ポルシェ最新モデルがスゴすぎるぞ!スポーツカーなのに、なぜマニュアルを捨てた?
そう聞かれたら、答えは決まっている。ポルシェの911 GT3だ。この最新モデルから、トランスミッションの設定にMT(マニュアル)がなくなり、すべてPDK(ポルシェ・ドッペルクップルング/7速の2ペダルMT)になった。
これが良いか悪いかの答えは最後に明かすとして、自然吸気(NA)で9000 rpm(回毎分)も回るエンジンは、今では希少である。あのフェラーリでさえ、V8NAをやめてターボに変更してしまった。
実はノーマルの911もターボ化が計画されているらしく、よく回るNAエンジンは今や絶滅危惧種になろうとしている。そんなGT3の特徴は、エンジンやPDKだけではない。切れ味の鋭いハンドリングも、元走り屋にはうれしいものだ。かくして、魅力満載のGT3に私はすっかり惚れ込んでしまった。
先日、富士スピードウェイで2日間、GT3のステアリングを握るチャンスに恵まれた。しかし、初日はあいにくの雨であった。
GT3はドライ性能を重視するため、ミシュランの専用タイヤを履いているが、溝は5mm弱と浅い。路面も冷えているので、少し濡れただけでもよく滑る。そのため、初日は極めてリスクが高い走行状況だったが、かえってGT3の弱点を知ることができた。
GT3にはABS(アンチロック・ブレーキシステム)やESC(横滑り防止装置)、TCS(トラクションコントロールシステム)が備わっているので、雨でも大丈夫だと思うかもしれないが、それは素人の考えだ。雨天時に走りやすいのはPDKのスポーツモードで、このスイッチを押してからMTモードでPDKを操作すると、ギアが固定される。
GT3のタイヤは雨が苦手で、TCSではタイヤのスリップを止めきれないので、高いギアを使うといい。つまり、2速で走るところを3速、3速で走るところを4速で走るのだ。そうするとエンジン回転が下がって、トルクと馬力が低くなり走りやすくなる。
ただし、このテクニックはターボでは使えない。ターボは2000rpm(回毎分)くらいから最大トルクを発生するので、ギアダウンしてもタイヤに加わるエンジントルクは低くならないのだ。
非日常の世界を体験できる車
2日目は、一転して晴れた。前日はエンジン回転を下げて走っていたが、この日は思い切りエンジンを回す。ヘアピンカーブを3速ギアで立ち上がり、その先の300R(半径300メートルの円を描くカーブ)のコーナーは、一気に9000rpmまで回した。
どこまでも回るエンジンと、その排気音に思わずしびれてしまう。加速感とエンジン音の共演により、体内のアドレナリンが吹き出し、ストレスは吹き飛んだ。
ダンロップコーナーを立ち上がり、正面にまだ雪化粧の富士山を眺めながら、再びエンジンにムチを入れる。連続するコーナーをクリアして最終コーナーを立ち上がると、長いストレートだ。各ギアできっちりと9000rpmまで回すと、ストレートエンドでは実測で285km/hに達する。こんな非日常の世界を手に入れることができるドライバーは、世界一の幸せ者だ。
さて、冒頭に述べたPDKの是非だが、ここまで速いスポーツカーならMTはかえって危険だと感じた。PDKであれば余計な操作から解放されるので、よりドライビングに集中できる。ドライバーに楽しさや気持ちよさを与えてくれるという意味で、PDKは大正解! これが、私の結論だ。
連日50周を超える走りに耐えてくれたブレーキやタイヤにも感謝したいが、どんなスポーツカーも万能ではない。もしGT3を所有することができたら、オーナーとして愛車の長所も短所も知ることが大切なのだと思う。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト)
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