イギリスの有力経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は8月30日、“Rakuten founder embroiled in scandal as investors pile on pressure”と題する記事を掲載。楽天の会長兼社長、三木谷浩史氏がスキャンダルに巻き込まれたことで、投資家たちから同社に対するプレッシャーが強まっていると報じた。先月、三木谷氏とみられる人物がクラブのような場所で若い外国人女性らを含む参加者たちとパーティーに興じるなかで手に握ったシャンパンボトルを男性の口に入れて飲ませる様子などを収めた動画がSNS上で拡散され、一部で物議を醸していた。
楽天をめぐる環境は厳しい。同社は2020年に子会社の楽天モバイルを通じて携帯電話事業のサービスを開始。どれだけ使っても月額で最大2980円(楽天回線エリアのみ/通話料等別)、さらに月間データ利用量が1GB以下なら基本料無料というプランを掲げ、翌21年には500万回線を突破するなど、順調に契約数を増やしているようにみえる。
その一方、たびかさなる通信障害で総務省から幾度となく行政指導を受け、品質への不信も指摘されている。たとえば、今月4日に約130万回線に影響が及んだ障害では、寺田稔総務相が会見で「電気通信事業法上の重大な事故に該当するものと認識している」「迅速な周知広報が必要にもかかわらず、大変遅れたことも誠に遺憾だ」と強い口調で批判した。
また、契約数でも勢いに陰りが見え始めている。今年7月から1GB以下の0円プランを終了すると5月に発表した影響で、6月までで契約数が約22万減少。これまで右肩上がりだった契約数が初の減少となり、成長を疑問視する見方も出ている。
そして市場関係者の間で何より注視されているのが、その財務的な重荷だ。携帯電話事業は当初から赤字が続いており、22年4~6月期のモバイルセグメントの営業損失は1243億円に上り、好調なEC事業や金融事業などの利益を打ち消し、楽天グループ全体で1766億円の最終赤字(22年12月期中間決算)に沈む要因となっている。
株価は約半減
「三木谷社長は、無料ユーザーがいなくなりARPU(一ユーザー当たりの平均売上)が上昇し、加えて来期以降は基地局整備などネットワーク関連費用やKDDIから借りている回線のローミング費用が減少するため、収益は改善すると説明しているが、それを真に受ける市場関係者は少ない。たとえば携帯基地局の建設費用一つとっても、これまでの設備投資は当初計画の6000億円を大きく上回る1兆円規模にまで拡大しており、今後も多額の設備投資が発生する可能性は否定できない。こうしたマイナス要因も重なり、楽天の株価は今年に入り下落基調で、昨年末から約半減している。
楽天は楽天銀行と楽天証券の上場準備を始めたと発表したが、グループ内で高収益を誇る金融子会社2社から上がってくる利益を犠牲にしてまで、上場益で携帯事業の赤字を穴埋めしなければならないほど切羽詰まった状況にあると市場では評価されている」(金融業界関係者)
楽天の焦り
その三木谷浩史氏といえば、8月には前述のパーティー動画がSNS上で拡散。フィナンシャル・タイムズ記事は、楽天が楽天銀行の上場をめぐり市場から疑問を持たれている最悪のタイミングで三木谷氏が不祥事に見舞われたという、株主たちの証言を紹介している。
大手キャリア関係者はいう。
「『高すぎる日本の携帯料金を下げるべき』という三木谷さんの理念は理解できるが、相次ぐ障害やそれらへの対応をみている限り、社会インフラとして安定したサービス品質の提供が求められる通信事業者としては心許ないという評価は否めない。携帯電話サービスのノウハウを持っていなかった楽天としては、当然ながら外部から入れた人材なり技術に頼ることになり、さらにグループ内の企業から人材をかき寄せて“急ごしらえ”でつくった組織でやっているが、その綻びが随所に出てきている。
多額の赤字解消のメドが立たず、このまま株価低迷が続けば、グループ全体の資金調達にも支障が出てくる。最近ではプラチナバンドの再割り当てを求めて既存の大手キャリア3社と激しく対立するなど、楽天の焦りが見え始めている」
また、金融業界関係者はいう。
「問題となっている動画がどれだけ信憑性のあるものなのかは不明だが、経営トップである三木谷氏のこういう動画が流れること自体、微妙な状況下にある今の楽天にとっては経営リスクといえる」
(文=Business Journal編集部)