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書籍『ゲームの歴史』に当事者たちから事実誤認との指摘続出で物議…ゲーム業界に悪影響

文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲーム開発プログラマー
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『ゲームの歴史』(講談社/岩崎夏海、稲田豊史)

 昨年11月に出版された書籍『ゲームの歴史』(講談社/岩崎夏海、稲田豊史)の記述内容をめぐり、当事者やゲーム業界関係者から事実誤認との指摘が続出。セガで家庭用ゲームのローカライズ業務を担当し現在はソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のエグゼクティブプロデューサーを務める長谷川亮一氏はTwitterで、

<ホントに他にもあちこちツッコミどころだらけで、岩崎啓眞さんが「指摘するところが多すぎて脱力する」と仰るのが良く分かりました…>

と投稿。NTTドコモのiモード開発・運営でゲームを含むエンタメコンテンツを担当していた現ドワンゴ専務取締役COOの栗田穣崇氏は

<最後の最後で特大の誤りを発見…というか開いた口が塞がらないほどの誤りで笑ってしまう>

と投稿。一連の指摘を受け筆者の岩崎氏はTwitterで、

<主観というけど化学じゃないんだからゲームの世界に客観など存在しないので、この手の意見には全く与しない>

と反論しているが、SNS上では指摘が止まらない状況が続いている。

 本書は冒頭の「はじめに」のなかで、

<私たちはこの本を、ゲームクリエイター志望者や、ゲーム業界で働きたい人向けに書きました。つまり「面白いゲームを作りたい人」や「ゲーム産業を繁栄させたい人」に読んでほしいと思っています>

<「岩崎・稲田史観」を通してゲームの歴史を眺めることは、「ゲームの面白さ」や「ゲーム制作」や「ゲーム産業」というものの本質―それも意外なほどシンプルな本質―に、比較的短時間でたどり着けるのではないか、と自負しています>

と説明。筆者の岩崎夏海氏は09年に出版されたベストセラー書籍『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社)でも知られている。本書は、「ファミコン」や「ドラゴンクエスト」の誕生などに触れた第1巻、「プレイステーション」や「ファイナルファンタジー7」の誕生などに触れた第2巻、スマホゲームや「Nintendo Switch」などに触れた第3巻の計3巻で構成。ゲーム産業の成り立ちを網羅的に解説することを謳っているが、SNS上では当事者やゲーム業界関係者から以下のように指摘が相次いでいる。

前出・長谷川亮一氏のTwitterより

<「セガは家庭用ゲーム機ビジネスでは絶対に取り込まなければいけないゲーマー以外のライトユーザーを完全に無視していました」なんて文章が出てきますが、ムシキングとかラブベリとか、アトラスと共同開発だけどプリクラとかUFOキャッチャーとかのライトユーザーにウケたタイトルが完全にスルーされてます>

<百歩譲って筆者の主張するようにアーケードのラインナップが強いプレイヤーしか勝てないような実力主義的な作り方だったとしても(とか言いつつ、本文にも出てくる「アウトラン」はハイスコアを狙わない限りカジュアルにドライブを楽しめる素敵なゲームなのに)、同じセガだからといって家庭用のゲームを同じアプローチで作るはずがありません。AMにはAMの、CSにはCSの培われたノウハウがあります。それを無視して「セガはアーケードで実力主義的なゲームの作り方をしている、だから家庭用のゲーム機覇権争いで負けたのだ」はいくら何でも話が飛躍し過ぎだろ、と思いましたとさ>

前出・栗田穣崇氏のTwitterより

<・iモードで提供されるゲームには、「アイテム課金」という仕組みがありました
⇒誤り。当初は月額課金のみで従量課金が導入されたのは2004年頃。着うたや着メロのポイントを追加で購入する用途に主に使われたが、ゲームのアイテム課金に積極的に使われていない>

<iモードのゲーム業界は着メロ業界に続き、アバターのアイテム課金を足がかりとして、すぐに巨大な市場を形成することになった
⇒誤り。iモードにおいてそのような事実はなく、アメーバピグなどPCサービスと混同しているのではないか>

(本書内の、任天堂やソニー・コンピュータエンタテインメント、セガ、スクウェア・エニックス、コナミ、ナムコ、カプコンなど大手ゲームメーカーについて<携帯電話ゲームの開発メーカーとしては一切登場しませんでした>との記述について)
<最後の最後で特大の誤りを発見…というか開いた口が塞がらないほどの誤りで笑ってしまう iモードで2番目に早くゲームを提供したのはナムコ、SCEとは「iモードでいっしょ」を共同開発、スクエニはiアプリでドラクエをプリインストールしていますし、セガ、コナミもアプリ以前にiモードに参入しています>

「ゲーメストEX」元編集長・岩井浩之氏のTwitterより

<書籍『ゲームの歴史』はひどい本>

<(編注:「ポケットモンスター」の開発に携わったゲームクリエイターの田尻智氏の証言を)全無視して持論を、あたかも真実のように書いた著者のことが本当に許せなくて>

自称偏愛レトロゲーマー・loderun氏のブログより

<例えば本書は、黎明期の業務用ビデオゲームである『ポン』を開発したアラン・アルコーンを「電子技師(プログラマー)」と言い表している。しかし同作品の基板はTTL(Transistor-transistor logic)で構成されており、プログラムを実行するマイクロプロセッサ方式ではない。即ち、TTL回路の設計者を「プログラマー」と呼ぶのは、カッコ書きの表現とはいえ明らかに不適切だ>

