV開発力が劣っていることを露呈した」との見方が広がっている。

bZ4Xの国内販売は苦戦

 さらに、トヨタがEVの開発力の遅れの時間稼ぎのため、日本の他の自動車メーカーも巻き込んでEV一本鎗とならないよう活動してきたのではないかという疑惑が持たれている。豊田社長が21年11月、日本自動車工業会の会長職続投を表明し、今年から異例の3期目に入ったのも、日本の自動車業界や政府が環境対応車としてEV推進一辺倒となるのを阻止するのが目的と見られている。

 そもそもトヨタは「国内ではEVを本気で売る気がない」との指摘がある。bZ4Xは国内市場では初年度5000台を販売する計画だが、法人向けリースとサブスクリプション方式とよばれる個人リースのみの販売となる。価格は契約申し込み金77万円と、国の補助金を利用して月額約8万8000円。

 スバルのソルテラは一般向けに販売しており、国の補助金が支給された場合の価格は約509万円。bZ4Xはメンテナンスコストなどが含まれるとはいえ、5年乗るとソルテラを購入できるほどの費用を払いながらも契約期間終了後、クルマはトヨタへ返却する。

 bZ4Xが高額になったのは理由がある。それは従来のガソリンエンジン車の系列サプライヤーを積極的に活用したためだ。bZ4Xのサプライヤーはデンソーやアイシンといった既存のトヨタ系大手サプライヤーばかりだ。部品メーカーの幹部は「EV用部品の開発や生産の経験の浅いトヨタ系サプライヤーからの部品を優先的に調達したことから、価格競争力が低くなった」と分析する。

 案の定というか、bZ4Xの国内販売は苦戦している。それは今回のリコール対象となった112台のすべてが販売店と法人で、個人向けがなかったことでも明らかだ。トヨタは第一期として売り出す2000台が即完売となると見ていたが「まったく売れていない」(トヨタ系販売店)という。あまりの不人気さにトヨタのbZ4Xのサブスクリプションを取り扱う子会社が東京、大阪、名古屋でbZ4Xの試乗イベントを実施する予定だったが、これも今回の不具合発覚を受けて中止した。

 トヨタの豊田社長は、EVが走行するための電力が化石燃料で製造している国や地域が多いことや、EVに搭載するリチウムイオン二次電池製造時、大量の電力を使用することなどを挙げて、EVイコールカーボンニュートラルではないと強調してきた。しかし、EVが普及すると系列サプライヤーを維持できなくなることや、技術の遅れからEVで先行するテスラなどにトヨタが太刀打ちできなくなることを恐れての言動だったと見られる。

(文=桜井遼/ジャーナリスト)

桜井遼/ジャーナリスト

桜井遼/ジャーナリスト

自動車業界の現場を中心に取材するジャーナリスト

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