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大学6年間&難関国家資格の薬剤師、年収が米国の2分の1の理由…多い雑用に忙殺

文=A4studio、協力=ハワードめぐみ/在米薬剤師
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大学6年間&難関国家資格の薬剤師(「gettyimages」より)

 2月5日に公開された「幻冬社GOLDONLINE」の記事で、日本の薬剤師の平均年収は500万円台で推移しているが、アメリカの薬剤師はその倍だと報じられ話題を呼んだ。厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」によると、日本の薬剤師の平均年収は約562万円。一方、アメリカの薬剤師の平均年収は約1300万円(2020年12月末時点)とのことで、日本の2倍以上の高給となっているという。

 日本の薬剤師といえば大学の薬学部で6年間学び、国家試験に合格しないとなれないハードルが高い職業。にもかかわらず、アメリカに比べると薄給と思えるレベルの給与になっている理由はなんなのだろうか。

 そこで今回は、東京に生まれ日本で5年間、病院薬剤師を経験したのち渡米し、現在はアメリカ・オレゴン州の大学病院に勤めている薬剤師のハワードめぐみさんに取材。日本とアメリカにおける薬剤師の現状の違いを解説してもらった。

薬を患者に直接提供する重要な存在である薬剤師

「薬剤師は、医薬品に関しての専門知識を持つ医療従事者のことです。仕事内容は職場によって違いますが、基本的には処方された薬がそれぞれの患者にあった薬であることを確認し、用法や用量を調節したり、患者への説明・指導をすることで薬を有効かつ安全に使用できるようサポートすることです。日本では病院に行くと処方箋をもらいますが、その処方箋を基に実際に薬を提供しているのが薬剤師です。

 日本では薬局やドラッグストアの一角、もしくは病院で働くことが多いですが、これはアメリカも同様。ただ、アメリカではそれ以外にクリニックや医療保険会社などでも薬剤師が多く活躍しています。これはアメリカの医療において、医療保険会社が日本よりも重要な地位を占めているためです。日本の場合は一律の国民皆保険に入れますが、アメリカの場合は公的な医療保険は、低所得者や高齢者・障害者などに限られており、それ以外の人は複数ある民間の医療保険会社を選んで入らなければなりません。そして、そうした医療保険会社はどの薬が保険適用になるのかなどを、薬剤師の意見を聞きつつ選定していくので、薬剤師の活躍の場があるわけです」(ハワード氏)

 薬剤師になるまでにはどういったプロセスを経る必要があるのだろうか。

「日本の場合は、まず薬学部のある6年生大学に入学し、薬学共用試験を経て実務実習、さらには卒業試験などを経て、そこからさらに薬剤師国家試験を受けて合格する必要があります。対してアメリカでは、まずは4年制の大学で一般教養や薬学に連なる科学の基礎勉強をします。このあたりが日本の薬科大学とは異なりますね。そして卒業後、次は博士課程としてさらに4年間薬学院に入り、卒業後に薬剤師の国家試験を受けて合格する、というのが一般的なスタイル。ですから、アメリカで薬剤師になるには日本の6年間より長い8年間という期間が必要になります」(同)

日米の年収格差の原因は薬剤師の社会的地位の差?

 では、日本の薬剤師の年収はアメリカの半分以下だという指摘は本当なのか。

「残念ながらそうですね。その理由はいくつかあるのですが、まずアメリカでは『しっかりと良いお給料を出すからそれに見合う働きをしてね』という意味合いを込めて、高給が支払われているという感覚があることでしょう。これは薬剤師に限った話ではなく、アメリカにおいて資格を必要とする多くの職業にいえることでもあります。

 また、日本とアメリカは人口にかなりの開きがあるのにもかかわらず、薬剤師の人口は両国とも30万人強程度であまり変わらないということもあります。アメリカは薬局の数も、各薬局に勤める薬剤師の数も日本に比べて少ないので、薬剤師の希少性が日本よりも高い。その分お給料も高くなるということですね」(同)

 日米の年収差の理由はほかにもあるという。

「アメリカは医療保険制度が非常に複雑で、日本に比べて病院の診察費用が非常に高くなってしまいがち。ですからアメリカでは日本ほど頻繁に病院を利用する人は少ないのですが、そうなると頼りにされるのが、ドラッグストアに駐在している薬剤師。彼らに自分たちの症状を事細かに伝え、症状に合った薬を出してもらうというケースが日本よりも多いので、薬剤師の社会的地位が高いのです。

 それに加えて、アメリカは薬剤師の職能団体の活動がかなり活発という部分もありますね。職能団体というのは、専門的な資格や技能などを有する専門家たちが、自分たちの労働条件や福利厚生を維持・向上させるために結成した団体のこと。彼らが日々、薬剤師という職業の重要性を世間にアピールしているので、給与が高くなっている側面はあるでしょう」(同)

年収だけではない、日米で違う薬剤師の労働実態

 ハワード氏から見て、仕事の忙しさや大変さ、専門性の高さなどを考慮すると、日本における薬剤師の年収水準は妥当といえるのだろうか。

「妥当とは思えません。その理由は日本の薬剤師の業務範囲が、アメリカに比べてはるかに多岐に渡るからです。アメリカには『テクニシャン』と呼ばれる薬剤師をサポートする職業があり、彼らが薬局における電話応対やお客さまとの直接対話、処方薬の梱包、薬の在庫管理などの細かな作業をやってくれています。ですが、日本ではこうした作業もすべて薬剤師自身が行わねばならない。この差は先ほどお話しした職能団体の活動の影響によるものでしょう」(同)

 最後に、海外と日本の薬剤師事情を比較して、今後日本の薬剤師の賃金を上げていくにはどうすればいいのかを聞いた。

「日本とアメリカの薬剤師の年収の差を劇的に変える方法というのは、現状あまりないかもしれません。ただ、日本の薬剤師の労働負担を多少なりとも軽減できるかもしれない方法として、リフィル制度の普及が考えられます。リフィル制度はアメリカで広く利用されているものなのですが、簡単にいうと、一度医師からもらった処方箋を患者が一定期間使いまわせるという仕組みです。リフィル制度を利用し、薬がなくなる前にリフィルの注文をしてもらうことで薬の準備に数日間の猶予ができ、在庫管理も容易になります。

 日本でも長い期間の検討の末、22年にようやく導入されました。ただ、これは同時にアメリカのように薬剤師の患者に対する責任が高まることも意味しており、それゆえに導入が慎重に検討されていたという背景もあるのです。とはいえ私見ですが、これは日本の薬剤師の社会的な地位を向上させるいい機会だと考えています。リフィルを患者さんが安心して活用できるように、アメリカにおける職能団体に近い存在である日本薬剤師会が、薬剤師の責任感と存在感を世間によりアピールしていってほしいものです。そうしてリフィルの利用率が上がっていけば、結果的に日本の薬剤師の労働環境改善にもつながっていくのではないでしょうか」(同)

 日米の薬剤師の給与格差はなかなか埋まらないのが現実かもしれないが、業務多忙な日本の薬剤師の労働環境が今後、良くなっていく兆しはあるようだ。

(文=A4studio、協力=ハワードめぐみ/在米薬剤師)

ハワードめぐみ/在米薬剤師

ハワードめぐみ/在米薬剤師

東京生まれ。日本で病院薬剤師を5年経験したのちに、アメリカに留学。シアトルの病院でテクニシャンとして勤務後、マイアミにて薬学院を卒業、薬剤師資格を取得。現在はオレゴン州ポートランドの大学病院で薬剤師として勤務。

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