千葉県木更津市が昨年10月、市民交流プラザの基本設計・基本計画を担う事業者にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を選定したことが、関係者の間で物議を醸している。
全国で“ツタヤ図書館”を運営する同社は、図書の貸出をしない閲覧のみの市民センターも運営していることから、木更津市でも同様の“ツタヤ図書館もどき”ができるとみられているのだが、その事業者の選定をめぐって、早くも不正疑惑が持ち上がってきたのだ。
公募の2年前から、CCCが市民交流施設についての調査報告書を市の関連団体から委託されていたことが発覚。さらに同社の提案書には、「応募者に開示されていないはずの図面を基にしたのではないか」と指摘される官製談合の証拠まで出てきた。
今回は、その背景にある、“ツタヤ図書館方式”といわれる出来レース疑惑の深層をレポートする。
下の画像は昨年、木更津市が実施した市民交流プラザのコンペで、一次審査を通過した事業者にのみ配布された参考資料の一部である。
市民交流プラザをどのような施設にしていきたいのかというプロポーザル(提案書)を提出するにあたって、先行して行われている市民交流スペースのあり方についての調査報告書を参考にしてほしい――。そんな趣旨で、参加事業者に提供された資料のはずだったが、その報告書の中身は、実に衝撃的だった。
応募者がこれから作成しようとしているプロポーザルの模範解答とも思えるような内容が要領よくまとめられていて、同社が全国で運営する、図書館と市民センターの事例がふんだんに紹介されていたからだ。その市民アンケート調査の項目には、後日“最優秀事業者グループ”に選定されたCCCの社名がクレジットされていたことから、「あからさまな出来レースではないのか」との批判が巻き起こったのだ。
CCCがこの調査報告書(中活コーディネイター業務報告書)を、木更津市の第三セクターである、まちづくり木更津から受託したのは、今回の公募の2年ほど前。木更津市は、そのときから、市民交流プラザの基本計画から運営までをすべてCCCに任せること、つまり“ツタヤ図書館もどき”を建てることを決めていたのではないのか。
さらに、その決定的な証拠として出てきたのは、施設内の配置図が堂々と掲載されている、CCCグループ(共同事業体)が木更津市に提出したプロポーザル本体である。
公募にあたって実施された事前の書面質疑では、市は他の事業者が図面データの開示を求めたところ、「現在、庁舎整備事業者と調整中のため」として拒否していた。当然、図面がなければ館内の配置図も描けない。ところがCCCグループは、他のコンペ参加者が諦めたであろう館内の配置図を何枚も掲載していたのだ。
このため、CCCグループにだけ図面データが公募前に提供されていたのではないかと、違法性を指摘される事態にまで発展。
昨年1月、富山市のつり橋工事の設計事業者選定をめぐって、当時の建設部次長が応募企業に非公開情報を提供したとして逮捕された官製談合事件とソックリだと指摘する声があがっている。もし、木更津市でも事前に特定の事業者だけに公表前の情報が渡っていたとなれば、あきらかに公平性が損なわれた官製談合として逮捕者が出る刑事事件に発展しかねない。
2年前からCCCに委託されていた調査報告書については、「関連団体が行ったことで、市は直接関与していない」という言い訳がかろうじてできたかもしれないが、さすがに市自らの関与を疑われる図面データ提供疑惑は、“刑務所の塀の上を歩くような行為”と指弾されても仕方ないだろう。
前回記事で、ここまでの経緯を詳しくレポートしたが、では、いったい、どのような手法・手続きを経て木更津市は、CCCを選定したのだろうか。今回はそこからみていこう。
木更津市、コンペ前に不正にCCCに情報供与か
問題となった、木更津市市民交流プラザの基本計画・基本設計のコンペは、「公募型プロポーザル方式」で実施された。「公募型プロポーザル方式」とは、入札価格だけでなく、参加者から提出された提案書(プロポーザル)の内容や企業の信頼性も含めて総合的に評価する方式で、広く参加者を公募する形式のこと。
入札価格だけで選定される落札方式のように、粗悪な事業者が選定される可能性は低く、より質の高い技術や企画提案を行う事業者を選定できることがメリットとされているが、問題は、その評価を、どこの誰が、どのように行うかである。入札価格なら、一番低い価格をつけた事業者が落札するため一目瞭然だが、提案内容を総合的に評価となると、そこに恣意的な要素が入り込むスキが出てくる。
今回のコンペの選定委員は6人。委員長の市民部長を筆頭に、全員が市の職員である。
公共施設の計画や運営者の選定においては、評価の客観性と公平性を期すため、評価者に外部の専門家や市民代表を招聘することが自治体の常識になりつつある。そんななか、木更津市が実施する公募型プロポーザルでは、今回の案件も含めて、ほとんどが市の職員だけで選定委員会が構成されている。ある関係者は、こう指摘する。
