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ホンダN-BOXと三菱デリカミニ、大人気の裏側…未使用車が大量に中古で流通

文=萩原文博/自動車ライター
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ホンダN-BOX
ホンダN-BOX

 2023年に販売されたクルマのなかから、No.1を決める「日本・カー・オブ・ザ・イヤー」は、トヨタ自動車「プリウス」が輝いた。

 ウクライナ紛争をきっかけにエネルギーの供給不安が広がり、BEV(電気自動車)を強く押し進めていた欧州車ブランドにもブレーキがかかった。一方、北米ではBEVブームが沈静化し、日本車のハイブリッド車に人気が集まり、在庫不足が続いているという現象も起きている。

 100年に一度の変革期といわれている自動車業界のなかで、日本市場において安定した人気を誇っているのが軽自動車だ。新車販売台数の約4割を占める軽自動車は、ボディサイズやエンジン排気量に制約はあるものの、税金などのランニングコストが安いことからセカンドカーとしてだけでなく、最近では子育てを卒業したシルバー世代のファーストカーとして活躍している。

 ひと言で軽自動車と言っても、定番のハッチバックや広い室内空間が特徴のハイトワゴン、人気急上昇中のSUV(スポーツ用多目的車)、そしてオープンカーなど様々なボディタイプが選べることが、多くのユーザーを惹きつけている要因なのだろう。

 2023年11月の軽自動車の新車販売台数ランキングを見てみると、2万197台で本田技研工業(ホンダ)「N-BOX」が第1位。第2位は1万5988台のダイハツ「タント」、第3位1万1407台でスズキ「スペーシア」。第4位は8731台のスズキ「ハスラー」、そして第5位は7292台のダイハツ「ムーヴ」となっている。

 トップ3のN-BOX、タント、スペーシアは“軽スーパーハイトワゴン”と呼ばれているカテゴリーに属するモデルだ。軽スーパーハイトワゴンというのは、軽自動車で最大級の室内空間を確保し、リアドアに利便性に優れた両側スライドドアを採用。これにより老若男女問わない乗り降りのしやすさが特徴となっており、幅広い層から支持されている。

 軽スーパーハイトワゴンは、N-BOX、タント、スペーシアに加えて、日産自動車「ルークス」、三菱自動車工業「デリカミニ」の5モデルが主力車種となっている。そのなかで、2023年に新型が登場したN-BOXとデリカミニの2車種に注目し、それぞれの人気の秘密に迫る。

ホンダN-BOX、“ベストセラー”の裏側

 初代N-BOXは、「日本にベストな新しいのりものを創造したい」をコンセプトに開発された、ホンダの新型軽自動車“Nシリーズ”の第1弾モデルとして2011年に登場した。コンパクトカーのヒットモデル「フィット」に採用されている、ホンダ独自のセンタータンクレイアウトを採用し、軽乗用車最大級の室内空間を実現するだけでなく、ミニバンに匹敵する多彩なシートアレンジが特徴。搭載するパワートレインもすべて新設計で、クラストップレベルの低燃費性能を実現し、登場した翌年から新車販売台数No.1に輝いた。

 N-BOXは2017年にフルモデルチェンジを行い、2代目モデルに進化した。わずかひと世代で、クルマの骨格に当たるプラットフォームに加えて、エンジンやトランスミッションといったパワートレインを一新。さらに、ホンダの先進運転支援システムであるホンダセンシングを採用するなど、高い走行性能に加えて、安全性能も大幅に進化させた。

 そして2023年10月にN-BOXはフルモデルチェンジを実施し、3代目となる現行モデルが登場した。現行型N-BOXは、上質さを感じられるデザインにさらに磨きを掛けたのに加えて、室内空間は広さに加えて開放感をアップすることで運転しやすさを向上した。

 プラットフォームやパワートレインには改良が加えられ熟成されているものの、N-BOXとしては初めて旧型のキャリーオーバーとなっている。また、ユーザーがより安心して快適なカーライフを楽しむために、新世代コネクテッド技術を搭載した車載通信モジュール「ホンダコネクト」をホンダの軽自動車として初めて採用。さらに先進の安全運転システムのホンダセンシングには近距離衝突軽減ブレーキ、急アクセル抑制機能を追加し、全車に標準装備となっている。

 現行型N-BOXは、従来モデル同様に標準車のN-BOXとスタイリッシュなN-BOXカスタムの2種類を設定。旧型では通常のベンチシートと助手席ロングスライドシートの2種類のインテリアが用意されていたが、現行型ではベンチシートのみとなっている。また、旧型では標準車でもパワフルなターボエンジンが搭載されていたが、現行モデルではN-BOXカスタムのみとなるなど、グレードの統廃合などのコストカットも行われている。

