「蓄電所」が第2の太陽光バブルへ?異業種参入が相次ぐ“エネルギー不動産”転売ビジネスの危うい実態

●この記事のポイント
・系統用蓄電所が「第2の太陽光バブル」化する兆候が出ている。制度改正で投資マネーが流入し、接続枠と土地の転売が過熱。インフラの公共性が揺らぐ。
・蓄電所市場では建設前の“権利転売”が拡大。接続枠を押さえて売る不動産型スキームが横行し、未稼働案件の再来や系統混乱、実需阻害の恐れがある。
・収益源はFITではなく市場取引で、参入過多による利幅縮小や電池コスト上振れで採算悪化も。蓄電所を公共インフラとして育てる規律が急務だ。
いま日本のエネルギー市場で、「系統用蓄電所(送電網に直接接続する大型蓄電施設)」が空前の投資ブームを巻き起こしている。太陽光発電が固定価格買い取り制度(FIT)を追い風に全国で乱立し、“投資商品”として熱狂した時代があった。その熱狂が形を変え、蓄電所へと移りつつある。
だが、現場で起きているのは「純粋なエネルギー事業の拡大」というより、土地の権利と系統接続枠を確保し、建設前に売却して利益を確定させる——いわば “エネルギー不動産”の転売ビジネスだ。
蓄電所は本来、再生可能エネルギーの出力変動を吸収し、需給調整を支える「電力インフラ」である。にもかかわらず、いま市場の一部は「接続枠=希少資源」を巡るマネーゲームに傾斜し始めている。このままでは“第2の太陽光バブル”が現実になりかねない——という警鐘が、エネルギー・金融双方の現場から聞こえ始めた。
●目次
- 制度改正が呼び込んだ「異業種」の群れ
- 「建設前に売る」転売ビジネスの隆盛
- 需給逆転と「蓄電バブル」崩壊の火種
- 「太陽光バブル」と何が同じで、何が違うのか
- 加速する蓄電所ビジネスの勢力図:「エネルギー×不動産×金融」の三つ巴
制度改正が呼び込んだ「異業種」の群れ
なぜいま、蓄電所なのか。背景にあるのは国が用意した強力な制度的“追い風”だ。
2022年、政府は一定規模以上(10MW以上)の大型蓄電施設を「発電事業」と位置づけ、補助金対象に含めた。さらに2023年には「長期脱炭素電源オークション」が本格的に動き出した。これにより、事業者は 20年間にわたり固定費の大部分を回収できる見通しが立ち、プロジェクトファイナンスが組みやすくなった。
エネルギー事業は、通常なら「建設費が重い」「許認可と系統接続が難しい」「運用が複雑」という参入障壁がある。ところが、制度設計が“収益の見通し”を先に与えたことで、金融機関の態度が一変した。投資家にとっては「インフラ投資として成立する確率が上がった」のである。
「長期オークションは、事業者の挑戦を後押しする一方で、“金融商品化”を加速させた側面もあります。20年の収益見通しが立つと、設備を作る前に“権利”だけが先に値段を持つ。ここに投機が入り込みます」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
この「20年の安定収益」という果実に群がったのは、電力・再エネ企業だけではない。
・総合商社・通信大手:脱炭素目標(RE100)達成や、データセンターなど自社インフラ維持のための電源確保
・金融・投資ファンド:低金利下での安定的オルタナ投資先として確保
・不動産・鉄道:保有する遊休地を“蓄電所適地”として活用
・新興・外資勢:蓄電池供給だけでなく、運用(アグリゲーター)まで含めた垂直統合
さらに2032年以降、FIT終了が順次到来する。出口を失った太陽光事業者が土地を売却し、蓄電所へ乗り換える動きも加速している。「次の投資先」を求める資金が、蓄電所へ流れ込む構図が見えてきた。
「建設前に売る」転売ビジネスの隆盛
この過熱ぶりを象徴するのが、建設着工前の “権利転売”である。現在の蓄電所ビジネスは、概ね次のステップで進むことが多い。
1.適地の確保:送電線に空き容量があり、地価が安い土地を特定
2.接続申請:送配電会社に系統接続の申請を行い、「枠」を確保
3.権利売却:接続許可が下りた段階で、用地と権利を他社へ転売
土地を押さえ、書類を通すだけで数千万〜数億円単位の利益が動く——。本来の目的である「電力を供給する」ことよりも、「接続権という切符をいかに早く手に入れ、いかに高く売るか」に価値が移り始めている。
いわば、電力事業の皮をかぶった“不動産”である。インフラ整備が進むのではなく、「枠の争奪戦」が市場を支配する。この状態が続けば、歪みは必ずどこかに出る。
「系統接続枠は有限です。本当に必要な事業者が接続できない状況が続けば、再エネ普及のボトルネックになります。最悪なのは、枠だけ押さえて建たない“塩漬け案件”が増えることです」(同)
