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除雪作業員1100人投入…JR北海道、大雪「運休」回避作戦の全貌、昨年の教訓

文=小林英介
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「除雪作業に時間を要している」として運転見合わせを知らせるホワイトボード(2022年2月7日、JR札幌駅、本稿記者撮影)

「同じようなことを二度と起こさないという決意のもとで、この冬に向けて計画が計画倒れにならないよう、確実な準備を行っていく」

 今年6月、JR北海道の島田修社長(当時、現会長)は社長として最後に臨んだ定例会見で強調した。昨年12月と今年の1・2月、札幌圏は大雪となり、特に1・2月の大雪では札幌圏内の列車の運行を数日間取り止める事態となった。雪に強いはずの北海道で起きてしまった大規模運休。世間では驚きをもって受け止められた。

「これは運休になっても仕方がない状況」
「正常な運行をJR北に求めるのは酷じゃないか」

 大規模運休時、Twitter上ではJR北の対応に理解を示す投稿が多かった。事態を重く見た北海道運輸局は今年2月、JR北に今回の対応の検証を指示。それを受け、JR北は今年3月に中間報告を、6月には最終報告をとりまとめた。そして11月16日、JR北は最終報告に沿うかたちで「冬期の取組」として除雪などを含めた大雪に対する対策について発表するに至ったのだ。

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列車が運休し、真っ黒な状態となった電光掲示板。「札幌駅を発車する全列車(特急列車含む)の運転を始発から終日運転見合わせ」との文字が見える(2022年2月21日、JR札幌駅、本稿記者撮影)

事前の除排雪、除雪車の増備等を実施

 JR北が今回発表した大雪対策の内容はいくつかに分けられる。ここからはその対策について順に見ていくこととしよう。まずは除排雪についてだ。今回の大雪の際、JR北では線路上に留め置かれた車両の除排雪に時間を要したり、ポイントの間に雪が詰まったりするなどし、運転の再開が遅れる要因となった。

 JR北は機械設備を用いた除雪のほか、さまざまな作業を人力でも行う必要があると説明する。例えば、駅構内の除排雪作業にはモータカーを使用。ホームなど機械で除雪できない場所もあるため、定期的な除雪が必要だという。ポイントの除雪については「細かい機器があるため、手作業で除雪する必要がある」としており、1日あたり1100人規模で除排雪作業を行う必要があるとした。

 今回の対応策のなかで、本稿記者がもっとも「踏み込んだ」と感じるのが「事前の除雪」だ。JR北は「除雪が追いつかない」という最悪の状況を避けるため、2023年1・2月の土曜日の夜から日曜日の朝にかけ、計画的に5本の列車を運休する。これは札幌圏の駅で夜間除雪作業を実施するのがその理由で、大きな一手を打ってきたと見てもよいだろう。

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大雪の影響で「こんもり」と積もった雪。除雪されている部分もあるが、札幌駅でこれだけ雪が積もるのは珍しいことだ(2022年2月7日、JR札幌駅前、本稿記者撮影)

 次は安定輸送関連だ。JR北では除雪などを行う「ラッセル車」の配備数が十分とはいえず、大規模運休時の除雪が追いつかない事象につながったとの声もある。今回発表された新しい対策では、北海道各地にラッセル車13台と除雪機械127台を新たに配備するとした。そのうちラッセル機関車や気動車は在来線用として13両、排雪モータカーなどを新幹線用に12台、在来線用に116台配備する。ポイント不転換対策では、レールを温めることによって雪を溶かす「レールヒーター」を増強するほか、運転する線路を状況によって限定。通常時より本数を減らして運転することもあるとしている。

 締めは悪天候時の運転計画である。今回の大雪の際は無理に運転を続けようとするあまり、途中駅での運転打ち切りが発生し、乗客が車両に長時間閉じ込められてしまう事態が発生していた。そのためJR北は「安全な運行が確保できないレベルの悪天候時などは、列車の運転を見合わせる」とし、悪天候時は状況に応じて「始発駅から運転を見合わせる」可能性もあるとした。

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北海道庁本庁舎。札幌では、今シーズンも雪が積もり出した(2022年12月2日、本稿記者撮影)

