ソフトバンク、auなど携楽電話キャリア各社が、新たな料金プランを打ち出してきている。ポイントやクレジットカードなど、関連企業とのシナジーを生かした「経済圏」への囲い込みをより強調するような施策が目立つが、そこに乗り遅れている感があるのが、もともと「経済圏」への意識が強い楽天グループの「楽天モバイル」だという。識者に聴いた。
楽天経済圏よりKDDIグループのほうがトク?
10月3日、ソフトバンクが新料金プラン「ペイトク」の受付を開始した。決済サービス「PayPay」との連動を強化し、還元率アップなどの特典が得られる。
またauは9月から「マネ活プラン」を打ち出し、好調だという。このプランは、auPAYポイントの還元率アップだけでなく、KDDIグループ内の金融各社と連携することで、auじぶん銀行の円普通預金金利や、auカブコム証券のクレカ積立のポイント還元率がアップする。
こうしたプランは、ユーザーの需要にもマッチしていると、スマホ/ケータイジャーナリストの石川温氏は解説する。
「auの『マネ活プラン』は時代性に合っていると思います。投資や資産運用に対して、日本国民の目が向きつつあるというか、やはり貯金しているだけじゃダメだよねという意識が高まっています。そういった流れを捉えたプランで、『auじぶん銀行』に口座があるユーザーなどをKDDIグループの経済圏に囲い込む効果があると思います」(石川氏)
「経済圏」といえば、クレジットカード発行数3000万枚を誇る「楽天カード」を筆頭にポイント経済圏を形成する楽天グループが強みを発揮しているが、その一角である「楽天モバイル」は、あまり恩恵を受けていないのではと、石川氏は指摘する。
「楽天モバイルは、楽天経済圏を活用できていないように感じます。auの『マネ活プラン』のようなサービスは、本来は楽天グループこそが踏み込めるプラン。しかし、楽天モバイルは、いまだに通話品質の改善に手間取っていて、プランとしては一番安くてギガ無制限を武器にするしかないという状況です」(同)
なぜ、楽天モバイルは、楽天経済圏を生かせないのだろうか。
「『楽天モバイル』と『楽天銀行』と『楽天証券』は、同じホールディングス傘下ですが、生まれも育ちもまったく別の会社だったりします。それもあって、横の連携は取れていないのかなというのはありますね。楽天銀行はこの4月に上場したばかりですし、楽天証券も東京証券取引所に上場申請するなど、それぞれが大事な局面を迎えていますので、モバイルとの連携は後回しになっているのかもしれません」(同)
さらに、ユーザー数が伸びない楽天モバイルの苦境も影響しているという。
「金利上乗せ、ポイント付与などのキャンペーンの原資は、通信事業側が負担するのが通例です。いまの楽天モバイルには、そんな余裕はないかもしれません。やっぱりモバイルの赤字状態を解消しないことには、金融との複合サービスや、ユーザーへの還元率を高めるような施策に踏み込めないでしょう」(同)
今後は、他のキャリアもこうした金融との複合プランを強化していく可能性は高い。
「ソフトバンクはPayPay銀行やPayPay証券を持っているので、関連プランを実施する可能性は0ではないと思います。ただ、現状ではauのように共通アカウントで管理できないので、連携サービスが難しいかもしれません。さらにソフトバンクグループ全体でいうと、YahooとLINEの経営統合がカギを握っています。ただ、この統合についてはブランド力も会員数も含めて、どっちも強すぎるのがネック。サービスも多岐に渡っているので、Yahooの良さとLINEの良さを残しながら上手く統合していかないと次に進めないのかなと思います」(同)
シェア1位を堅持するドコモ陣営は、どう動くだろうか。
「ドコモに関しては、三菱UFJ銀行と提携し『dスマートバンク』という口座サービスがありますが、やはりグループ内の会社ではないので、なかなか踏み込んだ連携というのは難しい状況なのかなと思います。先日、マネックス証券を連結子会社化することを発表しましたが、これを打開策とする可能性もあります」(同)
ドコモ陣営もこの流れは無視できない。今後はポイントだけでなく金融サービスなどを含めた“総合力”が、携帯キャリアの支持率に大きな影響を与えていくと予想する。
「通信料金や通話品質といったサービスだけでなく、通信と金融を含めた経済圏の取り合いというフェーズに入っています。auは、この領域では先行していますが、いかんせんブランド力が弱い。楽天はポイント経済圏が強固ですから、金融を生かしたプランを促進していけば今後のシェア拡大もあるかもしれません」(同)
「年縛り契約」の解消や、手続きの簡素化などが進み、携帯電話ユーザーは気軽にキャリアやプランを変えられる“大移動時代”を迎えていた。しかし、各社がさらに踏み込んだ「囲い込み」プランを打ちだせば、ユーザーはそのキャリアに留まる傾向が強くなる。今後のシェア争いに大きな影響を与える、ひとつの転換期を迎えつつあるようだ。
(文=清談社、協力=石川温/スマホ・ケータイジャーナリスト)