楽天モバイルが念願だった「プラチナバンド」割り当ての申請を総務省に行った。1GHz以下の周波数帯で、障害物の裏に回りやすく、より広い範囲に届きやすいプラチナバンドは現在、楽天モバイルには割り当てられておらず、楽天モバイルの「つながりにくさ」につながっているとされる。携帯電話事業は赤字が続き、契約者数の伸びが一時停滞していた楽天モバイルは、これまで総務省に対してプラチナバンドの割り当てを強く要求してきた。その獲得によって停滞を脱却するシナリオを描くが、業績改善への効果は限定的との指摘もある。果たしてプラチナバンド獲得によって楽天モバイルは大きく浮上するのか――。専門家の見解を交え検証してみたい。
楽天グループ(G)は2020年に子会社の楽天モバイルを通じて携帯電話事業のサービスを開始。どれだけ使っても月額で最大2980円(楽天回線エリアのみ/通話料等別)、さらに月間データ利用量が1GB以下なら基本料無料というプランを掲げ、翌21年には500万回線を突破したものの、昨年には1GB以下の0円プランを終了した影響で契約数が減少。楽天モバイルは契約数の目標値を1200万件としているが、今年8月に500万件を超えたものの、それまでの1年ほどは400万件台が続いていた。
業績も厳しい。楽天Gの23年1~6月期連結決算で携帯事業の営業損益は1850億円の赤字。その影響でグループ全体の営業損益は1250億円の赤字に陥った。さらに、携帯事業の基地局整備などの設備投資のために発行した大量の社債の償還を23年以降に控えており、その額は25年までに約8000億円とされ、資金繰り対策として楽天カードの上場も取り沙汰されている。8月、楽天Gは楽天ペイ事業と楽天ポイント事業を連結子会社の楽天ペイメントに移管したうえで、楽天ペイメントを楽天カードの傘下に入れると発表。決済サービスとポイントサービス、金融サービスを一体運営していくことになるが、楽天カードを上場させて社債返還の原資にあてるのではという観測が広まっている。
苦境が続くなか、楽天モバイルも攻めの姿勢を緩めてはいない。従来の「Rakuten UN-LIMIT VII」は、月間データ利用量3GBまでは月額1078円、同3GB~20GBまでは月額2178円、データ使い放題は月額3278円であり、専用アプリ「Rakuten Link」を使用すれば音声通話とSMSは無料。ただ、データ利用量については、KDDIのパートナー回線によるauローミングサービス利用時の高速通信は月間5GBに制限されており、制限を超えると通信速度が1Mbpsに制限されていた。そこで6月からは「Rakuten最強プラン」の提供を開始し、現行の料金体系を維持しつつ、auローミングの制限を撤廃した。
プラチナバンド獲得への並々ならぬ熱意
その楽天モバイルが積極的な動きを見せていたのがプラチナバンド獲得に向けた取り組みだ。楽天モバイルは2020年から、総務省の有識者会議「デジタル変革時代の電波政策懇談会」や「移動通信システム等制度ワーキンググループ(WG)」でプラチナバンドの再割当てを要求。22年からは総務省の「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」でも非公開で議論が進められてきたが、そのなかで同社の楽天モバイルの矢澤俊介社長は、
「1年以内にプラチナバンドの利用を開始したい」
「なぜ10年も必要なのか。大きく疑問」
「なぜ楽天モバイルに費用負担を求めるのか。技術的・論理的にも理解できない。(既存大手)3社合計で35兆8000億円の営業利益を出している。赤字の楽天モバイルに対して費用負担を求めるのは、制度的にもまったくおかしな話」
と主張。さらに、総務省の会合の進め方についても
「過去、何度か議論したが合理的ではない。時間稼ぎをしているとしか思えない発表が多々あった。到底納得できず、本当に国民のことを考えているのか甚だ疑問」
と疑問を呈し、大手3社の「受信フィルタ設置が必要」とする意見の根拠となる実証実験の結果を提出していないとして、
「春から求めてきたが、いまだに結果が出ていないことは甚だ疑問だ」
と批判。議論が長期化する場合は「1社もしくは2社にターゲットをロックして再割り当てを要望する」と、大手3社に揺さぶりをかける発言もみられた。
当然ながら、すでに保有しているプラチナバンドを一部奪われる側の他の大手キャリア3社、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは反発した。3社は、電波を増幅して届きにくい場所に届けるレピーターの交換や、分割した周波数同士の干渉を防ぐ受信フィルタの基地局への設置を行う必要があるため、移行には10年を要すると主張。一方の楽天モバイルは改正電波法を根拠に、移行に伴う費用について大手3社が負担すべきとも主張。その額は合計3000億円に上るともいわれ、3社の抵抗は強かった。結局、折衝案として700MHz帯周辺にある3MHz幅×2の空きを割り当てる方式が検討され、この方式で楽天モバイルにも新規で割り当てられる見通しとなった。
「楽天モバイルは基地局整備が一巡したことで設備投資費用が今年から大きく減る見通しだったが、プラチナバンドの運用開始に伴い数百億円単位で追加の設備投資費用が発生するとみられる。それゆえに同社はこれまで、移行にかかる費用については大手3社が負担するべきだと執拗に主張してきたわけだが、その出費を補ってあまりがあるほどの効果があるのかは疑問」(大手キャリア関係者)
ローミング費用を減らす効果も期待
ITジャーナリストの山口健太氏はいう。
「楽天モバイルはKDDIとローミング契約を結ぶことで全国にエリアを確保しつつ、自社で基地局の設置を進めてきました。現在は大手3社に匹敵する人口カバー率99%で『最強』をアピールしているものの、KDDIのプラチナバンドによるところも大きく、楽天が使用する1.7GHz帯ではつながりにくい場所が残っていると考えられます。その楽天が自社でプラチナバンドを獲得できれば広告などでアピールできますし、赤字の原因の1つであるローミング費用を減らす効果も期待できます」
課題もあるという。
「今回割り当てられる帯域は上り下りがそれぞれ3MHz幅で、通常より狭いものになっています。当面は問題ありませんが、楽天の契約者数が今の2倍くらいの規模になる頃には足りなくなる恐れがあります。また、基地局は既存のものを利用することでコストを抑える方針ですが、1.7GHz帯に最適化された基地局にプラチナバンドを実装したとしても、すぐに効果を実感できるかは未知数の部分があります。
ソフトバンクは2012年にプラチナバンドを獲得した後も、エリアが狭いというイメージを覆すのに何年もかかりました。同様に、楽天のつながりやすさが劇的に改善したとしても、それが世の中に認められるまで時間を要するかもしれません」
(文=Business Journal編集部、協力=山口健太/ITジャーナリスト)