 さらに運転の再開見通しをこれまで「午前」「午後」としていたものを「~時頃」「~日以降」と具体的な表記に変更。運転再開の見通しが二転三転した今回の課題を受けた対応だ。

不祥事がきっかけで「安全」に転換も「不便」との声も、さらに急速に進む路線廃止

 JR北海道は2011年に発生した「石勝線列車脱線火災事故」や線路の検査データ改ざん等の不祥事をきっかけとして安全重視へと舵を切った。しかし、あまりにも安全に比重を置きすぎているためか、一部利用者からは「すぐ列車を運休してしまうので不便だ」といった困惑の声もある。ただJR北は、国土交通大臣から2014年に監督命令を受けており、「お客様の安全が最優先」という目標を立てている。少し違った角度から見れば「安全最優先のため、積極的な運休をする方針を着実に実行している」と見ることもできる。

 札幌から函館間を最短2時間59分で結んだ「スーパー北斗」など、北海道の鉄道の底力を見せていたJR北だったが、少しずつ経営状態が悪化。2016年には「単独では維持できない線区」を公表し、札沼線の北海道医療大学から新十津川の間、根室線の富良野から新得の間などを「持続可能な交通体系とするために、バス等への転換について地域の皆様とご相談を開始したい」との見解を示した。

 積極的な路線の廃止も進めている。JR北は石勝線の新夕張―夕張間を2019年に廃止したほか、翌年には札沼線の北海道医療大学―新十津川間を廃止。そのまた翌年には日高線の鵡川―様似駅間が廃止されている。廃止はこれだけではなく、今後は来年3月31日に留萌線の石狩沼田―留萌の間、2026年3月31日には石狩沼田―深川の間が廃止される予定となっており、これからもさらに廃線になる路線が出てくる可能性もある。

 そもそも、JR北、JR四国、JR九州といった「三島会社」は、国鉄から民営化された当時から経営の悪化が想定されていた。そのため、JR北の経営問題も然り、今年8月にJR九州が赤字路線を公表したのも、ある意味で「予想通り」といえるだろう。

今年も「ドカ雪」発生の可能性…本当に大規模運休を防げるのか

 ここまでJR北の大雪対策を見てきたが、特に事前の除雪を行うというのは「勇気を出した」と感じたが、まだ課題はある。実は今回の大規模運休の際、JR北は道からの人員派遣などの応援を断っている。この経緯は今年の大雪災害の後に開かれた北海道議会でも話題となった。委員から詳細を尋ねられた道の担当者は「JR北側が『線路内での除雪作業は、列車の運行に不可欠な設備や機器の配置などについて、一定の知識、安全教育が必要であるため、そういった派遣は結構です、自社やグループ等で対応する』などと応援要請を断った」と答弁。道とJR北の溝は明らかであり、JR北には「どのような相手であれ、ときには協力を仰ぐ」との姿勢が足りず、さらに自分たちの力量を認識できていなかったのではないか。今回、JR北が出した大雪対策の中には、北海道エアポートや交通事業者との連携を進めるとあったが、連携がしっかりなされるのかどうかはわからない。

 もし今年も昨年に匹敵するような降雪があった場合、JR北の対策がすべて水の泡になる可能性もある。実際、12月19日には降雪の影響により、午前6時ごろから函館本線の岩見沢―滝川の間で運転を見合わせ、この間に除雪作業を行った模様だ。

 11月22日に札幌管区気象台が発表した「3か月予報」によると、12月~1月までの天気の見通しは「気温、降水量、日本海側の降雪量はほぼ平年並み」となっているが、道内の複数の報道機関は、昨シーズンと同じく、同じ海域で平年より海面水温が低くなる「ラニーニャ現象」が起きていることを理由として、今年も「ドカ雪」となる可能性があると警告している。

 果たしてJR北は2年連続の「失態」を避けられるのか。もうすでに各所で運休などが発生してきているが、いち道民としてJR北のがんばりにはぜひ期待したいところだ。

(文=小林英介)

小林英介/ライター

小林英介/ライター

ライター。1996年北海道滝川市生まれ。業界紙記者として働きつつ、様々な媒体でも活動している。

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