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小林敦志「自動車大激変!」

EVでも日本車はガラパゴス化?日産「サクラ」で見えた課題、欧州の日本車潰しとは

文=小林敦志/フリー編集記者
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日産の「サクラ」(「日産の公式サイト」より)
日産の「サクラ」(「日産の公式サイト」より)

 軽自動車規格のBEV(バッテリー電気自動車)となる日産自動車サクラ」への注目が続いている。2022年5月の発表月から全軽自協(全国軽自動車協会連合会)の販売統計に登場するようになり、同統計によると、2022年10月までの累計販売台数は1万4822台となっている(2022年6月16日販売開始)。

 日産が2022年6月13日に発信したニュースリリースによると、2022年5月22日の発表日から3週間経過した時点での累計受注台数が1万1000台を突破したと伝えている。発表から3週間時点での累計受注台数が1.1万台なのに対し、2022年10月までの累計販売台数が約1.5万台となると、統計上はデビュー直後から新規受注が伸び悩んでいるようにも見えるが、現状は新車の生産遅延による納期遅延もあるので、単純にそう分析することもできないだろう。

 2022年7月にデビューした日産の新型「エクストレイル」が発売から2週間で累計受注台数1万2000台を突破し、生産停止もあったものの、すでに納期が1年半以上先になるどころか、新規受注も停止しているような混乱ぶりと比べると、サクラは統計上では物足りない感じもする。しかし、先進国や中国などから見て“BEV普及後進国”となる日本での売れ行きという点でみると、注目される販売状況になっているのは間違いない。

 販売現場で話を聞くと「ご希望の車種によっては受注生産となり、納車までお時間をいただくこともありますが、弊社で先行発注している車両の中でご希望車種があれば、それほどお待たせすることはありません」といった説明を、多くの店舗で聞くことができた(ただし、令和4年度の補助金予算が底をつきそうなので、今後の補助金交付について様子見するため新規受注を原則控えているとの話も聞けた。しかし、その話を聞いた後に補助金交付の延長は実質的に決まっている)。

サクラの購入層は50歳以上が7割超

 前述した日産のリリースによると、サクラの購入年齢層は60代が全体の26%で最も多く、ついで50代(24%)、70代(21%)となっている。つまり、50歳以上が全体の70%以上を占めている(ICE<内燃エンジン>搭載の軽自動車と同じような傾向とのこと)。また、マイカーを複数保有している家庭の人や、ICE搭載車所有者で以前からBEVに興味を持っている人からの乗り替えが多いとしている。

 BEVとはいえ、補助金を活用すれば割安感が増しているサクラだが、それでも現役子育て世代などが手放しで歓迎できるほど“買いやすく”はなっていないので、このような傾向になっているようだ。

 デビュー直後には“地方在住のリタイア層”のニーズが目立つようだとの話をよく聞いた。自宅(持ち家)にガレージを持ち、充電設備の設置が容易であること。そして、地方ではバスなど公共交通機関での移動が困難で、歳をとってもクルマでの移動を余儀なくされているが、遠方へ出かけることはかなり少なくなり、航続距離が短め(180km)のサクラを所有するメリットが最大限発揮されるからとのことである。

 自宅に充電設備があれば、いちいちガソリンスタンドへ出かけて給油する手間が省けるというメリットもアピールしているようだが、これはICEの軽自動車に乗っている人がより強く感じるものと考える。

 軽自動車は乗り方次第で燃費が大きく変わってしまう特徴がある。一般的な軽自動車の実用燃費の目安は、ガソリン1Lあたり20km前後とされている。排気量の小さいエンジンを搭載しているので、エコ走行を意識しなければ運転中に加速などで高回転になりやすいこともあり、実用燃費はそれほど良くないのである。

 ただ、ガソリンタンク容量が少ないので、1回あたりの給油量自体が少なく、ガソリン代がそれほどかからないので錯覚してしまうという話も聞いている。一方で、軽自動車は日常生活で乗る機会が多いので、登録乗用車に比べて給油頻度も多くなることに気がつき、軽自動車から登録乗用車に乗り替える人もいるようだ。そういった人には、“給油に行く面倒がなくなった”というアピールは効果的といえるだろう。

