参政党の共同代表で、今回の参議院議員選挙に出馬して落選した吉野敏明氏は、自身の公式サイトで病気や健康に関して、さまざまな持論を展開している。しかし、吉野氏が発信する内容の一部が、行き過ぎた表現ではないかと疑いの声も上がっている。特に物議を醸している発信の内容は、下記の通りだ。
「日本人の毛髪をアメリカで検査すると、『あなたは水銀中毒です』と判断されることがあります。実際は、水銀中毒になっている日本人は、ほとんど存在しません。日本人が小麦を食べるというのは、白人が水銀中毒になるのと同じことです。小麦とはメリケン粉、つまりアメリカから来た粉ですから、戦前の日本には存在しませんでした。メリケン粉を食べるようになってから、日本人のがんが増えているわけです。小腸がんや大腸がんを患った人は例外なく大量に小麦を摂取しています」
この吉野氏の発信を見た人のなかには、小腸がんや大腸がんと闘う人もいるだろう。吉野氏は、「医療問題アナリスト、作家、歯科医師、歯学博士」などの肩書を有し、医療情報に関しては“有識者”といえる立場にある。果たして、この言葉は不適切ではないのだろうか。
小麦を摂取することの弊害について詳しい、予防医療研究協会理事長で麹町皮ふ科・形成外科クリニック院長の苅部淳医師に話を聞いた。
弥生時代に伝来した小麦
「小麦が戦前には存在しなかったというのは、歴史的に見てもまったくの間違いです。弥生時代にはすでに中国から伝来しており、平安時代には小麦粉を使った食品が存在していました。室町時代にそうめんやうどんがつくられるようになり、宣教師たちが伝えたカステラやビスケットも人気のお菓子となりました」
古い書物にもカステラは時折、登場し、日本において小麦を使用したカステラの歴史は長いことがうかがえる。
「日本のパン食文化も明治時代から徐々に浸透しており、戦前に小麦は当たり前の存在でした。小麦粉を食べるようになったからがんが増えたという事実関係は確認できませんし、水銀と同じように扱うのは非科学的です」
小麦粉とがん増加を関連づけるエビデンスはないが、小麦粉の摂取にはリスクがあると苅部氏は語る。その理由は吉野氏が主張する内容とは異なる。
発がんリスクの真相
小麦粉を使用してつくるパンなどに、発がんのリスクがあることは否定できない。しかし、その原因は我々日本人が知らないところにあった。
「発がん性があるのは、輸入小麦に使用されているグリホサートです。グリホサートは強力な除草剤で、国際がん研究機関でも『ヒトにおそらく発がん性がある』と分類されています。グリホサートが直接散布された輸入小麦が日本国内では流通しており、輸入小麦によってつくられたパンなどを摂取することは、健康被害を及ぼすリスクがあると言えます」
また、苅部医師は、パンに含まれる添加物にも注意が必要だと話す。
「一部の大手パンメーカーが、いまだに使用している臭素酸カリウムは、1980年代に発がん性があると指摘され、世界的には使用が禁止されています。小麦が絶対悪なのではなく、我々日本人が発がん性のある残量物質などにあまりにも鈍感で、そのようなパンを食べ続けていることが問題なのです」
選挙を控えた段階で過大表現を使用して耳目を集めるためだったのかもしれないが、苅部医師が指摘するように、我々は正しい情報を取捨選択すべきだろう。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)