ここで思い出されるのが、かつての太陽光バブルで問題化した「未稼働案件」だ。認定だけ取得し、建設しないまま権利として転売され、土地と制度が荒れた。同じ構図が、蓄電所でも再現される可能性がある。
需給逆転と「蓄電バブル」崩壊の火種
もちろん、再生可能エネルギーの普及に蓄電所が不可欠なのは間違いない。太陽光・風力の発電は天候に左右され、瞬間的な出力変動が大きい。電力の安定供給には「調整力(需給バランスを取る力)」が要る。蓄電所はその中核になり得る。
しかし現場では、「系統接続の申請容量が、実需や系統キャパシティを上回っている」との指摘が出ている。つまり“建つ前から過剰供給の影”がちらついているのだ。
この狂騒曲に暗雲を落とすリスクは、大きく3つある。
(1)未稼働物件の再来:インフラが“空室化”する
権利転売を目的に接続枠を占有し、実際に稼働しない案件が増えれば、送電網は「空室だらけのマンション」のようになる。
社会的には最悪の結果だ。系統の希少資源は押さえられているのに、供給能力は増えない。
「送電網は公共財です。民間の投機で歪められると、最終的には国民負担や供給不安として跳ね返ります」(同)
(2)収益性の悪化:裁定取引が“薄利”に変わる
蓄電所の収益源は、太陽光のように「国が高値で買い取る」構造ではない。
卸電力市場の価格差や需給調整市場での取引、いわゆる裁定取引(安く買って高く売る)で稼ぐモデルが中心となる。
つまり市場参加者が増えれば、裁定余地は削られる。先行物件では高収益が出ても、参入が過密化すれば「収益の平均化」が起きる。“先行者利益”は永遠ではない。
(3)コスト逆行:電池価格が想定ほど下がらない
蓄電池は世界的な原材料高、サプライチェーンの不確実性、為替変動などの影響を受けやすい。コストダウンが前提の投資計画が崩れれば、利回りは一気に悪化する。
「長期の収益が見込める投資ほど、“金利”“設備価格”“稼働率”の変動が致命傷になります。事業者が増えるほど、想定収益は下がり、想定コストは上振れしやすい」(同)
「太陽光バブル」と何が同じで、何が違うのか
過去の太陽光発電ブームと、現在の蓄電所ブームには共通点がある。それは、権利が先に価値を持ち、転売が過熱するという“金融化”の構図だ。
一方で違いもある。
太陽光はFITという制度で「収益の原資が国民負担(賦課金)」に直結していた。蓄電所は市場取引型であり、価格差が縮めば収益が落ちる。
つまり、蓄電所バブルは「国民負担爆発」よりも、「投資案件の一斉破綻」や「系統の混乱」といった形で現れやすい。
結果として、後になって残る爪痕は“負担”ではなく“混乱”かもしれない。電力は社会インフラであり、混乱は企業活動と生活を直撃する。
加速する蓄電所ビジネスの勢力図:「エネルギー×不動産×金融」の三つ巴
現在、蓄電所市場には「電力・再エネ系」「異業種・不動産系」「金融・商社系」のプレイヤーが入り乱れている。
例えば不動産・インフラ企業は、自社保有地や遊休地を「蓄電所」として再開発し、証券化・流動化スキームを視野に入れる。通信・ITはデータセンターの電源安定化とエネルギーマネジメント技術の転用を狙う。商社・金融はリースやファンド組成で、アセットとしての蓄電所を拡大する。
新興・外資勢は、蓄電池供給に加え、自社開発・運用(アグリゲーター)まで取り込む。
こうした動きは、一見すると「多様な資本の流入=インフラ整備の加速」に映る。だが裏側では、接続枠を巡る争奪戦が“金融的に正当化”され、転売が標準化する危険も孕む。
蓄電所は、日本の脱炭素とエネルギー安全保障を支える「公共インフラ」になり得る。しかし現状は、投機的資金が市場を歪め、系統の混乱や電気料金への跳ね返りを招きかねない段階に入りつつある。
太陽光バブルが残したのは、再エネ賦課金の増大と、地域トラブル、景観破壊だった。蓄電所が“第2の負の遺産”になれば、今度は「系統という国家インフラの信用そのもの」が毀損される。
必要なのは、蓄電所投資を潰すことではない。むしろ健全に育てるためのルールが要る。
・接続枠の確保に対して、一定期間内の稼働義務やペナルティを設ける
・権利転売の透明化(情報開示)と、適正な審査
・稼働実態に応じた評価制度(“建たない案件”の排除)
・系統の公共性を踏まえた投機資金の制限
電力インフラを“投資商品”として扱うこと自体は否定されない。だが、インフラには「公共性」と「責任」が伴う。
蓄電所が日本の未来を支える基盤となるのか、それとも再び“バブルの残骸”となるのか。いま問われているのは、事業者の覚悟だけではなく、制度設計の成熟度そのものだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