 ディーラーでセールスマンとBEVについて話をしている中、「実は集合住宅に住んでいるのですが……」と伝えると、けっこうな頻度で話がほぼ終了してしまう。現状では、既存の集合住宅に新たに充電設備を設置するのは大変困難となっている。まったく不可能というわけではなく、共用スペースに設置し、維持管理費用を自治会費で賄うのが一般的なようだが、BEVオーナーが少なく受益者が限られるので公平性がないという、物理的ではない理由が障壁となることも大きいようだ。

 ただし、「それでも設置するマンションはありますよ。自治会役員のみなさんの中でBEVへの理解が深い人がいれば、話は進みやすいようです」といった話も聞いたことがある。

 つまり、集合住宅に住みBEVを所有すると、多くのケースで“給油する面倒がなくなる”というBEVのメリットは消滅する。しかも、充電に出かけるのだから、どうしても急速充電に頼りがちになるので、車両へのダメージも気になってしまう。ガソリンスタンドも減少傾向で探すのに苦労することもあるが、販売現場では「カーナビで周辺の充電施設のご案内もしていますし、所有していく中で“どこで充電するか”などは慣れてきます」といった説明を受けるが、初めてBEVを買おうかなと考えた時には、やはり充電に対する不安を覚えてしまう。

 販売現場では、すでにBEVに乗っているお客からは「戸建て住宅で自宅敷地内に充電施設を持ち、生活圏内の移動にほぼ特化した利用形態以外はBEVだけではまだまだきつい」といった話を聞くという。

“日本のBEVは軽自動車”の弊害

 かねがね、筆者やその周囲では“日本のBEV普及は地方から”と考える人が多い。広い敷地を持つ自己所有の戸建て住宅に住んでいるので、自宅敷地内に充電設備設置が可能。そして、ガソリンスタンドの減少は地方部でより深刻となっているが、電気については奥深い山間部の集落でも十分供給されている。さらに、高齢化が進む中、自動運転バスなどで公共交通機関の確保を図るという動きもあるようだが、生活圏内での移動にほぼ限られるものの、クルマを手放せないといった生活環境が、都市部よりBEV普及を加速させるのではないかというのである。

 サクラはある意味、日本の市場環境に適したBEVといえる。そして、BEV後進国の日本において多くの消費者にBEVを注目させるきっかけを作った功績も大きく、そこは大いに評価されるべきだと考える。今後は軽自動車の老舗であるダイハツとスズキが共同開発した軽自動車規格のBEVもデビュー予定と聞くので、“日本型BEVは軽自動車規格”という流れが加速しそうだ。

 しかし、残念なことに、軽自動車規格は日本市場限定のまさに“ガラパゴス規格”であり、そのまま世界市場で展開することは、先進国を中心にほぼできないといえる。新興国となるASEAN地域のNCAP(新車アセスメントプログラム)でも基準は年々厳しいものとなり、関係者からは「日本の軽自動車が衝突安全基準をクリアするのは難しい」という話を聞いたことがある。つまり、“日本のBEVは軽自動車”の動きが過度になると、その時点でBEVでも日本車はガラパゴス化してしまう恐れがあるのだ。

 世界的にインフレが深刻な問題となっている中、日本もインフレがひどくなっているとはいうものの、世界に比べると街じゅうがバーゲンセール中のように物価が安く見えるようだ。軽自動車規格BEVがバーゲンプライスとはいわないが、たとえば同じ日産の「アリア」に比べれば、はるかに割安に感じるだろう。

 しかし、BEVでは日本車よりも輸入車の方がライバルとして気になる存在となりそうだ。すでに、韓国の現代自動車(ヒョンデ)がFCEV(燃料電池車)とBEVで乗用車販売を日本国内で再開させている。さらに、それまで乗用車の日本国内での販売は考えていないとしていた中国の比亜迪(BYD)が、2023年から乗用BEVの国内販売を開始すると発表した。

