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日産、なぜいま内燃機関に巨額投資?VCターボから透ける“現実的な”電動化戦略

文=木下隆之/レーシングドライバー
日産、なぜいま内燃機関に巨額投資?
日産自動車・新型「エクストレイル」

 日産自動車は、2030年までにEV(電気自動車)15車種を含む23の新型モデルを投入する。5年間で約5兆円を投資するという。日産はこれまでEVパイオニアの「リーフ」をはじめ「アリア」「さくら」など、魅力的なEVを市場に送り込んでいる。そんな日産が、新型「エクストレイル」に採用した「VCターボエンジン」が話題をさらっている。

 すでに北米仕様のガソリン車「ローグ」に搭載され高い評価を得ているそのエンジンは、新型エクストレイルのハイブリッド「e-POWER」と組み合わされた。

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 VCターボは、世界初の「可変圧縮比ターボエンジン」となる。理論的にはシンプルだが、機構的には複雑だ。ガソリンエンジンのピストンを上げ下げするコンロッドに、新たにリンクを組み込んだ。それがピストンの上下移動量を調整する。

 低回転域ではピストンを高く押し上げて燃焼室を狭める。結果的に高圧縮比となりパワーが高まる。逆に高回転域ではピストンをあまり高めずに圧縮比を下げる。その際のトルク不足はターボの過給圧を高めることで補う。

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 VCターボの魅力はまず、小排気量ながらパワーを稼ぐことができる点にある。同時に、燃料消費も驚くほど節約でき、さらに回転フィールが上質になる。エクストレイルに搭載されるVCターボエンジンは「直列3気筒1.5リッター」だが、排気量2リッターから3リッター並みの出力に達している。振動やサウンドは、高品質なV型6気筒に勝るとも劣らない。夢のパワーユニットなのである。

 となれば、ハイブリッドではなく、ピュアな内燃機関モデルとしての活用を期待したいところだ。実際に、ローグに採用されるなどVCターボのポテンシャルは高い。

 だが、機構が複雑なために高回転化は不利だ。6000rpm以上を多用したがるスポーツエンジンには不向きである。生産性も悪い。今回、新型エクストレイルに採用するにあたって日産では、新たにVCターボ専用ラインを新設することで対応した。

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 設備投資費が嵩むだけに、コストも気になるところだ。価格的競争力が強く求められる「ノートオーラ」など、上質をテーマに開発されたモデルには最適なパワーユニットだが、コストに敏感なユーザーが多い、約300万円以下のコンパクトクラスには採用しづらい。

 では、なぜEVの普及を急ぐ日産が内燃機関の開発を進めたのか――。疑問に思うのはそこだ。EV普及のカギを握る全個体電池の開発も進めている。内燃機関に引導を渡すかのような電動化戦略に邁進する日産にとって、設備投資をしてまでガソリンエンジンを開発する理由はどこにあるのだろうか。

 理由は簡単に想像できる。

 日産の電動化戦略は、なにもEVに限定していないということだ。米カリフォルニア州のように、徹底的にガソリンエンジン排除に進むエリアもあるが、世界的に考えれば早急なEV化には無理がある。国内でのEV普及率はまだまだ1~2%にすぎないし、そもそも電力供給力すら怪しい。世界には電気すら届いていない街がある。将来的な電気の世界を思い描きながら、現実的にはハイブリッド主流の時代が続きそうな気配なのだ。それに対応させたのが、VCターボとe-POWERの組み合わせである。

 クルマに上質な乗り味を好むユーザーも少なくない。パワーと燃費が高度にバランスしているうえに、回転フィールがなめらかなVCターボは都合がいいのだ。

 おそらく近い将来、エクストレイルよりもさらに上級のセダンやミニバンにも搭載されるに違いない。そうでなければ、多額のコスト増を覚悟してでも設備投資するはずがない。

(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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