楽天グループは英語を社内公用語としていることが知られているが、TOEICで800点以下だと給料が1割減らされるとの情報がSNS上で話題になっている。その一方で、英語が堪能な社員は他社からも引く手あまたのため、有能な人ほど離職するとの声もある。実際のところはどうなのか、楽天に直接聞いた。
楽天グループは、楽天市場等のEコマースをはじめとして、楽天モバイル等の通信、楽天カードや楽天銀行等の金融、不動産、スポーツ事業など、インターネット関連サービスを中心に幅広い事業を展開し、日経平均株価の構成銘柄でなっている。
連結売上収益は2023年度に初めて2兆円を突破し、国内でも屈指の企業集団といえる。創業者で代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、新経済連盟代表理事を務めるなど、国内市場に大きな影響力を持つ。
そんな楽天は2010年、社内の公用語を英語にする方針を打ち出し、大きな話題となった。それまで国内企業でほとんど例のない取り組みで、実現可能性や効果などを疑問視する声も多かった。また、その後はTOEIC800点が入社条件の一つとなっている。就職活動をしている学生が内定をもらった時点で条件を満たしていない場合には、英語研修を行い、TOEICで800点を取れるように支援する態勢も整えている。
仮に入社までに800点をクリアできなかった場合、内定が取り消されるという。これについて、ある人事コンサルタントは「外資系企業の採用基準の平均がTOEIC720~730なので、800点はかなりハードルが高いですね。しかも内定取り消しは、ほかに例を見ないほど厳しいです」と驚く。
英語の社内公用語化から14年が経過し、社内会議や資料などは英語が使われることから、社員の英語力が上がったのは間違いないが、従来からいる社員などでTOEIC800点をクリアできていないケースもあるという。その場合、給料が減額されるとの情報がX上に投稿された。
<楽天はTOEIC 800点取れないと給料1割減になるけど、取れる人は転職して行くから給料全体が持ち上がっていて1割減でも満足する人が居座るようになったとか。>
つまり、1割減ったとしても、それを受け入れる人が一定数いるというのだ。逆に、有能な人は他社へ流出しているとの指摘だ。仮にそれが事実であれば、「TOEIC 800点」という入社条件や給料査定の基準は、無意味なものになってしまうどころか、会社にとってデメリットですらある。
英語の社内公用語化のメリットとデメリット
そこでBusiness Journal編集部は、楽天の広報部に以下の4点について質問した。
(1)TOEIC800点取れないと給料が1割減になるというのは事実か 。
(2)また、社内公用語を英語にしたことで、これまでにどのような効果があったのか。
(3)英語を社内公用語にしたデメリットや課題は、どのようなことがあったのか。
(4)英語が堪能になり、経験を積んだ社員が他社へ流出するという傾向はあるのか。
すると、以下の通り回答を得た。
<・社内英語公用語化の効果としては、以下2点が挙げられます。
(1)世界での一体感のある経営体制の構築(グローバル化の推進・競争力強化)
「英語」を共通言語にすることによって、各部門における活動状況、ノウハウ、成功事例などの情報が平等かつグローバルにシェアされることに加え、外国籍従業員も疎外感を抱くことが減り、楽天グループへの参画意識が高まっています。また、世界を相手に戦い抜くための情報収集力・競争力も強化されていると考えております。
(2)世界中の優秀で多様な人材の積極的な採用等
楽天では、国内外問わず、優秀な人材であれば積極的に採用するという方針をとっています。社内の共通言語を英語にすることで、海外子会社従業員や海外からの就職希望者にとっても、開かれたキャリア形成の機会を提供し、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材の維持・獲得が期待されます(現在、グループ全体における外国籍従業員の比率は22.1%となっております)。
・課題として、取り組み当初に従業員への理解促進や英語力向上支援などがありましたが、弊社ではカウンセリングや学習支援プログラムなどを用意し、全社一丸となって取り組むべき重要なことであるというメッセージを伝えつつ、取り組みを推進しておりました。
また、上記以外の人事に関するデータにつきましては回答を控えさせていただきますが、離職率は低下しており、人材の定着が進んでいます>
英語の社内公用語化は、楽天がグローバル展開するうえで欠かせない要素だったのは間違いない。そのなかで、国内外の人材を獲得する際に、英語が公用語となっていることで障壁を減らす効果があり、さらに情報収集力・競争力も強化できたという。また、SNSで指摘されていた人材流出についても、離職率は低下しているということで、誤情報といえる。
(文=Business Journal編集部)