 そして軽自動車のベストセラーモデルであるN-BOXは2023年10月にフルモデルチェンジを実施した。一般的にはフルモデルチェンジ直前に工場のライン変更などを行うため、一時的に生産台数が減少するものだ。しかし、N-BOXの販売台数を見てみると、2023年8月が1万6812台、9月が2万686台。そしてフルモデルチェンジを行った10月が2万2943台とフルモデルチェンジ直前から増加しているのだ。

さすがベストセラーカーのN-BOXと言いたいところだが、実際にそんなに売れているのだろうか。それほど売れているのであれば、もっと街で見てもよいはずだ。そこで大手中古車検索サイトを調べてみると、驚きの事実がわかった。

 N-BOXの中古車は約1万9000台流通しているのだが、そのうち約1万2000台が旧型となっている。その旧型の中古車のうち、「2023年式、走行距離500km以下」という条件でソートを掛けると、なんと約2200台がヒットした。これはどんなクルマなのかというと、軽自動車の中古車で多く流通している“未使用車”と呼ばれるクルマだ。未使用車というのは、ユーザーのオーダーがないまま生産して、在庫となっていたクルマを一旦登録し、中古車として市場に流通させることで、人気の高いグレードが多く存在するのが特徴だ。また、2023年10月に登場した現行型の未使用中古車も、すでに400台以上流通している。

 N-BOXは、軽自動車とは思えない内外装や走りの質感の高さが特徴で、ベストセラーカーとして君臨している。その一方で、現在ホンダはN-BOX以外の車種が非常に苦戦しているので、N-BOX頼りの部分が大きい。そこでオーダー以上に生産しているため、かなりの未使用車が市場に出回っているのだ。ホンダの苦しい台所事情に支えられたNo.1と言っても言いすぎではないかもしれない。

三菱「デリカミニ」が売れた理由

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三菱デリカミニ

 続いては、2023年5月に販売開始された三菱デリカミニだ。デリカミニは、もともと「eKクロススペース」として販売されていたモデルのフロントマスクとリアガーニッシュを変更したブランドチェンジモデルで、新型ではない。

 特徴はフロントマスクをダイナミックシールドに半円型のLEDポジションランプを内蔵したヘッドライトを組み合わせて親しみやすい表情としたこと。そしてフロントバンパーとリアのテールゲートガーニッシュに「DELICA」ロゴを採用したこと。さらに4WD車は165/60R15サイズの大径タイヤと専用チューニングを施したショックアブソーバーの採用により、路面の追従性を高めるだけでなく、砂利道などの未舗装路を走行する際の安定性と快適性を高めたことだ。

 デリカは現在、5世代目の「デリカD:5」が販売されている悪路走破性の高いSUVとミニバンのクロスオーバーモデルで、三菱車の中で「パジェロ」と同じくらい強いブランドだ。

 三菱の軽自動車はeK(イー軽)ブランドで販売されていたが、スズキ「スペーシアギア」の登場により、SUV+軽スーパーハイトワゴンという新しい潮流が生まれた。そこで三菱は自社の強いデリカブランドを軽自動車に採用し、eKクロススペース改めデリカミニが登場したのだ。また、デリカミニのテレビCMにはデリ丸というキャラクターを登場させたことで、「ブランドオブザイヤー2023」において、「消費者を動かしたCM展開特別賞」を三菱自動車として初受賞した。

 この結果を見てもわかるとおり、軽自動車を購入するユーザー層は性能だけでなく、コマーシャル展開などのイメージ戦略が大切であることがわかる。もともと三菱はSUVに強いメーカーで、軽自動車の主力モデルであるスーパーハイトワゴンにSUVテイストをブレンドしたモデルに注目が高まった時に、デリカミニを登場させることができたという抜群のタイミングだったのが功を奏した。

 これがeKクロススペースでは低迷していた新車販売台数が、デリカミニで巻き返しに成功した理由だ。しかし、三菱はデリカミニだけでなく、現在日本では途絶えているパジェロブランドを復活させるなどの策を講じていかないと、この好況は長くは続かないだろう。
(文=萩原文博/自動車ライター)

萩原文博/モータージャーナリスト

萩原文博/モータージャーナリスト

モータージャーナリスト。1970年生まれ。10代後半で走り屋デビューを果たし、大学在学中に中古車雑誌編集部のアルバイトに加入し、中古車業界デビュー。1995年より編集部員として本格的に携わり、2006年からフリーで活動。中古車の流通、販売の造詣が深く、新車でも多くの広報車両に乗車するなど精力的に取材を行っている。

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