<例えば1977年に発売された家庭用ゲーム機のアタリVCSに関する記述を見ると、アクティビジョンを設立した開発者の動機としてアタリがインセンティブ報酬を認めなかった点を挙げず、移植版『パックマン』がVCSを救った(むしろアタリ社凋落の原因の一つ)、『E.T.』のゲーム化企画を推進したのはアタリ社経営陣(正しくは親会社のワーナー)などと、前書きで因果関係を学ぶことの意義を述べておきながらあまりにお粗末だ>

ゲーム開発プログラマーでゲーム関連の編集者・ライターの岩崎啓眞氏のTwitterより

<任天堂のロイヤリティ商売の始まりの部分は全て間違いといって構わない。そもそも任天堂がサードパーティを想定していなかったことをわかっていない。正直、社長が訊くとか、上村先生の本を読めばわかることなのに…>

<まずApple IIが許諾制が間違っているし、そもそもファミコンはサードパーティを想定していなかったので、まるで間違いなんです。あと山内社長が「言った」とされる言葉のソースが全くわからない。すくなくとも参考資料の中にないのは賭けてもいい。ソースを知りたい>

<…あの、すみません…N64で3D酔いが登場したとか書いてあって、本当にどうしたらいいかわからなくなってきました。この人、ディセントとかジャンピングフラッシュとか、キングスフィールドとか、全然知らないとしか思えない。ナムコでもエースコンバットが出てこない>

<何度読んでも理解不能なんだけど、普通の3D用語に翻訳すると「ナムコはPS1ではテクスチャを貼ったビルボード(これを2Dというらしい)を背景に多用した。これは疑似3Dで、PS1にはちょうど良かったが、セガは本当に3Dをやろうとしたので見た目が貧相だった」という超謎理論ということになる>

<ガチャを貶しているのは別にいいけど、課金のロジックとか過去の遺物で困る。ガラケー時代のガチャのロジックをスマホ時代に語られても困るんだが…あと、この人、バトルパス系の課金技術とか全く知らないっぽい>

<ごめん、僕も本当に腹立ったわ。「ロード時間を短くしようとしていたのが任天堂ただ一社だった?」デタラメ書くのが歴史ですか?>

ゲーム業界にも悪影響

『ゲームの歴史』の問題点について、前出の岩崎啓眞氏はいう。

「第1巻のアタリショックに関する記述部分で、ナムコのアーケードゲーム『パックマン』を米国のアタリがVCSに移植して1982年に発売したのは事実ですが、本書ではパックマンがアタリを救ったと書かれていますが、実際にはその逆でアタリ凋落の原因となったことは有名な話であり、パックマン発売当時、すでにVCSはコンピュータゲーム市場で高いシェアを誇っていました。ほかにも、任天堂がファミコン発売当初にソフトを開発するサードパーティに関してロイヤリティ制にしていたと書かれていますが、最初はソフトは任天堂の自社開発のみでサードパーティに開発させることを想定していませんでした。のちにサードパーティにもソフト開発と販売をなし崩しで開放しましたが、カセットの製造は任天堂自身が開発メーカーから委託を受けるOEM契約の形をとっていたので、一部の初期に参入したメーカーを除いてロイヤリティ制はとっていませんでした(その一部も契約更新時にOEM契約になっています)。

 第2巻では3Dの原理やプレイ中に『クルマ酔い』が起こる原因に関する説明も間違っていますし、第3巻のアイテム課金の歴史についても、ガラケーのiモードがその始まりであるかのように書かれていますが、正しくは韓国発です。ほかにも、日本にインディーゲームの文化がなかったかのように書かれていたり、ファミコン発売前後に登場したPCエンジンやカセットビジョン、メガドライブにほとんど触れられておらず、当時の家庭用ゲームにはファミコンしかなかったかのような書かれ方になっています。同様の問題が随所にみられ、これではゲーム産業の歴史全体を俯瞰しているとはいえません」

 本書の全体を通じて感じた違和感について岩崎氏はいう。

「筆者の脳内にあるストーリーありきで、都合よく勝手にロジックを組み立てた結果、事実と異なる内容が多数含まれる結果になっているように思えます。そのため、元ゲーム雑誌編集長の方にも聞きましたが、任天堂の山内溥さんや宮本茂さん、ポケモンの田尻智さんなどがそのタイミングで言ったとは思えないようなセリフが、まるで当人が話したかのように『 』付きで記述されてしまうということが起きているのだと思います。

 ゲーム業界の人や将来ゲーム業界で働くことを目指す人などが本書の内容を読んで間違った歴史や情報を信じてしまうことは、業界全体にとって悪影響といえるでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲーム開発プログラマー)

岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター

岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター

「天外魔境Ⅱ 卍MARU」「エメラルドドラゴン」「リンダキューブ」など、まずまずの名作ゲームを手がけてきたゲームプロデューサー。1994年からは「電撃PCエンジン」、「電撃PlayStation」、「電撃王」といった人気ゲーム雑誌でライターを務めてきた。
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