 日本よりも“BEV先進国”である中国の自動車メーカーの中でも、BEVで突出しているBYDは、そもそも電池メーカーなので、車載電池からトータルでの車両開発も可能となっている。目立つ安売りはしないだろうが、中国の企業なので、その戦略には中国政府が何らかの関与をしている可能性は高く、“奇策”ともいえる驚くべき販売促進活動を展開してくることは十分考えられる。

 BYDの発売予定3台の中で、仮にコンパクトハッチバックタイプのモデルがサクラ並みの価格設定となった時、軽自動車規格BEVにとってはかなりのコンペティターになることは間違いないだろう。もちろん、“中国車”に対する世間のネガティブなイメージは無視できないが、日本の主要マスコミの時代錯誤的な“偏向報道”も十分警戒し、対策を打ってくるだろう。

 中長期的に見れば、BYDに続けとばかり、中国メーカーが日本市場に続々BEVを持って上陸してくる可能性も十分考えられる。若い世代は生まれた時から日本製より韓国や中国、タイ、ベトナム製などの工業製品に囲まれているので、日本製かどうかはもちろん、日本のブランドだから“クール”といったことも強く感じないだろう(中国ブランドだからと極端にネガにも思わないはずだ)。次の世代の消費者を囲い込むためにも、今が勝負時と考えている可能性は十分ある。

“輸入車ではメンテナンスが……”と気にする声もあるだろう。しかし、ICE搭載車に比べるとBEVは圧倒的に部品点数が少なく、故障もしにくいとされている。すでにICE搭載車のメンテナンス現場でも、エンジンにチェッカーをつなげて診断し、不具合箇所が出てきたら部品交換を行うといった流れの作業がメインになっている。

 新車の販売現場からは「オイル交換はいらなくなりますし、アフターサービス業務での利益はBEVの普及とともに急減していくでしょう。それでもタイヤは残りますし、物販で食いつなぐしかないですね」という話も聞けた。

 新車販売から得る利益などは期待できなくなって久しい。オンライン商談の普及も手伝い、BEVの普及は日系メーカーの新車販売拠点の再編、つまり統廃合を加速させるだろう。そうなると、輸入車でよく懸念されるアフターサービスへの不安も、日系メーカー系ディーラーと大差なくなる日が来るのもそう遠くないと見ることもできる。

日本の電力供給の8割が火力発電という課題

 サクラで日本国内でもBEVへの注目は高まったが、課題は日本の電力供給の約8割が火力発電という現状だ。日産系ディーラーへ行っても、ディーラー手作りのサクラの販売促進用資料を見ると、一定期間内におけるICE軽自動車のガソリン代とサクラの電気代の負担の違いや、“給油へ行く手間がない”といったアピールが目立つ。現状の電力供給状況を考えると、とてもではないが“地球にやさしい”といったアプローチはできない。

 この状況は、量産型HEV(ハイブリッド車)が日本の世に出始めた時と似ている。“HEVに乗るのはエコロジー(地球に負荷をかけない)なのか、エコノミー(燃料代節約)なのか”である。結果的には、“HEV=エコノミー”というイメージが定着してしまった。欧米では、ターボやスーパーチャージャーの代わりにモーターでエンジンをアシストすることで、エンジン排気量のダウンサイズ化も進みながら、結果的に環境負荷軽減にもなるのではないかとの考えも目立っている。そのため、結果的にエコノミー面に走りすぎた日本メーカーのHEVは“エコノミー走行への制御がきつすぎて「クルマに運転させられている」イメージ”が強くなってしまった。