「もし市長が特定の事業者を推しているとしたら、幹部職員はそれと違った評価を、まず出せないのではないでしょうか」
ちなみに、2016年の延岡市エンクロス以降、CCCが受託したツタヤ図書館・ツタヤ公民館のコンペは、すべてが公募型プロポーザル方式によって行われている(2013年の佐賀県武雄市から2016年の山口県周南市までは、コンペなしの特命随意契約)。
木更津市の場合、もっと驚くのが選定結果の発表である。通常、あらかじめ設定されている評価基準に基づいた各応募者の採点結果や、選定会議の議事録、最優秀提案者の提案内容等、その結果に至るまでのプロセスが一通り公開されるものだが、今回のコンペの結果発表では、それらの説明文書は何もない。
発表されたのは、3者から応募があったことと、選定した提案者名、合計得点の3点のみ。これでは、選定された事業者は、どこがどのようにほかの応募者よりも優れていたのか、さっぱりわからない。説明しようとすらしていない。こんな選定結果は見たとこがない。
筆者は、その疑問を解消するために、木更津市に情報開示請求を行おうとしたところ、それができるのは、市内在住・在勤者のみとなっているとして門前払いされてしまった。
応募スケジュールもおかしい。木更津市がこの案件の募集要項の配布を始めたのが昨年9月27日火曜日のこと。募集要項の内容について質問のある事業者は翌週月曜日の10月3日までに質問票を提出し、参加希望者は、10月7日金曜日までに「参加意向申出書」を提出しなければならない。
そのうえで提出するプロポーザルの締切は、なんと10月20日。参加表明してから2週間もない。土日祝日を除けば、提案書作成にあてられるのは正味1週間程度しかないのだ。しかも、この間、10月13日に一次審査通過者にのみ配布された、117ページにわたる参考資料を読み込んで、その方針に合わせたプロポーザルを作成しなければならないのだ。
このとき事業者に送付された参考資料こそが、2年前にCCCが委託されていて出来レース疑惑の元になった「中活コーディネイター業務報告書」だったのである。
つまりCCCは、すでに自社がたっぷり時間をかけて作成した提言のエッセンスを、ささっとプロポーザルにまとめてプレゼン本番に臨めばよい。一方、他の応募者はといえば、ゼロからその報告書の提言内容を理解したうえで、その他の繁雑な応募書類とともに自らのプロポーザルを作成・提出しなければならない。
ちなみに、筆者が独自に入手したCCCグループが提出したプロポーザルは、パンフレットのようなフルカラー全14ページ、文字数だけでもざっと15万5000字、400字原稿用紙にして39枚もあった。
これに対抗するだけの充実した内容のプロポーザルを、実質1週間でゼロから作成するのは、実務的にはおそろしく困難といってもいいだろう。
このように今回の木更津市のコンペは、公募型プロポーザルという方式によって、一見公平に選出されたように見えるが、とんでもなく特定事業者が有利になるよう仕組まれた、“不公平なプロセス”で行われていたことがクッキリと浮き彫りになった。
さらに取材を進めていくと、今回の市民交流プラザが入居する予定の新庁舎の整備事業そのものが、ある特定の方向を向いていたのではないのかという疑惑まで浮上してきた。
下の表は、今回の市民交流プラザのコンペで選定された「木更津市賑わい創出パートナー」の構成企業として、CCCとコンソーシアムを組む株式会社船場が木更津市で受託した主な事業一覧である。
同社は、2019年の「公共施設再配置基礎調査」から始まって、昨年9月末の「太田山公園再整備に向けた計画検討資料作成」まで、新庁舎整備等、まちづくりにかかわる重要案件を次々と受託している。この7案件すべてが、今回の市民交流プラザと同じく「公募型プロポーザル方式」による選定である。
ある関係者は、「ひとつの自治体のなかで、一企業がこれだけ重要案件を次々と受託することは、かなり異例です。何か特別な力が働いているのではないかと、誰もがみるでしょう」と指摘する。
船場といえば、商業施設のディスプレイデザインを手掛ける企業。2015年に東京・世田谷オープンした二子玉川蔦屋家電や、2018年に山口県に開館した周南市立徳山駅前図書館の内装を手掛けている。これらを運営するCCCとも近しいことから、同社とタッグを組むことでCCCは、木更津市にツタヤ図書館を実現しようとしているのではないかとみる向きもある。
船場の存在が今回の疑惑にも深く関与しているのではないかと囁かれるのは、その意味では当然だろう。次回、木更津市不正選定疑惑の核心に迫る。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト:外部執筆者)