スーパーカー業界がにわかに好調となっている。
たとえば、伊ランボルギーニの全世界販売台数は、ここ15年間で約12倍となる3245台まで伸ばしており、ポルシェも同様に近年数%ずつ現行モデルの販売台数を増やし続け、組織も巨大化の一途をたどっている。国内に目を向けても、地方都市でこそ流れは緩やかだが、東京、大阪、名古屋といった大都市では軒並み売り上げを伸ばしているという。
ではなぜ、スーパーカーが売れているのだろうか。
「もともと、スーパーカーというのはニッチな業界です。そのため、景気や時代の変化に大きく左右されやすかったといえます。しかし、近年この構図が変わりつつあります。新興国の経済が伸び悩んでいることもあり、メーカーがアメリカやドイツを中心とした欧米市場の開拓に注力するという原点回帰してきたのです。その結果、日本の市場はアメリカ、ヨーロッパに次ぐ安定した需要があるというのが世界の共通認識として広がってきたと思います。これまでメーカー側からみて重要性が低かった日本市場に対して、ディーラーのルートをより強化し始めたのがここ数年の動きです」
こう話すのは、スーパーカーの営業一筋30年のA氏。業界の特徴を見ても、国産の新車販売と比較して、仕事の仕方、景気との関連性、顧客へのアプローチの仕方まで大きく異なるという。
「若い世代の車離れが叫ばれて久しいですが、感覚的には若年層で起業して金銭的な成功を収める人の割合は増えてきています。そういった方々からすると、自動車はひとつの社会的ステータスでもあり、信頼にもつながるものです。1台で2000万円を超すスーパーカーは、一般の人が家を買うのと等しい買い物です。この業界の特徴として、オプションやカスタマイズを好まれる方が大半なので、1億円近い金額になることも珍しくありません。そのため、必然的に購入できる人は限られてきます。傾向としては、一昔前よりも比較的若い経営者層が増えているといえます」(A氏)
メーカー側からすると、安定した需要が見込まれるまでに成熟した日本市場。その背景には、中国でのビジネスが衰退しているという側面もある。同様に別メーカーのディーラーを務めるB氏によれば、中国市場の変化の影響は無視できないという。
「数年前まで、中国の富裕層がランボルギーニやフェラーリといったスーパーカーを買い漁っていました。ただ、その世代が年齢を重ね、今はその子供たちがメルセデス・ベンツ(独ダイムラー)や独BMWを購入していくという流れが定着化してきました。そのため、メーカー側も以前ほど中国市場に力を入れていないと感じています。衰退している理由としては、おそらく『子供が親より良い車に乗るのは良くない』という中国独自の文化認識があるのかもしれません。その結果として日本へのルートが強化されているので、少し複雑な面もあります」(B氏)
課題は人材不足
では、今後も国内のスーパーカー業界の未来が必ずしも明るいかというと、そうでもないようだ。その特殊ともいえる営業スタイルゆえに、人材の育成には長い時間を要する。
「今、直面している問題は、慢性的な人材不足です。もともとメーカーごとのディーラーで見ると、国内全体で10人いるかどうかという程度。国産車のようにガツガツとした営業が求められるわけでもなく、基本的に『待ち』の営業スタイルなので、足元を見られる若い人が担当するのは難しいところです。そのため、今も主力で販売しているのは、バブル時代を経験した50代という状況です。インセンティブは大きいのですが、なかなか売るまでに至らないため、離職してしまう人が多いのです。その結果、若いスタッフを育てようにも、そもそも続かないというジレンマがあります」(A氏)
スーパーカーの売れ行きが好調な要因には、メーカー側のモデルチェンジや復刻モデルの販売といった動きが盛んになっていることもある。だが、大きな時代の流れとしてスーパーカー業界に追い風が吹いているのは間違いない。その流れを絶やさないために、いかに人材を確保するかという課題は重くのしかかってきそうだ。
(文=編集部)