 日本がリードする技術であり、その制御技術の高さは世界でも秀逸なものとなった日系ハイブリッドユニット。こうなると、心理的にも欧米が“追随”することはなかなかできなくなる。そこで、EU(欧州連合)は世界覇権復活も狙い、ゼロエミッション車の普及に躍起になっているともいわれる。つまり“日本車潰し”である。日本車と同じぐらい制御技術の高いユニットを搭載するHEVが世界市場でも普及していれば、ここまで加速度的にBEVを普及させずに、もっとスローペースで段階的に無理なくゼロエミッション車の普及を進められたのではないかとも考えることができる。

 EUやアメリカなどの先進国では、“気候変動対策”など地球単位での環境問題解決手段として、ゼロエミッション車両の普及を進めている。一方で、中国やインドなどの新興国では気候変動問題といった壮大なテーマよりは、国内でICE搭載車が増え続ける状況に対し、原油輸入量増大の抑制や、大都市を中心とした深刻な大気汚染の浄化などを主眼として、ゼロエミッション車導入を進めている。

 中国は先進国の自動車メーカーに対し、ゼロエミッション車でリードしてゲームチェンジを狙う側面もあるし、タイやインドネシアなど自動車生産を基幹産業として位置付ける国では、ゼロエミッション車でも引き続き車両生産基地として存在感をアピールしたいという狙いもある。

 それでは日本政府は……と考えると、“2050年カーボンニュートラル社会”とか“2035年までに純内燃機関車の販売禁止”などかけ声ばかりで、何がしたいのか見えてこない。相変わらず火力発電に頼り、原子力発電所は新設はおろか再稼働すらままならない状況。メガソーラーとはいうものの、そもそも国土の狭い日本では面積は限られ、効率は今一つなのではないかともいわれている。

 洋上風力発電も叫ばれているが、日本周辺の海は陸から近い距離でも水深が深く、すでに洋上風力発電を強化している国々のような遠浅な海ではないので、莫大な設置コストがかかるとの話もある。しかも、自然災害が多いので、メガソーラーや洋上風力発電の損傷リスクも高い。そんな話もあるのだから、日本という国の特性を活かしたカーボンニュートラル社会の実現を探ればいいのだが……(地熱発電など)。

 日本はどうしてカーボンニュートラル社会を目指すのかという“そもそも論”が国民に伝わっていない。BEVの普及は、単にICEからBEVへクルマが変わるということではない。脱化石燃料が進み、その国の社会を一変させることになるのである。そのため、ゼロエミッション車普及でも、国のエネルギーインフラの再構築も含めて、民間企業だけでなく政府がタッグを組む必要があるが、日本政府は相変わらず“民間丸投げ体質”が透けて見える。

 少し前には“自動車産業の100年に一度の変革期”とよくいわれたが、これは次の100年を生き残るための“闘い”の時期であることも指す。取り組み方次第では、今までのブランド力などは軽く吹き飛んでしまうのである。

 ただ、現状では、エネルギー問題や自国産業の将来性などについて、今の政府にそこまでの“覚悟”や“心構え”“戦略”といったものを感じることはできない。その部分の欠如が、日本車のゼロエミッション化を遅らせていることに大きく影響しているのは間違いないだろう。BEVを普及が叫ばれる時に“走行距離課税”といった案が出てくるなんて、信じられない話である。

 現状では、日本国内でBEVが増えてもCO2は火力発電所で排出され続けるのである。“ガソリン代より電気代の方が安い”“給油に行く面倒がなくなる”というだけでは、BEVなどゼロエミッション車に注目が集まったとしても、広く乗り替えてもらうのはなかなか厳しいだろう。

 繰り返すが、サクラの登場でBEVが注目されたという点では、その功績は大きいし、否定するつもりはない。しかし、日本国内で再生可能エネルギーインフラをもっと拡充させ、カリフォルニアのように補助金などに厚みを持たせ、戸建て住宅の多くにBEVがなくともとりあえず充電施設を設置させるなど、BEVを迎え入れる準備がもっとできていたのならば、サクラはもっと注目されていただろうと思うと残念で仕方ない。それでもサクラが一定の注目を浴びる中で、BEVにまつわるさまざまな課題が筆者の頭の中でかけめぐってしまった。

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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