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大手が寡占状態のVTuber、その盛り上がりはいつまで続く?新規参入のポイントとは

文=小森重秀/清談社
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あおぎり高校公式サイト」より

 「VTuber」という存在について、耳にすることが増えてきたのではないだろうか。VTuberとは、架空のキャラクターの姿でYouTubeなどに動画を投稿したり、配信活動を行う「Virtual YouTuber」のことを指す。現在活動しているVTuberの総数は2万人を超えるといわれており、その市場はますます拡大している。

 VTuberは、事務所に所属する「企業勢」と、個人で配信活動を行う「個人勢」に大きく呼び分けられる。企業勢VTuberは独自のカラーを打ち出し、グループとして売り出すことで幅広い支持を獲得しており、バーチャルライバーグループ「にじさんじ」を抱えるANYCOLOR株式会社と、VTuberグループ「ホロライブ」などが所属しているカバー株式会社が“2強”と目されている状況だ。

 この2社に所属するVTuberのチャンネル登録者数は桁違いに多く、市場をほぼ独占しているといっても過言ではない。チャンネル登録者数はInstagramやTwitterでいう「フォロワー数」のようなもので、潜在的な視聴者の数を表しており、この「集客力」がそのまま「集金力」となるのがVTuberの世界なのだ。

 YouTubeでは、2017年より「スーパーチャット」(以下、スパチャ)と呼ばれる投げ銭機能が導入されている。ファンはコメントを読み上げてもらうために1万~5万円の高額スパチャ(通称赤スパ)を投げるケースも多く、大手VTuber運営会社は莫大な収益を上げている。

 VTuberが登場し始めた初期の頃は、8~10分ほどの動画に広告を挟んで収益を得るような動画配信スタイルが一般的だった。しかし、YouTube運営会社がスパチャ機能を拡張し始めると、多くのVTuberがライブ配信型にシフト。この流れに乗ったのが、先述の「にじさんじ」や「ホロライブ」だ。ライブ配信では、視聴者からのコメントに瞬時に受け答えをしていくトークスキルが重要となってくるため、これらのグループに所属するVTuberには、すでに『ニコニコ動画』などで活動していた配信者から転身したケースも多いという。

 動画配信、ライブ配信以外にも、VTuberが利益を上げる手段はあるのか。VTuberグループ「あおぎり高校」を運営する株式会社クリエイトリング代表の藤井さんは、大手の寡占状況にあるVTuber市場に参入するにあたって、さまざまな手法を模索したという。

 「クリエイトリング設立当時、所属している演者さん(VTuber)は3名のみ。まだまだ配信の経験も浅くて、ライブ配信中のスパチャを収益の柱にすることは難しい状況でした。運営主導で動画を作成して広告収益を得ることも考えましたが、スタッフ数が少なく、採算が取れない。そこで着手したのが、ボイスコンテンツの販売とオンラインサロン系のファンクラブの運営です」(藤井さん)

 ボイスコンテンツは、VTuberがリスナーを彼氏や彼女のように仕立てて会話をしてくれるという「シチュエーションボイス」が人気だという。「ASMR」と呼ばれる聴覚への刺激によってゾクゾクしたり心地よく感じたりする要素を取り入れ、耳元で「推し」のVTuberが囁いているかのように感じる作品もあり、ファンからの需要が高いという。

 さらに「あおぎり高校」の収支を支えているのが、月額料金制で特典が得られるというファンクラブの運営だ。

 「中小の箱(VTuber事務所)では、YouTubeの収益よりも、比較的単価の高いファンクラブの特典としてVTuberとファンの交流の場を設けることで稼いでいる印象を受けます。『あおぎり高校』のファンクラブは、当初は月額500円、1000円、1万円の3種類のプランを用意していました。500円や1000円のプランでは『推し』の日記やボイスが楽しめるといった特典を、最も高額な1万円のプランは、月に1度『推し』と直接交流できるイベントを開催していました」(同)

 このような交流イベントの相場は2分で5000円ほど。「あおぎり高校」の場合、1万円払えば自分が推している大好きなタレントと1対1で30分通話ができるという破格のコンテンツだったという。

 「ファンクラブを始めた頃は、全体の売上の半分を占めていたキラーコンテンツでした。現在はその他のボイスやグッズ、スパチャ、広告収益が伸びて収支が安定したことと、『あおぎり高校』の規模が大きくなって、演者さんの負担が重くなっていたために打ち切っています」(同)

 「あおぎり高校」は、ボイスコンテンツの販売やファンクラブの運営を軸に据えながら、所属VTuberの配信チャンネルを個々に立ち上げて、少しずつファンの数を増やしていった。そこで藤井さんが新しく着手したのが「ショート動画」だ。

 ショート動画とは、InstagramのStories(通称はストーリー)やTikTok(ティックトック)などによって若年世代に爆発的に普及している、縦長の構図が特徴的な15秒~2分程度で終わるショートムービーのこと。

 「YouTubeが縦長のショート動画に力を入れ始めたのが約1年半前。その勢いをうかがいながら、『あおぎり高校』も2021年12月頃からショート動画に着手し、『VTuberあるある』シリーズが大ヒットしました」(同)

 ショート動画は再生時間が短いため、広告などを挟む余地はほとんどない。しかし、“集客力”は抜群で、ショート動画を配信している「あおぎり高校」の公式チャンネルは、1年で20万人から60万人へと登録者数を伸ばした。

 さらに、ショート動画で興味を持った新規のファンが、あおぎり高校の公式チャンネルから各VTuberの個人チャンネルへ流れていく好サイクルも生まれたという。

 「正直、大手とは資金や人員、経験に差があり、真っ向から戦うだけ無駄だと考えています。しかし、VTuberという狭い界隈で捉えるのではなく、YouTubeや動画配信サービスの一環と捉えていけば、まだまだ取れるパイは残されていると思います。私たちにしかできないサービスやコンテンツを提供していけば、衰退することはないんじゃないでしょうか」(同)

 既存のVTuberというイメージに固執せず、ファンの期待を良い意味で裏切れるクリエイターたちが次々と現れてくれば、まだまだVTuber市場は広がっていきそうだ。

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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